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百年前の同居人  作者: 境陽月
ある作家はこのように語った
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睨めない!けど睨み合い!

静かな夜でした。

キーボードの音以外はしない、いや物音ひとつ立てないように息を殺してました。

現在にいる私も百年前にいる爺さんも。それでも完全な静寂とはいきません。


カタン。


階下での小さな物音に私は身を固くしました。

しばらく聞き耳を立てていましたが物音はそれだけ。

気を取りなおしてもう一度キーボードに向かったとたんに、また……。


カタン。


指を広げて打ちかけたポーズのまま固まっていた手を握り締めて、私は悪態をつきました。


「畜生、どうしてこんなことになったんだ」


歯噛みして愚痴をこぼしても、もちろん何の意味もありません。

先ほど(といっても百年も前になりますが)じいさんが畑仕事から帰ってきてからずっとこの調子です。

たまらず乱暴にドアを開け階下に向かって怒鳴りました。

誰もいない一階に向かって。


「おい、静かにしてくれ!次の打ち合わせまで時間がないんだ」


返事はすぐに返ってきました。

不機嫌なしわがれ声の返事が。


「はん?おめぇの『ぱんこん』とかいうタイプライターの方がよっぽどやかましいじゃねぇか」

「『ぱんこん』じゃない。パソコンだ!」


「大して変わらんじゃろが。こっちこそ朝が早いんじゃ、耳障りな音を立てるな」

「……ッ!」


バタンッ、と荒っぽくドアを閉めると、私はキーボードが壊れそうなくらいの勢いで打ち始めました。

真夜中の銃撃から一週間が経ちましたが、話が通じるまでが大変でした。

何度も説明したのですが、相手は頑固者のじいさんです。

私が百年後の人間だと言っても信じてくれない。

そもそも私だって信じられないのですから。

家の中の音だけが百年の時間を超えて聞こえてくるなんてね。


「図書館で探してきた新聞で、『明日の事件』を読み聞かせてやっと信じるなんてな。ホントに頭のカタイじいさんだぜ……」

「なんぞ悪口でもぬかしたか?あー、自称物書きの先生様」


「小説家といいやがれ、クソジジイめ」


こんな気味悪い家、さっさと出ていきたかったのですが、なにぶん先立つものがない。

次回作をハズしてしまうと飢え死にするしかないって経済状態でしたから。


「とにかく気分転換しなきゃ。シャワーでも浴びるか」


私はパソコンの電源を切り、階下の浴室へ向かいました。

執筆の間に沸かしておいたので、丁度いい湯加減になっている頃です。


「フ―ッ、生き返るぜ」


執筆とじいさんの嫌がらせで疲れきった頭と体に熱い湯が実に心地良い。

イライラしていた気分もさっぱり軽く……


「さぁーてひと風呂浴びるとするかの」


浴室の扉が開く音がして、じいさんのわざとらしい声が間近で聞こえました。

驚いて反射的に扉の方を見ましたが、扉は閉まっています。

もちろん現在の扉は、です。

百年前の浴室からは浴槽に近づいてくるペタペタという足音、それとじいさんの下手糞な鼻歌です。


(あのじじい!俺が入ってるの知ってて!)

「ホッホッホッ、野良仕事の後の熱い風呂は最高じゃて」


バシャッバシャッと不自然にやかましい水音、そしてドボン、と浴槽に豪快に飛びこむ音が目の前の水面から上がりました。

ありもしない水飛沫をよけようとするくらい豪快な音が!

そしてダメ押しに耳の側で調子ハズレの鼻歌を延々と。

さっきまでのさっぱりした気分は見事に台無しです。


「おい、いい加減にしろ!このクゾじじい」

「んー?なんぞ聞こえたような?まぁ気のせいじゃろ。はー、極楽極楽」


鼻歌どころか、じいさんは高らかに本格的に歌いだしました。しかも音痴五割増で。


「畜生、覚えてろよ!」


 陳腐な捨て台詞を吐き捨てて私は浴室を飛び出しました。

後に残ったじいさんは浴槽でくつろぎながらニンマリとしていたそうです。


「ケッ……百年後の家主だかなんだか知らんが、ここはわしと死んだバァさんが建てた家なんじゃ。よそ者は追い出してやるわい、ヒヒヒヒヒ……」


最悪な気分でした。

よそ様からすればたかが風呂といわれるかもしれません。

しかし考えてみてください。

食事は三食パンの耳(たまに飯抜き)一日中執筆ばかり(大半はアイデア出なくてもだえてるだけ)。

そんな私にとって熱い風呂は唯一の贅沢だったのです。

この怨み晴らさずにおくものですか。


「目には目を、歯には歯を、騒音には……騒音だよな」

また投稿順序間違えてました。

申し訳ない。

こっちが第6ですね。

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