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紫雲の國の玉水の恵み  作者: テディ
一の巻
27/153

平癒

  初めて鬼火を帰化した場面は、儀式のように美しかった。

やっぱり外を歩こう。そう決心して屋敷に帰ってきたのだ。

出かける前の私は、社会見学のような浮かれた状態だった。

でも実際に体験すると、思ってもいなかったことに

次々と遭遇する。稽古だけでなく、実体験を増やすことも

大切なことのように思えたのだ。


夕餉の前に、屋敷の明かりを灯して戻ってきた私の小鬼、

蒼は、いつものようにトテトテと歩いてきて、私の首に抱きついた。

ご褒美のギュッとする時間だ。

実は、この時間が私の癒しの時間になっていた。

蒼は、人の言葉は話さない。でも表情もあるし、鳴きもする。

その蒼に、色々なことを一方的に話して、一日を終える。

そんな時間が、とても大切になっていた。


「蒼、今日はどうだった?お友達と遊べたの?」

私が質問すると、時々キュッっと鳴いて返事をする。

その鳴き方で、なんとなく蒼の気持ちがわかるのだ。

「そうか、よかったね。今日も、手伝ってくれてありがとう。

私はね、ご飯屋さんに行ってきたよ。美味しかった。

蒼の仲間が、楽しそうにお手伝いしていたよ」

いつものように、あれこれと思いつくままに話しかける。

そうしていると、蒼はいつの間にか満足して、抱きついていた腕を離し

膝の上でニコニコするのだ。

そして夕餉のために、誰かが私を呼びにきてくれると

蒼は、仲間のいる天井裏に戻っていくの。

ただ、……どうやって天井裏に入るのか見たことがないのよね……。

どこかに入り口があるんだろうか?


今日の夕餉も、美味しそうなものばかりだ。

私は、初めてもらったお給金で、お土産を買ってきていたの。

よかったよ、お給料出たよ。衣食住、全て面倒みてもらっているから

お給料があるなんて、思いもしなかったの。

勇隼様に呼ばれて、初めてお給金をいただいた時は固まってしまったもの。

お土産は、屋台で売りにきていたお団子。砂糖や、植物の汁を煮詰めたものが

調味料として使われるんだって。上には、あんこがトロッっとかかっている。

桔梗様と華様は、甘いものがお好きみたいで、とても喜んでくださった。


勇隼様は、食後のお茶を美味しそうに飲みながら、

今日の出来事について知りたがってたの。

「雫、今日の料理屋はどうであった? うまかったのか?」

「はい、食べ処という店に入って、青菜のヌタと刺身をいただきました。

美味しかったですよ。貨幣については、慣れるしかありませんね。

まだ、物の価値がはっきり分からないので……」

「そうか、少しずつ慣れると良い」

「小鬼をちらほら見つけました。みんな楽しそうに手伝っていたので、

平和なんだなと思ったんです」

「そうか、それは嬉しい知らせだな。他にはどうであった?

食べ物は大丈夫そうなのか?」

「はい、どれもこれも知っている食べ物でした。売っている形態が

違っているだけです」

「……どういうことだ?」

「そうですね……、例えば天ぷらや寿司は、私の世界では

店を構えて、どちらかと高級な食べ物として商売しています。

屋台は店を出すのに許可が必要で、香辛料をたくさん使った料理や

お弁当、飲み物だけの屋台とか種類が多いんです。

それを買って、仕事場で食べたりするんですよ」

「ほお、そうなのか。土産に甘味とは、なかなか(いき)なことをしてくれる。

気を遣わせたな」

「いいえ、喜んでいただければ嬉しいです」

私が、そう言って頭を下げると、桔梗様と華様が嬉しそうに

感想を話し始めた。

「雫姉様、このお団子は、どこに店があったのですか?」

「それがね、店じゃなくて屋台で売りにきていたの。

あ、大丈夫よ。実道様と毒味はしたから。美味しかったので

包んでもらえるか聞いたら、屋台なんだから包めるよって笑われちゃって……」

恥ずかしくなって、少しうつむくと千隼様が驚いていた。

「実道様、雫様が毒味するのを、よく許しましたね」

「……それが……お二人が、他の屋台の主人と話しているときのことだったから、

実道様が気がついたときには、もう私の口の中に、お団子が入っていたの……」

余計に恥ずかしくなった私に、勇隼様は笑い出した。

「まあ、それも経験。次から気をつければ良かろう」

「はい……。実道様に、とても怒られたので……。次からは気をつけます」


桔梗様も、お団子のお皿を持って、つられて笑っていた。

「実道殿では、静かに懇々と諭されたことでしょう。ふふふ、

下手なお説教より効き目がありますね」

「はい、結構こたえます……」


への字口になった私に、勇隼様はまだ笑っていた。

「雫、窮屈ですまんな。慣れるまでの辛抱と思って、

連れの信用する店を覚えることから初めてくれ」

「はい、もちろんです!! 実道様、正論なので、こたえるんですよねぇ……」


遠い目をした私に、みんなで笑い合った和やかな夕餉のひとときだった。





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