視診
ブクマ、評価、ありがとうございます。
二日目も、穏やかに賑やかに街中では大祭が盛り上がっていた。
当然、剣士の部門もフル作業だ。
皆、盛り上がりすぎちゃって、やれ喧嘩だ、置き引きが出た、
スリも捕まえなきゃいけない、店主を脅すヤカラも出てくる。
普段見ていた、活気のある街中は、賑わいともに、
別の顔を見せ始めていた。
清志郎様が指揮をとる実働部隊は、淡々と、次々と成果を上げていた。
どうやら、大祭の時は普段の内定捜査の実績をあげる
大きなチャンスでもあるらしいの。
大祭に動くなんて、捕まってくださいって言っているようなものなのに……。
私が感想を漏らすと、脇の実道様が苦笑して
内緒にしておきなさい……、と言っていた。
私達、非番に見えますよ部隊は、まだ人がごった返していないこともあり、
こちらも淡々と、警備に当たっていた。
今日は、夕暮れから深夜までの警備なの。
医局の前を通りかかると、驚くほど人が溢れかえっていた。
「実道様、……これって……」
あっけに取られて、実道様を見ると、実道様は静かに微笑んだ。
「毎年のことですよ、雫。それほど、ここの医療を求める人が
多いのですよ。ほら、見てごらんなさい」
実道様の視線の先には、薬師の建物があった。
そちらも建物の前の長椅子いっぱいの人、
さらに、立って待っている人もたくさんいるようだ。
「雫、大祭の時は、医師の部門ももちろん混みますが、
薬師の薬を求める人の方が、多く訪れるのです。
ここまで来られない人の為に、地方の医師が依頼した薬を持って
家族や、周りの人の為に持ち帰ってあげる方が多いのですよ。
菊次郎は、たぶん薬を調合しっぱなしだと思いますよ」
そういえば、大祭の1ヶ月ほど前から菊次郎様は多忙なようだった。
変わらず道場には顔を出してくれていたが、雑談することもなく
医局に戻っていく。あまりにも忙しそうなので、お薬をいただければ
自分で塗りますと行ってみたのだが、菊次郎様は首を横に振ったのだ。
「いいえ、雫様。私が、実際に診て判断したいのです。
ご迷惑でしょうか?」
栗のような茶色い癖っ毛を、ゆらゆらしながら
真剣な緑色の瞳で問われると、……もちろんダメなんて言えなくて……。
「菊次郎様、本当に大変じゃありませんか?
大変な時に、大変と言ってくださると約束して下さい。
そうであれば忙しいのに、すみませんが診てください」
私が、頭を下げると、菊次郎様の顔がパアッと明るくなった。
……どうしよう、可愛い系だ……。なんとなく、蒼と同じ可愛さの予感が……。
「はい!!ありがとうございます。また明日、伺いますね?」
菊次郎様は満面の笑みで、その日も医局にすぐに戻ったのだ。
やっぱり、お薬をもらうか、私が医局に行けば良かったな。
そんな反省をしながら通り過ぎようとした時、
医局の建物から、やっぱり仁様がひょっこりと顔を出した。
私を見ると、珍しく汗をかいている仁様は
ニヤリと盛大に笑った。
実道様が、小声で
「いやな予感が……」
ボソッと呟いた時、逃すかとばかりに仁様の大声が響き渡った。
「いいところに通りがかった!!実道、お前時刻は大丈夫か?!」
「……一刻であれば、大丈夫ですが……」
「すまん、人手が足りん!!菊次郎のところから
包帯を取ってきてくれ!!」
実道様と私は顔を見合わせ、仁様に視線を戻した。
隣の建物にいく時間も、惜しいのか!!!
「分かりました。包帯ですね?」
「そうだ、あっ、それから茶を頼んできてくれ!冷めてもいいから
大量に頼むと言ってくれ!!」
そう言うと、仁様はすぐに中に引っ込んでしまった。
実道様と私は、急いで菊次郎様の所に行き、
このくらいあれば、今晩は足りるでしょうと
カゴいっぱいの包帯を届けた。
そして、その足で厨へ行き、女官さんにお茶を届けてくれるように頼む。
今日は、厨に蒼は居なかった。
ようやっと休憩所に戻って、お茶を飲み、一息つく時間は
かろうじて残っていたの。
「実道様、医局はスゴイことになるんですね……」
「驚きましたか?」
「はい、あそこまでスゴイとは……。想像外でした」
「雫の目で確かめられて良かった。あれは、どうにも言葉では
現すことが、難しいのだよ」
「本当、自分の目で確かめるって大事ですね〜」
お茶を飲みながら、しみじみ言った実感。
これが、後々の自分の中で、1番大切な言葉になるとは
この時はまだ、思いもしていなかった。




