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紫雲の國の玉水の恵み  作者: テディ
一の巻
13/153

始動

 桔梗様に手伝ってもらって、私はこの世界の剣士の姿になった。

任務中は紺色の小袖の着流し、現代で言うと男性が着る着物に袴をつけて

寒い時は羽織を羽織るんだって。袴は濃いグレーだった。

馬乗り袴と言って、確か江戸時代の武士が着ていたように思う。

乗馬は武士の必須だったしね。キュロットみたいになっている袴なの。

なかなかに渋くて良い感じ!!


当然、刀は帯同するんだけど、私は特別に事情を説明するので

少し待ってくれとのことだった。


「まあまあ、雫。もう1人息子がやってきたみたい!

良い考えでしたね」

にこやかに桔梗様に満足していただいて、喜ぶべきか……?

いや、頼み込んで呼び方も話し方も変えてもらったから、

ここは喜んでおこう。


 私が最初に、話さなければならない人は橙矢様だった。

ああ〜〜、よりによって、1番最初に苦手な人がきちゃったな。

表情が読めない人って苦手なんだよなぁ……。

ま、いっか……。教えてもらうのに、そんなワガママ言ってられないしね。


橙矢様は、にこりともせずに淡々としていた。

嫌われているのか、私のお守りが面倒なのか、

はたまた、いつもこんな感じなのか……。


「まず、なにが知りたい?」

「この國の仕組みが知りたいです。仕事の内容や、部門があるのか。

街中はどういう仕組みになっているのか」


橙矢様は、ジッと私を見ていた。

ん?隠さなきゃいけないこともあるのかな?


「橙矢様、どの國にも機密事項があります」

「機密事項?」

「あ、え〜と、秘密にしておきたいことです。

だって全てを明らかにしたら、守れない物も人も出てくるでしょう?

だから(おおやけ)にされている部分だけで構いません。

私も覚えきれないと思いますし……」


そう説明する私に、橙矢様は首を傾げた。

「雫、なぜ自分を犠牲にする?」

「……犠牲……?なんのことですか?」

「お告げとはいえ、貴方は怒っていたのではなかったのか?」

「ああ」

橙矢様の疑問が、よく分かった私は、思わず笑ってしまった。

「怒ってますよ?」

「怒っているのに、手助けはするのか?」

「ええ。う〜〜ん、説明するのが難しいんですけど、

確かに怒ってます。いくら私のご先祖様と話し合って決まったにせよ、

私の同意はありませんでしたから。でも……、怒ってるだけじゃ

何も作り出せないんですよね」

「貴方は、何かを生み出したいのか?」


次々にくる質問は、橙矢様がまるで私よりも怒りの感情を持っているかのようだ。

……この人、親切なのかも…?

私の勘違いかもしれないけど、なんとなく心がホッコリと暖かくなった。

「生み出したいわけではありません。まず何ができるのかを探したいんです。

どうやら、勉強し直しのようですし……」

そこは、少し気が重い……。あっという間に無双状態がよかったなぁ。

口をへの字にして、遠い視線で黄昏(たそがれ)る私が面白かったのだろうか、

橙矢様は、ふっと微笑んだ。

……笑った!!なんだ、この人も笑うんだ……。

ものすごく失礼な感想を持った私の心を読んだかのように、

すぐに口をキッと結んで橙矢様は、咳払いした。

あ、……おしい……。元に戻っちゃった。


「橙矢様、さっき犠牲っておっしゃったでしょう?

別に自分の利益もちゃんと考えていますよ?」

「利益?」

「ええ。だって自分で街中で暮らすことが最初の目標なのに、

國の事を知らないのはマズイでしょう?世間知らずで、

あっという間にサギとかに巻き込まれそう……。

だから、自分を守るためもありますよ?」


橙矢様は、腕を組み出しジッと私を見て考えているようだった。

「雫、……おもしろい……。ふん、実におもしろい……」

「……いや、橙矢様、面白くないです。

こう見えて結構必死なんですよ?」

ふてくされる私に、それでも橙矢様は私自身がおもしろいと言っていた。

……褒められてる……?いや、なんだかあんまり嬉しくない……。


そんな私をよそに、橙矢様は一枚の大きな紙を畳の上に広げた。

それは、この翼賛の國の根幹が、わかりやすく丁寧に書き記されていた。


紙も墨もあるんだな……。しかも、かなり立派な和紙だ。

そんな事を考えながら、橙矢様の説明を聞いていく。

國主は勇隼様。驚いたことに世襲制ではなかった。

私が使わせてもらった刀の(はやぶさ)、あの刀を抜けたものが

國主になると決められているらしい。千隼様は、まだ抜けないんだって!!

あれ?私、できたよね?……能力があったということで、良かった!!!

あれが証明になったのか……。これも秘密にした方が良いのかな?

んん? 國主にはならないよ?! 誰か、頑張ってね?!


ともあれ、あの刀は国宝ってこと。あの刀が判断してくれるから、

権力争いにはならないんだって。少し驚いてしまった。

まあ、たまに判断に(あらが)う人がいるらしいけど、

成功した試しはないらしい。いるよね、いつの世も……、アウトローな人。

政治的には 國主中心の中央集権国家。字にすると何だか怖く見えるけど、

実はそうでもない。なぜかというと、國主の下は、

才能や能力のある人を役人に取り立てる制度を用いてるからなの。

これが家柄だけなら、大問題だよねぇ。利権が偏りすぎるもの。

でも厳しい試験が、どの部門にもあるんだって。

何だか思っていたより自由な感じ。もっと封建的かと思っていたから、

実力次第って所は安心材料かな。


教育も、充実していた。基本、算術も読み書きも誰でも習える。

小学校のような感じなのかな?だいたい14,15歳くらいから、

何を自分の仕事にしようか考えだすんですって。

私、その時期はただただ楽しく学校に通ってただけの気がする……。

当然、手に職を付けていく方が多くて、勉学を極める方は少数なんだって。

……当然なんだね。


街中は、場所によって地域性が決まっているみたい。

ここの地域は、商売の地、ここは住居のような感じ。

学問所も、職人の地域も決まっているんだって。

その方が防犯上、取締りやすいんだって。

その街をぐるっと囲むように、農業や酪農の地域があるみたい。

田舎の方が、空気も水も美味しいから。


そして、ここが江戸時代の造りと似ているなって思ったのだけど、

川での交通網が発達しているみたい。

例えば水路がバスの交通網になっている感じに似ている。

だから荷物の運搬も、人の行き来も、かなりの距離を移動できる。

車はなかった。……いや、私の期待?を裏切って、あったらおもしろいなと

思っただけなんだけどね。そういう工業的な発展は、していないみたい。


「雫、かなりの量だが大丈夫だったか?」

「はい、大体は頭に入りました。あとは実体験してみないと……。

質問が出てこないと思います」


そう答えた私に、橙矢様はやっぱり面白そうな顔をしていた。

「貴方は学問ができるのだな」

「そうですか?……うん、嫌いではないですけど……。

できない分野も多いですよ?」

「またの機会に雫の世界の学問の仕方を教えてもらおう。

私にも利益があっても良い気がする」

「……プッ……、わかりました。良いですよ」

橙矢様の願いに、思わず吹き出してしまった。


「では何回か、時間を取ることにしよう。

次は何が知りたい?」

「そうですね、読み書きできるかが知りたいです」

「そうか、では小春の所にいくと良い」


こうして強面だと思っていた橙矢様と、思いがけずに打ち解けられ、

次は小春様の所に赴くことになった。


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