季節
私は、私の小鬼、蒼のありがたみを毎日のように噛み締めていた。
なぜかというと、それはこの國の四季に関係するの。
こちらにも四季があったのよ。
私が呼ばれたのは、ちょうど初夏だった。梅雨ではなかったので、
それは精神的に助かった。
経緯を考えると、自分もジメジメしそうだったんだもの。
アスファルトもないし、木陰もたくさんあるとはいえ、
夏真っ盛りに、剣士の格好で夏バテにならないかなって少し心配していたの。
そろそろ暑くなってくるなと思っていたある日の夕暮れ時になって、
蒼が部屋にやってきたの。彼は、大きな団扇を手に持って、
大きな桶をもった女官さんと部屋に来て、
桶を部屋の隅に置いてもらっっていた。
驚いて、女官さんを見ると、彼女は笑っていた。
「雫様、蒼がいてようございました。これで夏も涼やかに
お過ごしいただけますよ。蒼は優しくて、皆に
これを用意してくれたのでございますよ」
なんのことかわからず、蒼に声をかけると、
蒼は、いつものようにニコニコしながら私に抱きついた。
「蒼? ありがとう。何かしてくれるのね?」
ギュッと抱きしめてやると、嬉しそうにキュッと鳴いて、膝から降りていく。
そして……、蒼は桶のところへトテトテと走っていくと、
桶の前にしゃがみ込んで、ジッと桶を見ているようだ。
そうしたら、突然に桶の中に大きな氷の塊が現れたのよ!!
声も出ずに、口も開きっぱなしになっていたと思う。
蒼は、変わらずニコニコと大きな団扇を手に取り、
氷の上に放り投げたの。
そうしたら……、団扇は優しく大きく氷をあおぎ出したのよ!!
当然、部屋に冷風が流れ始める。天然自動クーラーだ……。
「蒼……、ありがとう。お前、そんなに力を使って大丈夫なの?
ほら、ギュってしよう?」
声をかけると、蒼はやっぱり嬉しそうに私に抱きついてくる。
ギュッとしながら背を撫でると、とても嬉しそうに鳴いた。
女官さんの話だと、私の所にくる前に、女官さんの手を引き、
桶を持ってくれと頼んだらしい。そうして、住み込みの女官さんの部屋に行き、
自動冷風機を出したらしいのよ。もちろん女官さんの小鬼もいるから、
みんな蒼のやり方を見ていたんだって。
そうしたら、蒼ほど大きな氷では無いけど、小さな桶に氷を出して
小さな団扇であおぐ装置を、色々な場所に置き出したみたい。
次に蒼は、なんと勇隼様と桔梗様の私室に行って、同じものを出したみたい。
キュッキュッっと鳴いてたと思ったら、
勇隼様がなんとなく蒼の言っていることが分かったらしく、彼に答えたんだって。
「そうか、お前は私に許可を取りに来たのだな……?
ふむ、もちろんありがたいから、出してくれて構わないが
お前達は大丈夫なのか?大きな力が必要であろう?」
「キュッ」
「そうか、では頼もうか。まあ、すでに色々な所に出してもらっているらしいが……」
「キュッ?」
「良い良い、気にするな。くれぐれも、お前達の具合が
悪くなら無いようにするのが条件だ。良いな?」
「キュッ」
蒼は、ちゃっかり桔梗様にタップリとご褒美をもらって、
最後に私の部屋に来たという訳。
勇隼様が、桔梗様に褒美をもらう蒼をみて、笑っていたそうだ。
こうして私は、夏真っ盛りの中でも、夕暮れ時になると
屋敷中に冷風があるために、激しい稽古に耐えられたのよ。
不思議な事は、今まで蒼のような小鬼はいなかったらしい。
つまり自分でアイディアを出す小鬼の事。
この國に人達は、賢い。小鬼を利用しようとする人は、
厳罰に処せられる。もう何百年も前に、小鬼を怒らせたときの話が
語り継がれているそうで、国庫の文献にも、その様子が載っているらしい。
それ以来、自らが処罰に乗り出す事で、小鬼に敵意は無いって示すんだって。
まあ、そんなことをやる気になる人も、もう出てこないだろうって……。
……ちょっと怖くて、どんなことがあったのか、聞きたくないなぁ……。
勇隼様は、口外しないように通達を出して、
予防線を張っていた。
こうして、私の稽古も順調に進み、
日に日に秋の空気に入れ替わってきたとき……、
伊吹様の予言通り、事態は動くことになるのだった。




