↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
零からの魔法回路 〜世界システムをハックする反逆のSE〜  作者: ラレイラ
第三章:交錯する影と盤上の手札

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/102

第85話 腐敗のデータクレンジング

『氷獄の霊脈』の凍てつく世界から一転、楓の案内によって辿り着いたのは、ねっとりとした死気と毒素が立ち込める『腐蝕の深沼』地帯だった。


足元をすくう泥は真っ黒に濁り、泡が弾けるたびに有害なガスが立ち上る。通常であれば息をすることすら危険な有毒環境だが、カイトの《熱力学境界バリア(サーマル・プロテクト)》を応用した各種ろ過バリアの展開により、二人の周囲だけはクリーンな空気が保たれていた。


「……ここが、二つ目の素材【プライマル・スラッジ】の発生源です。底なしの泥の最深部、原初生命の残渣が高濃度で凝縮された領域にのみ存在します」


楓が『漆黒の符』を滑らせ、コンソールへ沼地の深度マップを同期させる。


「ただしカイト様、この沼には【腐泥の巨像(スライム・ゴーレム)】と呼ばれる守護生命体が潜んでいます。あらゆる物理・魔法攻撃を泥の体組織で無効化・吸収するため、打撃も切断も意味をなしません」


「なるほど。流体構造によるダメージ減衰と、自己修復ルーチンか」


――ゴゴゴゴゴ……グヴォォォォオオオン……ッ!


地鳴りのような重低音とともに、沼地全体を揺るがす不気味で湿った咆哮が響き渡る。濁った沼面が激しく波打ち、大きく盛り上がった。

全高5メートルを超す巨大な黒泥の巨像が姿を現し、泡立つ有毒ガスを撒き散らしながら、ドロドロとした巨腕を持ち上げてカイトたちへと立ち塞がる。


「……まずは対象の自律制御コードをセンシング(解析)する」


カイトは透明コンソールの仮想キーボードを叩き、巨像の質量や魔力回路の接合パターンをログとして吸い上げていく。


(――オブジェクト構造解析完了。自動再構築ルーチンのロジックを把握)


(――アレイ構造をキャプチャ。錬金ライブラリへ新規クラスとして登録)


(――エアギャップコード実行。錬金技能ライブラリ・《魔導土偶創造《ゴーレム・クリエイションズ》》)


カイトの足元から青白いコードが沼地へ流れると、黒泥が一瞬で形を成し、一体の精巧な《魔導土偶(アース・ドール)》が組み上がった。


コンソール上には『全高1,850mm、全幅1,100mm、重量420kg』という仕様データが出力される。


「よし、実体化(インスタンス化)までは成功……だが、制御用プログラムのデプロイがまだか。命令を送ってもうんともすんとも言わないな」


魔導土偶はカイトの横でピクリとも動かず、ただの無機質な防御壁として佇むだけだった。


「カイト様、ここは私にお任せください!」


楓が俊敏な動きで前に躍り出た。漆黒の装束を揺らし、符を指に挟んで印を結ぶ。


「久遠流忍術――『影縫い・波紋の陣』!」


楓の符から放たれた漆黒の影束が沼面を走り、巨像の脚部へと絡みついた。どれほど流体で打撃が無効化されようと、動きそのものを物理的に拘束(ホールド)し、巨腕の振り下ろしを力ずくで停止させる。


「グオォォ……!?」


巨像が拘束を破ろうと魔力を暴走させ、コアの接合部に大きな負荷(ノイズ)がかかった瞬間、楓が振り返る。


「カイト様、今です! 構造が拮抗し、制御が鈍っています!」


「助かった、楓さん。ナイスアシストだ!」


カイトは一瞬の隙を見逃さず、コンソールの実行キーを叩き込んだ。


(――エアギャップコード実行。環境技能ライブラリ・《構造分離分解(データクレンジング)》)


カイトの指先から放たれた青白い光のコードが、動きの止まった巨像の核(コア)を正確に撃ち抜いた。ゴーレムを構成していた高濃度の魔力結合と有毒ガス、そして水分の固定パラメータが強制的にパージ(分離)されていく。


バシャァンッ!


巨像は崩壊を止める術を持たず、ただの無害な粘土と水へと一瞬で自壊し、沼へと激しく崩れ落ちた。


「ふう……見事な手際です、カイト様。あの不気味な巨像を一瞬でただの泥へ……」


「いや、楓さんが動きを止めてくれなかったら、データ解析が追いついていなかったよ」


カイトは動かない魔導土偶を見上げながら、苦笑交じりにコンソールを操作する。


「この魔導土偶も、今は出せただけで命令入力(コマンド)のロジックが未実装だ。将来的に並列処理(マルチタスク)を組んで複数展開できたり、鉄(アイアン)や銀(ミスリル)なんかの金属フレームで作れるようになれば、強力な自律ユニットになりそうだけどな」


ひとまず土偶のデータをコンソールへ格納したカイトは、足元に沈殿した最高品質の粘土――【深淵の黒粘土(プライマル・スラッジ)】へと歩み寄る。


(――エアギャップコード実行。空間技能ライブラリ・《完全隔離空間(エアギャップ)》)


青白い立方体のバリアが展開され、極めて高い柔軟性と魔力保持力を持つ黒粘土が安全に格納・回収された。


「二つ目、【プライマル・スラッジ】の回収完了だ。有機体フレームの伸縮性データも取れた」


タスクリストのチェックを更新し、カイトは安堵の表情を見せる。


「残る素材はあと一つ――【ドラゴン・バイタル】だけだな」


「御意に、カイト様。最後の素材が眠る『竜鱗の峡谷』へ、即座にご案内いたします」


『生体プロキシ - Living Proxy v2.0』の完成に向け、二人は最後の難関素材が待つ灼熱の領域へと向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。