報告
勇隼は清志郎からの報告を、苦笑いしながら聞いていた。
どうやら雫は1人でいる時、影と会ったばかりか、
ただ浄化させただけでなく、自分の気の操り方と影の特徴を
いっぺんに把握する方法まで試したらしい。
清志郎は、自分の判断が追いつかず申し訳ありませんと、
神妙に頭を下げていた。
雫は、こちらの予想を遥かに超えていた。雫の出す案も
聞いてみれば、なるほどと思うのだが、思いつきもしなかった。
そんな雫なのに、驚くほど抜けていることがある。
清志郎に指摘された、浄化の後の振る舞いなどは、
驚くほど無垢な者の考えとしか思えない。
「清志郎、雫は平穏な世界から来たのだ。
こちらの予想を超えていくほど、平穏だったのだろう。
剣士の様な者がいなかったのか尋ねたのだが、
それは居たそうだ。普通に暮らしていれば、
あまり関わることはないらしい。雫が世話になったのは、
落とし物をした時だそうだ」
「……落とし物……ですか?」
「雫達は、落とし物をしたり、反対に自分で拾ったりした場合、
番所の様なところへ届け出るのだそうだ。
そこで、落とし物を見つけるらしい。八割がた見つかると言っておった
硬貨が入っておっても、札入れは戻るらしい。運が悪ければ
硬貨は抜かれてしまうそうだ」
勇隼は、腕を組んで静かに清志郎に話し出した。
「清志郎、我が國の落とし物は、どのくらい返ってくる?」
「……調べたことがございませんので、はっきりとは……。
ただ、皆は落とした時点で諦めますので、三割……よくて五割かと……
札入れは、中身はなくなっているでしょう」
「そうだな、そのくらいであろう。清志郎、この差は大きいぞ。
罪を犯すものが居ない國なんてないと言っておったが……。
雫は、我らからすると、ほんの少しの注意だけで生きてきた。
つまり、気をつけなければならぬ状況は、限られていたと言うことだ」
「はい。そのように思いまする」
清志郎は、静かに考えていた。
雫の話だと、都は夜間でも煌々と辺りを照らす灯籠が
そこかしこに付けられ、一晩中空いている店もあるので、
女性であるのに、夜遅くまで歩けると言う。
雫は、それでも念の為、スマホとか言うすぐに相手と話せる道具を手に持ち、
防犯していると、周りに分かる様にしていたと言うのだ。
何やら機械に囲まれた暮らしをしていた様で、聴けば聴くほど
面妖な技術で、大丈夫なのだろうかと、こちらが心配になるほどだ。
その雫に、こちらに機械に似たものがあるか尋ねると、
一切ないと言われた。もちろん動力になる技術はあるが、
雫の世界は、それを一段どころか何百段も発展させたものだと言う。
その雫が、こちらにきて一切、機械のない生活をしている。
「蒼がいてくれて、本当に助かりました!!可愛いし……!!!」
雫の満面の笑みを思い出すと、本当に助かっているのだろう。
蒼がいなければ、火起こしから練習するところだったと言っていた。
しばらくの間、思案にくれていた勇隼は決断した。
「清志郎、雫に間士(忍び)をつける。気配を消すことに
長けているものを選ぶゆえ、お前も心得ておいてくれ」
「はい。もし、雫が気配を感じ取ったら、いかがいたしましょう?」
「こちらの間士であれば、素性を明かして良い。何か、雫が信じるものを
持たせよう。敵方であれば……、雫が倒すであろう。本当に、驚くほどに
強くなったからな。間士に対応できる稽古を入れよ」
「はい、仰せの通りに」
念の為の策を施して勇隼は、ふと肩の力を抜き、
笑いながら実道の様子を尋ねた。
「実道は、どうしておる?」
「雫を泣かせた自分が許せぬらしく、稽古の後
一刻ほど瞑想してから帰っております」
聞かれた清志郎も、苦笑いしていた。
雫の落ち込みっぷりも、かなりのものだったが、
実道の落ち込みっぷりは、その上をいっていた。
雫の方は、華が気を利かして、自分に付き合ってくれとい言い、
稽古とは、まるで反対のことを毎日せがんだらしい。
着物の生地を選んでもらったり、自分の持っている簪を
ああでもないこうでもないと、付け替えてもらったり、
花を一緒に生けたり。歌を作るので、批評してもらったり、
絵を書いたり。おかげで、雫はかなり気持ちが和らいだ様だった。
実道は、頑固なので放っておけと清志郎が周りに話したので、
そのまま自問しているらしい。仁が体調を気にして、
時々様子を見に行っているらしいが、実道は、頑なに
瞑想を止めようとはしない。
仁が清志郎に、そろそろ腰を上げては?と言って寄越していた。
「清志郎、そろそろ手助けしてやるが良い。あれは真面目で
実直な男だ。よくよく考えたであろう。まだ若いゆえ、
答えが見つからぬ時に、浮上する術を知らぬ。
仁や菊次郎と、飲みにでも連れていくと良い」
「はい、お館様。その様にいたします」
清志郎は、穏やかに答えた。
「さて、清志郎。こちらの探索も本腰を入れればならぬ。良いな?」
「御意に」
勇隼の次の段階への手筈に、清志郎は短く答えたのだった。




