同志
小春様は、書庫にいた。ここは、國で集めた蔵書がある場所だそうで、
許可があれば、誰でも読めるそうだ。
貸し出しは、本によるらしいの。珍しくて貸し出し禁止の本もあるんですって。
図書館よりは、厳しいルールがありそう。
蔵書のある部屋の隣は、長机がいくつか並べてある部屋になっていて、
ここで勉強したり、本を読んでも良いことになっているらしい。
その一角で、私は小春様の話を聞くことになったのよ。
「まずは、敬称と敬語をやめて欲しいとの事でしたが……」
「そうなんです。我が儘言って申し訳ないとは思うんですけど、
落ち着かなくて……。元の世界では、私はただの研究者を目指す学生でした。
教えを乞う立場だったので、慣れないんです」
「なるほど……。わかりました。ただ、条件があります」
ニンマリした小春様は、すごく魅力的に見えて驚いた。
人間味を感じるからなのかな?
「条件ですか? なんでしょうか?」
「私のことも同じようにしてください。同じ歳ですし、
敬称も敬語も不要ということでいかがでしょう?」
「……私は、構いませんが、本当によろしいんですか?」
そう問いかけた私に、小春様が笑い出した。
どうやら、思っていたよりもサバサバしている方みたい。
「それは立場上、私が尋ねなければならないことですよ?」
そう言われて、思わずクスッと笑いお返事することにした。
「わかりました。同じようにします。これで良い?小春」
「ええ、雫。よろしく」
しばらく見つめあった後に、どちらからともなくクスクス笑ってしまった。
なんとなく照れ臭いような、ムズムズするような変な感じ。
ひとしきり笑った後、私はホッとしていた。
こうして少しずつ話せる人を作っていこう。それも大切な事の気がする。
「雫、貴方がこちらの生活に慣れたら、貴方がやっていた研究について
聞かせて欲しいの」
「良いよ。興味が湧くか分からないけど、それでも良い?」
「もちろんよ」
「小春の研究にも興味があるな。余裕ができたら聞かせてね?」
「ええ、いずれ話をしましょうね」
研究者同士って、分野が違っても暗黙の了解で
不思議と意思が通じることもある。楽しみだな。
「さて、雫。読み書きができるか知りたいと聞いたけど?」
「そうなの。何か簡単な本はないかしら。読めなければ
読み書きを習って練習しないといけないと思うんだけど……」
「……そうねぇ、読み書きができないのは大変だわ。算術はどう?」
「読み書きができれば、なんとかなると思うの。前の世界にも算術はあったから。
ただ、解き方が一緒かは分からないわ。だから試すしかないと思う」
それを聞いた小春は、しばらく考えると薄い一冊の本を持ってきてくれた。
期待通り、綺麗な和紙で装飾されていて美しい。巻物もあったりするんだそうだ。
受け取った私は、ドキドキしながら1ページ目を開いた。
……やっぱり……。
ひと目見て、私は項垂れてしまった。そこは予想通りなのか……。
それは、くずし字と呼ばれる書き方になっていた。
私の研究の関係で、読めないことはないが、読みにくいことに
変わりはない。日記などは、乱雑に書かれているので読み難かったりするの。
ある一定のルールがあるので、読めるようにはなるんだよ。
日記などは、乱雑に書かれているので読み難かったりするの。
……練習すれば……。
項垂れる私を見て、小春は少し気の毒そうに私を見ていた。
「読めないのね?」
「ううん、正確には読むのに時間がかかるの。
私、昔の出来事を研究してたの。だから昔の書物を読まなければならなかったの。
私たちの世代は、新しい文具を使っていたから、この書き方はしなくなっていたのよ。
でも筆を使って、和紙に書く文化は残ったの。
それでも、これは時間がかかるわ。そして、読めるけど書けないと思う」
この時ほど、お習字を習わなかったことを反省したことはない。
やっておけば良かった……。
「雫、読めるなら大丈夫よ。あとは慣れだわ。
書き方は私が教えるから心配しないで。
そうね、ここで教えても良いし、街中に慣れるために
学問所にきても良いわよ。ただ、警備の許可がもらえればだけど。
私からも橙矢様に話してみるから、貴方からも勇隼様に話してくれない?」
予想より早く街中に行けるかも!!
「分かった。勇隼様に話してみるね」
「さ、では今日は音読をしましょう」
……音読……。ええ、国語の基礎中の基礎だよね。
一年生になったんだなぁ……。
少しヘコミながら、真面目に小春と練習することになったの。
ここから、1時間も……。
意外にスパルタなのね? ま、私を思ってだろうから頑張るかぁ。
そこから私は黙々と書物を読んでいったのだった。




