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紫雲の國の玉水の恵み  作者: テディ
一の巻
30/153

感知

 いったん蒼の話で、空気が和んだようだったので、

私は思い切って、鬼火の話も聞いてしまうつもりだった。

いったいどの位の種類があるんだろう。


「伊吹様、次は鬼火について伺いたいんです」

「はい。先日、鬼火を見かけられたとか?実道様にお聞きしましたよ」

「あれは、赤い鬼火に見えました。珍しい鬼火だと伺っています。

鬼火は、どの位の種類があるんですか?」

私がそう尋ねると、伊吹様は懐から3枚のお札を出して、

机に綺麗に並べた。どれも書いてある文字が違っているように見える。

「雫様、鬼火は沢山はいないのです。怒り、悲しみ、恐怖。

人は、様々な感情を持ちますが負の感情の中で、この三つだけが

置き去りにされることがあるのです。なぜ人がこの感情を置いて

空へ帰っていくのか、それははっきりとは分かっておりません。

自分の中で消化されなかった時に、残るのではと考えております」

「そうなんですね。全部が置いていかれるわけではないんですよね?」

「ええ、本当にほんの一部の出来事なのです。

私達祈りの民は、それをも浄化するためにおります。

歴史的には、たった1人の鬼火と話せる者から初まった浄化です。

だんだんに出来る者が増え、國の中の一つの役割となりました。

怒りは赤く、悲しみは青く、そして恐怖は黒く……。

ですから、本当に難しいのは恐怖なのです。

闇夜で見分けがつきにくいこともありますから」

「伊吹様、実道様は鬼火が変異しなければ

そう怖い物ではないと言っていました。変異とは、どうなるんですか?」

「変異……。長く見つけられなかった鬼火は、寂しさの余り

他の鬼火を取り込んでいくのです。ですから見つけ次第

浄化することが大切です。この教えを守っておりますので、

我が國では、まだ被害がありません」

「と、言うことは……、他の國では被害があるということですか?」

「……ええ、でも何百年も前の話です」

私は、思わずゴクリと喉鳴らして尋ねた。

「その被害っていったい……?」

「……人が、感情に取り込まれるのです。弱さにつけ入れられる。

そして本人の意識はなくなってしまい、感情を支配されます。

こうなってしまうと、その人物も浄化しなくてならなくなります。

助けてあげられないのです」


それは、……なんて悲劇的な被害だろう……。

本人だけではなく、その周りの人達も不幸になってしまう。

それは誰でも必死になって止めたいはずだ。

……ああ、だから実道様は、あんなに穏やかな表情でお札を切ったんだ。

まだ救ってあげられるから。あの動作に愛しみがあったなんて……。


「伊吹様、ようやく分かりました。あれは退治するのではなく

救済なんですね?」

「雫様、……心が届いて嬉しゅうございます。

その通り、ほんの少し手助けするだけです。道で転んだ人に

手をお貸しするのと同じこと。人として普通のことなのです」


私は、私の中の見方を改めるしかなかった。

私が、対峙しなければならないものは、みるからに怖くて触りたくないもの。

だから退治するために、稽古しているんだと思っていた。

でも、違う。そう、大きく違っていた。

あの影に光を照らさなければならなかったんだ。

退治するために稽古するのと、救うために稽古するのでは、

心持ちに大きな差が出る。例え結果が同じことだとしても……。


私は、他の人の気は見えたけど、どんなに頑張っても自分の気が見えなかった。

たぶん理由はこれだ。そう確信があった。

私に、救いたいと言う願いがあれば自分の気が見えるかもしれない。


私は、姿勢を正して真っ直ぐに伊吹様を見た。

「伊吹様、お話してくださってありがとうございました。

手がかりが一つ、目の前に見えたように思います」

そう言って、頭を下げると、伊吹様は微笑みながら首を横に振っていた。

「いいえ、雫様。何もかもが必然です。貴方は努力しておられる。

いきなり別の世界に呼ばれ、怒って出て行っても良かった。

無理難題を言われているのだから、贅沢をさせろと言っても良かった。

でも、貴方は目の間の親切に、礼を踏み外すことはしなかった。

そういう貴方様の姿勢が、周りの者の尊敬を集め、

いずれ強大な善意になる。それは雫様のお力なのです。

どうぞ、ご自分を信じてください。私どもに微力ながら

お手伝いさせていただきたいのです。

どうぞ、どうぞこの國を、安寧に暮らす人々を

よろしくお願い申しまする」


伊吹様は、そう言って深々と私に頭を下げてくれたのだった。

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