第89話 同期と起動のロジック
「……カイト様、申し訳ございません。己の不徳により取り乱し、無礼な振る舞いを……」
爆発の危機が去り、楓は深々と頭を下げていた。
「いや、楓さんが庇おうとしてくれたのは嬉しかったよ。ありがとう」
カイトは穏やかに微笑みながら楓の肩を叩き、作業台に静かに横たわる『生体プロキシ - Living Proxy v2.0』の素体へと向き直る。
見た目はカイトと寸分違わぬ姿だが、まだ魂が通っていない無機質な人形のように静まり返っていた。
「素材の物理的な組み上げ(ハードウェア構築)は完了した。だが、これだけじゃただの精巧な人形だ。これから、俺の魔力回路と意識を同期させてOSと制御ロジックを流し込む」
カイトはコンソールを開き、最終パラメータのチェックを開始する。
「ボリス、魔導炉からの外部魔力供給ラインをプロキシの背中へ接続してくれ。起動時の初期電力を一気に流し込む」
「おうよ! 外部接続、完了だ! いつでもいけるぞ、カイト!」
ボリスが太いケーブルを素体の背部端子へ打ち込む。
「楓さんはプロキシの魔力波形が暴走しないか、モニターの波形監視をお願いします」
「御意に、カイト様! 画面の一点たりとも見落としません!」
二人のサポートを受け、カイトは息を整えて両手を素体の胸元へと掲げた。
(――接続要求送信。通信プロトコル:『Direct-Soul-Link』)
(――エアギャップコード実行。空間技能ライブラリ・《意識・魔力パス同期》)
カイトの指先から青白い光のコードが伸び、素体の胸元へと吸い込まれていく。
『――システム応答確認。認証プロトコル、成功』
『――マスターの魔力パターンをキャプチャ。プロキシコアへ同期中……』
ギィィィン……!
プロキシの全身を巡る【竜の脈動血】の回路が青く発光し、脈打つような鼓動が工房内に響き渡る。カイトの視界が、瞬時に「自身の視界」と「プロキシの視界」の二つへと分裂した。
(――来た……! 視覚、触覚、魔力伝達経路、すべてリアルタイムで同期できている!)
ゆっくりと、作業台の上の素体が目を開けた。
カイトと全く同じ、吸い込まれるような漆黒の瞳が室内を見渡す。
「……動作テスト開始。指先の伝達遅延、0.02ミリ秒。完全に身体の延長として機能しているな」
作業台から起き上がったプロキシが、滑らかな動作で立ち上がり、自身の両手を見つめて口を開く。その声も、音色も、カイトそのものだった。
「……な、なんじゃこれは……!? 二人とも寸分違わず同じ動きをしておる……!」
ボリスが目を丸くして二人のカイトを交互に見比べ、楓もまた息をのんで感嘆の声を漏らす。
「恐ろしいほどの精度……。気配も、魔力の波形すらも完全にカイト様そのものです……!」
カイトは不敵な笑みを浮かべ、コンソールを閉じた。
「『生体プロキシ - Living Proxy v2.0』、同期成功だ。これで俺の魔法出力限界を完全に突破できる」
ついに完成した最強の相棒を前に、カイトたちの新たな戦いの準備が整った。




