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紫雲の國の玉水の恵み  作者: テディ
一の巻
25/153

火影

  街は、とても賑わっていた。この世界の食事は、私を驚かすようなものには

まだお目にかかってはいない。そこだけは本当に良かったと思ってる。

物語のように、毎日三食を洋食だったら……。想像しただけで気が重くなる。

毎日三食食べられることに感謝しなければいけないのだろうけど、

和食は恋しくなると思う。私だったら、小麦粉でお米を作っちゃいそう……。

リゾットにするために……。そして、任務なんてほったらかして海に行き、

ダシを取れるものを探し出しそうだ。海、あるよね……?川でも良いけど。


もちろん、カレーが食べたくなる時もあるし、デミグラスソースのシチューも

食べたくなる時もある。いつかオムライスも食べたいし、

ケチャップもソースも作りたい。

ああ、中華はもっとハードルが低く作れるよね。

でも、毎日のダシとお醤油で満足する私……。

お塩も捨てがたいけど、お醤油最高!!って思っていたりする。

そんなこんなで、ありがたいことに食生活に不自由はしていないのよ。


今日は、屋台や、街の評判の食堂に連れて行ってもらうんだって。

そのうち、社会勉強として割烹や料亭も行こうと言われている。

……なるべく庶民のお店で、お願いします……。


まず、一つの大きな通りに出た。ビッシリお店が並んでいるわけではなくて、

一軒一軒、離れて建っている。

見ていると、小鬼がチラホラ楽しそうに手伝っている。

野菜を運んだり、カマドの前で、うちわをあおいでいたり。

「橙矢様、小鬼ってよく見かけるものなんですか?」

「そうだな、商売人の家には多いかもしれないな。

小鬼は働き者が好きだと言われているのだ」

「普通の家には、たくさんいるものなんですか?」

「いいや、いても一鬼だ。小鬼がくれば幸せが来ると考えられている。

そのくらい、普通にいるものではないのだ。お前は、例外らしいが……。

居てくれれば、家の仕事がはかどる。そうすれば時間に余裕ができるであろう?

寒い日も、朝早くから起きて火起こしの準備も、

夕暮れの寒い時に風呂の炊き出しもしなくて済むからな。

豊かな生活の象徴なのだ」

「なるほど……、それはこの世界では大きな差になりますね」

そう言えば、女官さんからも聞いたことがある。小鬼に好かれる女性は

女官や、料理人、宿屋で就職しやすくなるんだそうだ。

店の主人は、小鬼に好かれる働き者を粗末に扱わない。

だから、とても幸運なことなんだと言っていた。


少し歩くと、色々な店の看板が目に入る。良かった、看板読めるようになったよ……。

食べ処って、食堂だよね? あ、鰻屋がある!!! そうか、どじょう鍋もある。

屋台は……、空き地に何台か出てるんだな。

お蕎麦に、ぼた餅、天ぷら、ああ、お寿司も屋台だ。

この世界は、江戸時代に似ている。あくまで似ているだけだ。

建築法は色々な時代が混在しているし、風習もそうだ。

これが、私の混乱を招く元でもあるけど……。

髪型などは、完全にどの時代にも似ていない。強いて言えば現代だもの。

でも服装は、和装で、職業によって決まったものを着ている。

ユニフォームのような考え方。

あくまでも私の知識と似ているかどうか、なのよねぇ。


「雫、御行儀に気をつけなさい。キョロキョロしてはいけないと

話したでしょう?」

「……! すみません、実道様……」

「まあ、珍しいのだと思うけれど、気をつけなければいけませんよ?」

「はい……」

「さあ雫、何か食べたいものはありました?」

実道様は、私の気分を入れ替えるかのように微笑んだ。

……うなぎも捨てがたい……、でも……。

「はい、皆が食べる普通の昼ごはんが食べたいです。

それには、食べ処ですか?」

「ええ、それが皆がよく利用するところですよ。橙矢様、いかがでしょう?」

「いいだろう。1番最初に覚えなきゃならない場所だ」

そう言って、私たちは店の暖簾(のれん)をくぐった。

この暖簾が、開店しているかどうかの目安になるんだって。


中は御座敷になっていて、店の主人が、

橙矢様は、仕事をしているときとは違い、ただの着流しだけど奥の席にしてくれた。

実道様と私が剣士の装いだったのもあるんだと思う。

お品書き、メニューを見ると煮物が多い。でも昆布と野菜を煮た物などで、

海藻があることは分かった。魚だけでなく、お肉もあるのが意外。

鴨、鳥、ブタ、牛、全部庶民の食べ処にあるなんて……。

酪農も発達しているのかな?


私は迷いに迷って、おすすめを食べることにした。

それは定食のようになっていて、ご飯とお味噌汁、

青菜のヌタと刺身。ああ、体に良さそうで嬉しい……!!!

お刺身は、頻繁に食べているの。だから、魚料理が身近なんだろうとは思ってたのよ。

でも、お肉がこんなに種類があるとは思わなかった。

食事を食べながら、質問を続けることにした。

「橙矢様、酪農……えっと、動物の飼育は発達しているんですか?」

「それは食す動物についてか?」

「はい」

「そうだな、海とは反対の高地に、生産地がある。

昔、その者たちは山賊だったのだ。何代か前のお館様が、

生業の方法を教え、真っ当な暮らしができるように取り計らったのだ」

「ああ、なるほど。捕まえるだけでは争いが増えるだけですものね」

「……雫、お前、本当に庶民だったのか?随分と政策もできそうだが……」

「橙矢様、生粋の庶民です。私たち、希望して学費を納めて試験に通れば、

浪人や留年、えっと……学校を休まずに試験を通れば、

27,8歳まで勉強できる国だったんです。国の仕組みは10歳前後から

勉強を始めるんですよ。この国は隼が國主を選ぶでしょう?

私たちは、投票……、ええと入れ札でまず国仕事をする人を選びます。

その人たちが國主を選ぶんですよ」

「なるほど、……でもそれでは公正さが難しいな」

「さすが、橙矢様。ふふっ、そうなんです。だから私には隼が選んだという方法の方が

とても簡単に思えます。皆が納得しているから、できる方法ですけどね」


思いつくことを、そのまま話して食事は堪能できた。

ご主人、美味しかったです!!お刺身、最高!!


食べた食べたと、満足してお店を出たとき、

目の端に炎が見えた。……あれ?!……あんな所に……?

「実道様……」

店の脇の細道の先に、空き地が見える。

そしてその先に、やっぱり炎が見える。……浮いてる……?

実道様は、サッと無表情に戻った。

「橙矢様、あちらに……」

橙矢様は、私たちの視線の先と、私を交互に見比べ、

実道様を見た。そして、もう一度私を見ると決断した。

「雫、あれは鬼火(おにび)だ。行くぞ」


ええ〜〜?!?!?!行くのっ?!

静かに小道に入る2人の後を、私は慌てて追いかけたのだった。

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