第90話 実戦出力テスト
ボリスの工房の中央で、本体であるカイトと、新たに起動した『生体プロキシ - Living Proxy v2.0』が静かに並んで立っていた。
「……信じられん。魔力の波形どころか、息遣いまで寸分違わんぞ。どちらが本物のカイトなのか、並んでおっても区別がつかんわい」
ボリスが腕を組み、感嘆と呆れが混ざったような溜め息を漏らす。
「カイト様、この生体プロキシがあれば、カイト様ご自身が戦場に身を晒す危険を大幅に軽減できますね」
楓の言葉に、カイトは生体プロキシの視界(映像データ)を同時に処理しながら首を振った。
「それだけじゃないよ、楓さん。単なる影武者として使うなら、ここまでのスペックは必要ない。この生体プロキシv2.0の本領は――『並列処理による魔法出力の増幅』だ」
カイトが視線を送ると、プロキシが滑らかな動作で一歩前へ出た。コンソール上に2系統の描画スレッドが独立して展開される。
(――スレッド1:本体側の演算コア確立)
(――スレッド2:生体プロキシv2.0へ処理タスクを分散デプロイ)
「これまでは、俺一人で魔法の構造解析、コード記述、展開、魔力供給の全工程をシングルタスクで行っていた。だがプロキシに演算と魔力保持の半分をオフロード(外部委託)すれば、理論上、魔法の構築速度と威力は従来の倍以上に跳ね上がる」
「な……魔法の並列処理じゃと……!?」
ボリスが目を丸くする中、カイトとプロキシが同時に右手を掲げた。
(――エアギャップコード実行。錬金技能ライブラリ・《魔導土偶創造》)
二人の手元から放たれた青白いコードが複雑に交錯し、工房の演習スペースに瞬く間に重厚な岩石の壁――テスト用ターゲットが組み上がった。さらにカイトは一髪の間も置かず、次のコードをプロキシ側から叩き込む。
(――プロキシ側スレッド実行。無属性技能ライブラリ・『コンバージェント・ハイプレッシャー・バレット(収束高圧弾)』)
本体が標的の構造をセンシングし、その隙を突く形でプロキシが超高圧の魔力弾を放つ。従来のカイト単体ではあり得なかった、詠唱・構築の「ラグがゼロ」の連続複合展開だ。
ドドドォォォン……ッ!
高密度に圧縮された青い衝撃波がターゲットを打ち抜き、分子レベルで砕け散った岩石が粉塵となって舞い散る。
「レイテンシ(遅延)なし、システム同期率99.8%。これなら実戦でも問題なく機能する」
カイトは不敵な笑みを浮かべ、プロキシの接続ログをコンソールへ格納した。
「完璧だ。【高純度霊核結晶】の空間固定、【深淵の黒粘土】の柔軟性、【竜の脈動血】の高出力……すべてが完璧に噛み合っている。ボリス、楓さん、協力してくれて本当にありがとう」
「礼を言うのはこちらじゃ、カイト。ドワーフの技術と異界の理論が合わさり、とんでもない神具が誕生する瞬間を見せてもらったわい!」
ボリスが満足げに豪快な笑い声を上げ、楓も深く一礼する。
素材ハントから始まった『生体プロキシ - Living Proxy v2.0』の開発プロジェクトは、ここに完全なる成功を収めたのだった。




