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紫雲の國の玉水の恵み  作者: テディ
七の巻
151/153

提案

 私が気を込めようとした時だった。

菊次郎様が、震える声で私に待ったをかけたの。


「雫様、お待ちください……」

その声にも、私は影から視線を外すわけにはいかない。

「菊次郎様……?」

問いかけると、背後から菊次郎様の声が続いた。


「雫様、実は伊吹様たちと相談して、試そうと思っていた道具がございます」

「道具?」

「ええ、以前に聖なる葉はないのかとお尋ねでしたね?

どのような効能になるのか、確証がございませんが、

試してみたいのです」

「試す?どうやって?」

「雫様の隣まで近づいてもよろしいですか?」

尋ねる菊次郎様は武人ではない。屋敷内に勤める人だから

基礎的な武術の訓練はうけているけれど、荒事には向かっていない。

でも、たぶん大丈夫だろう。

「大丈夫です。ゆっくり静かに、こちらへいらして下さい」

私が、そう答えると背後で頷いた気配がした。

そして、薬師特有の香りが漂ってくる。

菊次郎様は、いつでも薬湯の匂いがするの。

それが不思議と嫌な香りではない。


静かに隣にたどり着いた菊次郎様の白い掌に、

濃い緑色のトゲトゲした葉が乗っているのが目に入る。

あれ?……これって……。


「雫様、鬼柊です。こちらでは験担(げんかつ)ぎとして

庭木に植える者が多うございます。

魔除であったり、縁起のよいことがやってくるようにと植えるのです」

話し出した菊次郎様は少し顔色が戻ったようだ。

「詳しいことは後ほど……。影がこの葉を嫌うかどうか試したいのです」


試す……?


「私が、雫様のおっしゃる方向に鬼柊の葉を投げます。

無事に浄化できたら、その様子をお教えいただきたいのです」


そうだ……、菊次郎様は見えないんだった……!!


「分かりました。どのくらいの距離を投げることができますか?」

「鬼柊は硬くて丈夫な葉です。半間(90cm)ほどなら正確に届くかと……」


それを聞いて、私は思わずホッとした。

もっと近づかなくちゃいけないかと思っていたんだもの。

それなら浄化する時の距離としても充分だ。


「分かりました。では行きますよ。私の側から離れないでください」

そう言って、ジリジリと近づくものの怖さに鳥肌は止められない。

もう、先輩ってば!!!土産って……、そんなの嬉しくないっっ!!!

……あれっ……??


「雫、またな。土産だ。これはまだ、お前に助けてもらえるだろう」

そういえば、先輩変なこと言ってたな。作り出したのに助けてもらえるって……?


私に考え事をする余裕があったのは、ここまでだったの。

いやいや、良く考え事ができた。そう思った方がいいかな。

切り替えて!!集中しなきゃ。


「菊次郎様、未申(ひつじさる)の方向、道が見えますね?」

「はい、見えます」

「その方向に、菊次郎様の頭と同じ高さに鬼柊を放ってください」

影が目の前に居るとどうしても小声になってしまう。

この影に言葉を理解する力があるとは思えないのに……。


菊次郎様は、硬い表情で口を真一文字に結んで掌をひらいた。

それに合わせて、私は、足を踏み締めて構える。

「いいですか、放ったらすぐさま仁様の所へ駆けていってください。

私が隼を抜いても大丈夫なように、ダッシュ……違った、一目散に」

菊次郎様は、また言い間違えた私に笑いもせずコクリを頷いた。


「菊次郎様の合図で始めます」

その一言に、菊次郎様はスッと隣にいる私にしか分からないくらい静かに息を吸った。


菊次郎様が鬼柊を放る様子が、まるでスローモーションのように見える。

彼の白い手から飛び立った鬼柊は、弧を描きキラキラと光ながら

ちょうど影の目の前に落ちようとしている。


そう、思い込みとは驚くことに自分でも意識せずにしているものだ。

私は、鬼柊がそのまま地面に落ちると思い込んでいたのだ。

弧を描いたはずの鬼柊は、突然磁石に吸い寄せられたかのように

ピタッと影に張り付いたのだ!!!


キィィィィーーーン!!!と、何か金属音がしたかのように

私の耳を(つんざ)いた。思わず、耳をふさぎそうになったけど、

慌てて耐えた。ああ、耳の中が木霊のように鳴り響いているけど、

ここはガマンしなきゃ!!!


鬼柊に張り付かれた影は、まるで嫌がるかのように揺らめきを大きくしていく。

私が見た中で、1番大きな揺らめきだ。

思わず警戒が先に立つけれど、恐怖の大きさは変わらなかった。

そして、影は大きくなったけれど場所は変わっていない……。


これって……。


その様子を見て落ち着きを取り戻した私は、いつものように気を込め出した。


どうか、想いが空に帰れますように……。


私は、なぜか迷いなく鬼柊と共に影を隼で切っていた。


鬼柊はハラハラと地面に舞い落ちる。

そして……。


影はキラキラと空に昇って行ったのだった。

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