本宮
実道様の不思議な話を聞いた後、私は身構えていたが
結局、何事もなく深夜までの警護の任務を終え、
翌日に備えることになった。
ちょっと肩に力が入っちゃっていたかも……。
まあ、何事もなかったのは良いことよね。
……勘ねぇ……。
実道様のおっしゃっていることもよく分かる。
私は剣術だからなのかもしれないけど、
視線の端に何かチラッと過るものに敏感なところがある。
剣道は、始めっという合図がかかれば、360℃どこからかかってきても良い。
まあ、実際は対峙している時間が長いんだけどね。
そうすると、不思議と真後ろにいる人の気配は感じていたり
真っ直ぐ見ているはずの相手の事が、パノラマのように見える事がある。
趣味で続けた剣道経験者の私でも、このくらいの経験はするのだから
真剣のために稽古していた実道様は、
もっと第六感のようなもので感じることに長けているのかも。
伊吹様を見ていると、本当に呆気にとられる事がある。
伊吹様は、空間に向かって微笑んだり、頷いたり、
独り言のように話したり……。
あれでも、声に出さないように気をつけているらしい。
胡蝶様に怒られたんだって。
別に話せる事が悪いわけじゃない。突然で驚く人もいるから、
外ではなるべく静かに会話しろって。
胡蝶様の話だと家では、四六時中 誰かと話している日もあれば、
胡蝶様の仕事を、ず〜〜っと見ているだけの日もあるらしい。
「雫様、まったくね……、こんな面白い人は
何処の國にも、いやしませんよ」
そう言って豪快に笑う胡蝶様は 、とても幸せそうだった。
かたや実道様は、そう言えば難しい顔をしている事が多かった。
不思議に思って尋ねると、実道様は苦笑いしながら答えてくれたのよ。
「私は、伊吹様のようにハッキリとは分からないのです。
何が起こるのか、どうしたら良いのか、誰に対して気をつけなければならないのか。
だから、常に警戒しているのでしょう。伊吹様に、そんなことは分からなくて良いと言われて
救われた反面、このザワザワとした感触に、慣れぬ自分がいるのです。
分かっていれば……、分かっていれば雫の役に立ちましたね」
そう笑った実道様は、哀しそうだった。
「実道様、分からない方が良いですよ?」
思わず私は、率直に答えてしまった。
「えっ?!」
実道様は、珍しく驚いている。私の言葉に驚くのは久しぶりな気がする。
大抵は、私が驚くことを教えてもらうことの方が多いんだもの。
う〜〜んっと考え込みながら、それでも私は率直な感想を言ってみることにした。
「実道様、私、突然に皆に見えないものが見えるようになりました。
ご存知でしょう?」
「はい。それは、雫が影向様から選ばれた至宝様だから……」
「そこなんですよ!!」
おっと……、思わず力が入っちゃった。
驚いている実道様に、思わず勢いのまま話してしまうことにしたの。
「確かに、私は選ばれたんでしょう。でもね、だったら最初から
全てを殲滅してしまう力を、私に与えてくれても良いと思いません??」
「……それは……」
「私ね、これでも努力したと思うんですよ。
けっこう頑張りました。でも、まだ手探りです」
そういうと、実道様はハッとしたように口を開けた。
「実道様。実道様が1番分かってくださっていますよね?
私、暗闇を歩いているような状態なんです。
皆さんのおかげで、かろうじて手に明かりを持てたかも。
そういう状態なんです……」
「雫……」
「だからね、実道様のザワザワは、私への手助けになるんですよ?」
「……手助け……?」
「そうです、手助け」
ニンマリと笑った私を、実道様は、まだ唖然として見ていた。
「私は見えますが、ザワザワはありません。
いつでも突然に、誰かと対峙します。心の準備も、余裕もありません。
でも、……実道様のザワザワが、私への警告だとしたら?
……助かりますよ?!」
力を込めて、感謝を伝えたつもりなんだけど伝わったかな……。
口を開けっ放しの実道様を見て、少し心配になったけど
ここは押し通す!!!だって、予兆があるんだったら助かるじゃない??
「雫、……貴方、このザワザワだけで、助かっているというのですか……?」
実道様、目も口もまん丸です……。
「ええ、実道様。そのザワザワ、とっっっっても助かります。
良いですか?よく考えてみて下さい。私、いつでも突然自覚しなきゃいけないんです。
マズイ!!これは浄化しなきゃって!!けっこうキツイですよ?
無事に浄化できても反省だらけですからね?
だから、前もって気配だけでも分かるなら、本当に助かります」
なるべく笑顔で言ってみる。伝わるかな……??
しばらく口を開けたままの実道様を眺めていた。
そして、真顔になった実道様。 あれ?伝わった……?
「雫……、お前の言う通りです。
このザワザワ、お前のために役立てましょう」
そう言って、実道様は穏やかに笑ったのだった。




