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紫雲の國の玉水の恵み  作者: テディ
一の巻
31/153

可視

 伊吹様と話してからの私の成長は、自分で言うんのもなんだけど

目覚ましいものがあったと思う。


実はあのあと、千隼様と随分と話し込んだ。千隼様は、誰にもない才能に

憧れていると話していた。彼は、充分才能があると思うんだけど、

本人にしか分からない、渇望を持っているようだった。

私は、毎日千隼様と話す機会があった。普段の彼は、とても穏やかで

気負ったところのない人物だ。私が千隼様の年の頃は、

もっと子供っぽかったと思う。彼は、言うなれば軍師だ。

策を考え、準備する。その能力は誰もが認める所だろう。

研究熱心だし、それは政策にも人事にも、いかん無く発揮されている。

洞察が深いのだ。そして、ここが1番すごいと思うのだけれども、

奇策に打って出ることもできた。

何かの信念がないと、なかなか出来ることではないと思うの。


それは剣士の稽古の時に、気がついたの。真っ直ぐな太刀筋。

でも真っ直ぐなだけでは勝てない。

だから力技は、まだ届かない相手がいても、彼は相手の弱みを一瞬で見抜く。

そして、罠にかけるのだ。相手が優位だと思っているうちに

わざと自分の懐に入れ、あっという間に形成を逆転してしまう。

負けた方は、訳がわからない。1番マズイ負け方なの。

なぜ負けたのか、理由が分かるときは問題ない。でも理由がわからないと

なかなか、そこから抜け出せなくなってしまうのよ。

私達は動画があった。スマホで撮っておいて見返せばいいんだもの。

でも、この世界に動画なんてない。

師匠に聞いて、自分で掴み取るしかないの。

そんな勝ち方が出来るなんて、才能でしかないと思う。

力技は、身体を磨けば出来るようになる。

でもそんな才能を持っている千隼様でも、

清志郎様は彼が伸びる方向が分かるらしく

時折、いくつかアドバイスをしていた。


「千隼様、充分うらやましいですけどね?

千隼様のお年で、これができたら一年後には

怪物のように強くなるんだろうなって、誰でも思いますよ?」

「そうですか? 弱いから工夫しなければならないので……」

困惑している彼に、私は笑い出してしまった。

「4歳しか年上でない私が言うのも、説得力にかけるのかなぁ。

うん、でも元の世界でも色々なタイプの剣術士を見ましたけど、

千隼様のようなタイプは、もっと師匠くらいの歳になってからじゃないと

いませんでしたよ? 今の年齢でそれが出来るって

それって千隼様だけの才能でしょう?」

そう言うと、千隼様は再び目を丸くしていた。

私の話は、そんなに驚く所だらけなんだろうか……?

「……雫様、ありがとうございます。でも一つ心配があるんです」

「心配ですか?」

「ええ、歳をとれば誰でも力が衰えるでしょう?

そうなった時、剣士としてどの道を歩めば良いのか……。

それが心配なんです」

そう打ち明けてくれた千隼様に、ようやっと核心に近づけた気がして

私は心底ホッとしていた。なんだ、そこか!!

「千隼様、千隼様はいつでも1番でいたいですか?」

「1番……?」

「お話を伺っていると、そう聞こえます。でも普段の振る舞いは

そう思っているようには見えません。すごく意外なんですよね」

「1番と思ってはいませんでした。でも……そうですね、

見本である人になりたいと思っています」

それを聞いて私は、千隼様が立派だと思ったの。

だってこの國は世襲制じゃない。自由に生き方を決めて、

努力すれば好きな職業、人物になれる。

周りに尊敬できる人が居るからこそ、そう思うんだろうけど……。

でもそこを目標にするのは、千隼様自身が立派だと思うのよね。


「千隼様、答えになるかどうか分かりませんが、

私の実体験を一つお話ししますね」

そう言うと、彼は律儀に頭を下げた。

「確かに、体力の衰えは勝利に繋がらなくなる時がやってきますよね。

でも、全員に負ける訳じゃない。私の元の世界の大師匠、

師匠の師匠なんですけどね、

80歳だったんです。私が現役で稽古に打ち込んでた時は

70代だったんじゃないかな。一回も勝てませんでしたよ?」

「えっ?!」

「でも今ならよく分かるんです。

今よりもっと未熟だったんで、それは勝てないですよね。

もちろんその時の師匠も、俺も勝てる気がしないと言っていました。

当然、ひよっこの私達は、一回も勝てませんでした」

そう、今なら分かる。自分がいかに未熟だったか。私たちの真っ直ぐな剣筋や

弱点なんて、お見通しだっただろう。まあ、どんなに本気で向かっていっても

風が脇を通り抜けるように、簡単に交わされて、そこをパンッっと一本。

……笑えるほど簡単に一本取られていた。

「千隼様、何十年も修練した人が、たった一回、打ち込みに負けたくらいで

ひよっこに負けるわけはないでしょう?あそこまでいくとね、もう仙人ですよ?

それで良いんじゃないですかね?」


千隼様は、目を丸くしたままジッと考え込んでいるように見えた。

「千隼様、……内緒ですよ?約束してもらえますか?」

「雫様、……何ですか? もちろんお約束します」

「私達ね、何で負けたか分からなかったんです。

自分たちに自信もありましたしね。だからね、悔し紛れに大師匠のこと、

隠れて妖怪って呼んでました」


テヘヘって顔で打ち明けてみると、千隼様はさらに目を大きくして

固まってしまったの。……う、……怒られるかな……?

そう思って、しまったかしらと千隼様を伺っていると、

千隼様は、突然クスクスと笑い出した。

「……雫様、……それは……」

彼は、誤魔化すように咳払いすると、にっこりと微笑んだ。

お、良かった。いつのも笑顔だ。


「雫様、……私も周りが憎まれ口を叩いてくれるほどの仙人を目指します。

それが良い気がします」

千隼様は、晴々とした顔をしていた。

うん、さすが千隼様。例え剣士でなくとも彼は尊敬される人になるだろう。

「そうそう、千隼様。その笑顔の方が千隼様らしく見えますよ」


そう言って私達は、笑い合ったのだった。

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