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紫雲の國の玉水の恵み  作者: テディ
七の巻
150/153

断言

  

  「雫、来たか。帰るぞ。元の世界に俺と一緒に帰る」


彼は確かにそう言った。なんでこんなに冷静な顔でいられるのか?

そもそも、なぜ影を手に乗せられる?

恐怖で感覚が麻痺しているのか……。


ええいっっ!!感傷に浸っている場合じゃないっっ!!!


私は、距離をとって立ち止まった。彼は石橋のアーチの天辺にいるから

私は甲斐先輩を見上げる形になる。

それでも、360℃地形を見渡せる方が良かった。


「先輩、帰るってどうやってですか?」

私は、たぶん平静には見えるはずがない事を承知で、

最大限に平静に見えるように振る舞うことにした。


「雫、聞いているのは俺だ。いや、聞いているんじゃないな。

言うことを聞いてもらおう」

「……嫌だと言ったら……?」

「……嫌だ……? それは意外な意見だな……。

だってお前、震えているぞ? 帰りたいだろ?」


甲斐先輩は、本当に不思議そうな顔をした。

いやいや……、そんな怖いもの揺らめかせて冷静に言われても……。


彼は体型も変わっていない。私のように鍛えたようには見えない。

スラッと長身だが、運動はランニングくらいだと言っていた気がする。

もちろん部活で運動部も入ったことがないと言っていた。


「意外、……意外ではないですよ……?

先輩……、説明してもらえませんかね? いったいどうやってこの世界へ?」

「……俺が説明する義理はないと思うが……?」

「いいえ、義理はありますね。先輩が持っているもの……、

それが原因で私がこっちに呼ばれたと思っているので。

……だから、話をしてもらう権利も必要も、おおありなんですよ」


そこまで話した時、私は無意識に隼を構えた。

それが敵意だったのか、怒りだったのか……。

よく分からない。でも、絶対に話してもらうつもりでいたの。


「一緒に来い。帰っていつもの生活にもどるぞ」

キッパリ言い切った甲斐先輩に、ふと疑問を覚える。

なぜ帰れると思っているんだろう……。誰かに何か言われている?

例えば、必ず帰れると……?


「信じられません」

「なぜだ?」

「私は、()()()()()()()()()()()()()()()

そう説明を受けているからです。言い伝えはむしろ逆で、帰ることはできない。

この國の人たちは、そう思っていましたよ?なぜ帰れると思っているのか、説明してください」


私の話に、甲斐先輩は初めて表情を固めた。動揺しているんだ。

いったい何を話されて、こんなことを始めたのか……。


「先輩、今なら間に合います。とにかく、その手の上の物を

操るのをやめてください。この國の人たちには私から説明します」


先輩は、隼を構えたままの私をジッと見つめていた。

私の背中は冷や汗で、すでにびしょ濡れだ。


その時、先輩の背のはるか先に、菊次郎様が目に入った。

……しまったっっっ、休憩に入ったのか……?!

菊次郎様は、私を見つけたように思う。

ピタッと歩みを止めた後、静かに歩き出した。

あぁ、菊次郎様、お願い、こちらに来ないで……!!!


「雫、お前の聞いた話が嘘ではないと、なぜ分かる?」

焦る私の様子はバレなかったようだ。先輩の声が降ってくる。

「……彼らは分からないと話しています。自分たちは、帰れないと聞いていた。

でも知らないだけかもしれないと話しています」


甲斐先輩が、この話を聞いてどう思ったか……。

少なくとも興味はひけたようだ。ただ、それをすぐに信じるか……。


「そうか。それでも鵜呑みにはできないぞ。

俺は、これを操ることが生きる条件になっているからな」


今度は私がショックを受ける番だった。すぐに信じるとは思えなかったけど、

それよりも誰がそんな制約をつけたのよ……!?


「雫は、何を操れるんだ?最初、この街にお前は居なかった。

間違いない、何年も歩いているんだからな。

この屋敷にも、お前は居なかった」

「……何年も……?」

「そうだ、3年ちかく歩き続けてるんだ。間違いない、

お前は居なかった。いつからここに居るんだ?他にも誰か来たか?」

「……他にも……?」

固まった私を見て、甲斐先輩は何かを考えたようだ。


突然、意思をひるがえしたのだ。

「雫、どうやらしゃべりすぎたようだ……。

俺は俺で確かめることができた。また迎えに来る。

俺の背後のヤツに、止まるように言ってくれ」


気がつかれてたか……!!!いや、こちらも危険を回避できる。


「菊次郎様!!! そこで止まっていてください!!!動かないで!!」


私の呼びかけに、菊次郎様はハッとして止まった。

良かった、巻き込まずに済むかも……、って、その後ろに仁様!!!!

反対側だから医局か……。いつもは同じ時間に休憩なんてとらないじゃない……。

菊次郎様の様子がおかしかったのだろう、仁様も異変を察知して歩いていたに違いない。


「仁様も!!! 止まってください!!」


仁様は、菊次郎様と同じところまで来て、ようやく止まった。

内心ホッとした所だ。なのに、仁様は仁王立ちになって声を張り上げ出したのだ。


「雫!!!大丈夫だな!!!」

私が頷くのが見えたのだろう、仁様は視線を先輩にはっきりと定めた。

同じように仁王立ちで、先輩に話し始めたのだ。


「お主が、甲斐 笠斗(かい りゅうと)だな!!!

なにゆえ雫を苦しめる!!!」


その仁様の問いに、先輩の表情にはっきりと怒りが浮かんだ。

「俺が雫を苦しめる……? 俺を……、俺たちを巻き込んだのはお前らの世界だろう……?」

まるで独り言のように先輩は呟いた。

こんなに怒っている先輩を見たことがない。それにつられるかのように影が揺れ、

私の全身の毛が逆立ちそうなくらいだ。


先輩は、もう一度私をしっかりと見た。

視線がしっかりと合うと、小さく息を吐いた。


「雫、今回はここまでだ」

そう言うと、影を持ったまま後ろをクルッと振り向き

スタスタと歩きだした。


「先輩!!待ってください、まだ何も答えてもらっていません!!!」

慌てて追いかける私に、先輩は弱点を見抜いたかのようにあっさりと言った。


「雫、後ろから俺ごと切るか?」


思わずグッと息を飲み込んだ。


「雫、道を開けるように言ってくれ。付いてくるのは構わん。

門のところで土産をやる」

先輩は振り返りもせずに話し続けた。


……ここからじゃ影だけをきれない!!!……方法が……。


「菊次郎様!!仁様!!医局に近い門のところに誰も近寄らせないよう先触れを!!!

……お二人も近くには残らないで!!!」


菊次郎様は真っ青だ。仁様は唇を噛んで、いまにも血がでてきそう。

くやしくても安全第一に考えないと……。


ジリジリと膠着状態のまま門にたどり着いた時、

先輩は私を振り返った。

影が、少しだけど大きくなった気がする。

私の後方には、案の定私が心配で離れられない菊次郎様も仁様も居た。


先輩は、静かに話し出した。

「雫、またな。土産だ。これはまだ、お前に助けてもらえるだろう」

そういうと、影をそっと空中に置いて、身を翻した。


もうっっっ!!!!! これじゃ追いかけられない!!!

「動かないで!!!影がいるの!!」

瞬間的に叫んだ私の言葉に、背後の気配がピタリと止まったのが分かる。


私は細く長く息を吐いた。そうしてこの可哀想な影の前で、

しっかりと隼を構えたのだった。

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