祈念
私は、剣士の部門に属していた。でも皆の任務とは異なる別働隊だ。
基本的に、今はまだ稽古に明け暮れるだけ。
そして気を見たり、大きさを把握する練習。
稽古中だと、ついていくのが精一杯なので、
30分だけ見学の時間をもらっているの。
最初は、清志郎様と実道様の気だけがハッキリと分かっていた。
身近に感じていたからなのかな。
なんで気がつかなかったんだろうと思える位、
とても分かりやすかったの。
そのうち、徐々に他の人の気も見えだしたの。
色は皆が一緒だった。稽古が白熱すると気の玉が、
どんどん大きくなるのがわかる。
そして、稽古に真摯に向き合ってない人も分かるようになってしまった。
でも、清志郎様には話していない。だって、体調が悪いだけかもしれない、
大切な人と喧嘩しただけかもしれない。
そして、私が口を出すことではない。清志郎様が、きちんと見ているから。
清志郎様は、すごい。気なんて見えなくても、誰の調子が良くて、
誰の集中力が伸びてきているのか、全部分かっている。
だから、私が口を出すことではないの。
「雫、今日はどうだ?」
「はい、昨日より人数が多く見えるようになりました。
でもひと目見て、という訳にはいきません」
「……そうか、昨日より進歩したか」
清志郎様は、そう言って微笑んだ。清志郎様は小さな進歩でも
必ず褒めてくださる。全員にだ。立派な指導者だと思う。
そんな清志郎様から、一つ指令が降りた。
「雫、今日は伊吹のところへ行ってきなさい。そろそろ頃合いであろう。
祈りの民から、話を聞いてくるように」
清志郎様から提案されるのは、とても珍しい事だ。
大抵は、周りの提案で許可が降りるか降りないか。
そのような判断のなさり方だったので、私は少し驚いた。
「はい、分かりました」
「屋敷内なので、千隼様がついてくださる。
汗を落として身を清めてから行け。
なんでも聞いてくると良いぞ」
そう言われて、私は急いで汗を落とした。
蒼がいてくれるおかげで、簡単にお湯を出してくれるのだ。
「ありがとう、蒼」
こざっぱりと着替え、髪を吹いていると、蒼が私に座れと手招きしている。
「どうしたの?抱っこ?」
ありがとうの気持ちを込めて、蒼をギュッとすると
蒼はニコッと笑って、私の髪にふう〜っと息を吹きかけた。
……かっ……乾いた?!?!
驚いたことに、蒼は私の髪を乾かしてしまったのだ。
そんな技、聞いたことないけど、皆はやってもらっているのかな?
「蒼、ありがとう。もう乾いたよ。蒼は、すごいね〜〜」
そう言うと嬉しそうにキュッと鳴いて、テトテト歩いて
何処かへ行ってしまった。
恐るべし、小鬼……。可愛すぎて、こっちがやられちゃうよ……。
伊吹様は、社の隣にある作業場で待っているそうだ。
千隼様と一緒に向かうと、そこは全て白木で作られた建物になっていた。
わあ〜〜、社務所見たい……。
作業するスペースなんだろう。長机の前に伊吹様は待っていた。
「お二人とも、ようこそ。どうぞそちらへ」
彼が指し示した場所には、もうお茶が出ていた。
「雫様、足を運んでいただき誠にありがとうございます」
伊吹様は、私に深々と頭を下げた。敬称も敬語も無しでとお願いした私に、
断固として拒否したのは伊吹様だけだ。
どうしてもできないので、お許しくださいと言われてしまえば、
もうどうしようもない。他の人は普通に接してくれているので、
しょうがないかと諦めたの。
「伊吹様、こちらこそ時間をとっていただいてありがとうございます」
私もお礼を言うと、伊吹様は紫色の瞳をふっと和らげて微笑んだ。
「何をおっしゃいます。雫様のことが、私の最優先なのですよ。
いつでもいらしてください」
この人の笑顔も、桔梗様と同じくらいの威力がある。
伊吹様を好きになる子は大変だろうなぁ。
「ゆっくりお話ししましょう。雫様の質問が思いつきやすくなるかもしれません」
「ありがとうございます。それでは……、
祈りの民には、どうやってなるんですか?」
この人達は、特別な能力を持っているのかもしれない。
そう思って聞いてみることにした。
「簡単ですよ。お札が作れれば良いのです」
ニコニコしながら話す伊吹様に、千隼様から注釈が入った。
「雫様、伊吹殿は特別なのです。
例えば剣士は努力でなることができるかもしれない。
学士も、薬師も、医師もそうですよね?
でも祈りの民は、努力ではなく生まれ持った能力が必要です」
やっぱり……、天才って、皆できますよくらいの人じゃないとね〜〜。
かっ飛んでいてくれないと、こっちがへこんじゃう。
「伊吹殿、努力でお札は作れませんね?」
「……そう言われればそうですね。千隼様、思いつきませんでした」
伊吹様は、本当に思いつかないようだった。
千隼様がついてきてくれた理由が分かった。
これは、通訳が必要だ……。
この通訳を頼りに、祈りの民の秘密に近づいていこう。
私は、伊吹様と千隼様の顔を、交互に見比べるのだった。




