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百年前の同居人  作者: 境陽月
ある作家はこのように語った
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恐怖の乱射事件!

「も、も、もしや幽霊か?、お前は!」

「俺が幽霊だって!ふざけんな、お前こそ幽霊じゃないのか?」


「な、なにぃ!こ、このわしを幽霊呼ばわりするとはなんたる無礼者!」

「あんただって俺を幽霊呼ばわり……」


「ええぃ、姿も見せぬ腰抜けの分際で!よかろう、村一番の狐撃ちの名人といわれた、わしの腕前を拝ませてくれる!」

「誰が腰抜け……って、狐撃ち?」


目の前をバタバタと駆け抜ける足音!

積み上げたダンボールに邪魔されることなくまっすぐ壁際まで走って、そこで止まりました。

そしてカチャカチャと何かを壁から取り外したような音がして。


ダ―ン!


耳元で銃声が響きました。


(じゅ、じゅ、じゅ、銃?この幽霊、ライフルか何か持ってやがるのか!)

「ゆ、幽霊だろうがなんだろうが、わしの家には一歩も入れんぞ…………ってもう入っとるのか?」


「なんだと、こ、ここは、俺の家だ―――」

「やかましいわい!」


ダ―ン!


銃声二発目。

幽霊に射殺されてはかないません。

私は慌ててドアに向かって駆け出し……ガタン!

ダンボールにつまずいて転びました。

詰め込んでいた本が床に散乱してもう滅茶苦茶でした。


「い、痛て、イテテ……」

「そこかぁーっ」

ズダーン!


三発目の銃声を背後に聞いて、私はドアまで走って、というより半ば転がりながら居間から脱出しました。


「ええい!待て、待てぇい。幽霊だか透明コソそ泥だかわからん奴め!」


足音で部屋から逃げ出したのがわかったのでしょう。

ドスン、ドスンと床を踏み鳴らす音が追ってきました。

どうにかドアに辿りついた私は外へ飛び出すとバタンとドアを乱暴に閉め、力いっぱい押さえました。

中から誰も出て来れないように。

でも無駄でした。


バタン!


ドアが乱暴に開けられる音がしました。

私はあっけにとられました、押さえつけているドアは微動だにしていないのに。

続いて耳元で恐ろしい怒鳴り声。


「ええい、どこに隠れおった?出てこい、出てこんと蜂の巣にしちまうぞ!」


私は腰を抜かして座りこみ、動かない足の代わりに両手の指を床板に引っ掛けて、後ろ向きに下半身を引きずって。

……背中が階段にぶつかって止まってしまいました。


「うぬっ、そこにおったか」


しかも気づかれてしまいました。

荒々しい足音が正面にやってきました。


「いるのはわかっておる。さあ、正体を見せろ、見せないと……」


パンッ。

「ひいいいぃッ」


家の中に反響する銃声。

頭の横で階段の板が砕ける音。

私は頭を抱えて悲鳴を上げました。

追い詰めるように弾を込めているらしい音が聞こえてきます。


「しぶとい奴め、早う姿を見せんと……


バン、バン、バン!


銃声と同時に頭の上で、足元で、背中で階段の板が弾ける気配。

間違いなく殺される、そう思った時にようやく、おかしな事実に気づいたんです。

ま、透明人間に銃撃されてるだけでもおかしなことには違いないんですがね。


(なぜだ、どういうことなんだ?)


最後の一発が着弾したらしいのは私の背中の後ろです。

つまり弾丸は私の胸を撃ち抜いていたことになります。

なりますが……


(なんともない………よな?)


私の体には傷一つありません。

恐る恐る後ろを向いて手探りで階段を調べてみました。


「こりゃあ……弾痕か!」


そこにはライフルで撃ったとおぼしき弾痕がひとつ。

落ちついて階段を見てみるとさっきの乱射の結果とおぼしき補修の跡が数ヶ所ありました。

下見に来た時は気づかなかったのですが、小さな板を釘で打ちつけて穴を塞いでいます。

背中あたりの弾痕は補修に使った板が外れてあらわになったようです。


(今、撃ったばかりなのにもう修理されている?それどころか補修されてから何年も、何十年も経っているような…………)


補修の跡は古び、隙間に埃がたまっていました。

何年、いや何十年も前の修繕に思えました。


「おい、いつまで黙っとる?まさか……ほんとにわしの弾が当たっちまったんじゃ……」


声に狼狽が感じられました。

私を撃ち殺してしまったのではと怯えているようでした。

そういえば、本人が後日、笑いながらこういってましたっけ。

脅かすだけのつもりだったのが狙いが少しくるってしまった、あの時は本当に焦ったよ、と。


「ちょっと待ってくれ」


少し落ちついてきたので私は見えない老人に声をかけてみました。

返ってきた返事は。


「ヒィッ?き、貴様、生きとったのか!ど、何処におるんじゃ?」


悲鳴混じりのしわがれた老人の声でした。


「落ちついてくれ、あんたは階段の前にいるんだろ。俺は階段の一段目に座ってる」


カチャッという音が目の前で聞こえました。

銃の狙いを私がいるはずの場所につけたのでしょう。


「多分、無駄だよ。何千発撃っても『今』のあんたじゃ『現在』の俺には当たらない……と思う」


弾痕を指で触って確かめながら、私は努めて平静な声で話しかけるようにしました。


「なんじゃと、でたらめをいうな!この、ええっと…………」


ちょっと間老人の声は、考え事をしてから言い放ちました。


「この幽霊だか透明人間だかわけのわからん奴!」

「生身の人間だよ、俺は」


幽霊よりも評価が下がったみたいで、ちょっぴりむかつきました。

言い返しながら指先で弾痕をほじってみるとかなり埃が溜まっていました。

以前の住人がこの家にいたのは十年ほど前と聞いていました。

しかし埃の溜まり具合から見て、もっと前からこの弾痕はあったようです。


「ちょっとあんたに聞きたいんだが」

「なんじゃい?わけのわからん奴」


とうとう『わけのわからん奴』に分類されることに決定したようです。

情けなくて挫けそうになりましたが、グッとこらえました。


「じいさん、そっちはいつの時代なんだ」

「あん?何をいっとる?」


「つまり今は何年何月何日なんだ?」

「なんでそんなことを気にするんじゃ。自分が死んで何年たったか気になるのか?」


「いいから教えてくれよ!」

「ちょっと待て、ここんとこ日付と縁のない生活しとったからのぅ。ええと今朝の新聞は……」


そして返ってきた答えは想像通りのものでした。


(百年前……!やっぱり)


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