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零からの魔法回路 〜世界システムをハックする反逆のSE〜  作者: ラレイラ
第三章:交錯する影と盤上の手札

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第68話 芽吹く氷花と、差し出された鍵

レオポルドが西別邸からの帰途につき、公爵邸本館の執務室へと足を踏み入れたとき、室内には重苦しい緊張感が満ちていた。


執務机に向かう公爵ヴァルデマーの傍らには、本館の魔導師長を務める初老の男が立ち、厳しい表情でレオポルドを迎え入れる。レオポルドは静かに一礼し、手にしていた報告書ではなく、一本の小さな魔導記憶石を静かに卓上へ置いた。


「閣下、ならびに魔導師長。私が西別邸にてお教えできる基礎術式は、本日をもちましてすべて終了いたしました。……いえ、正確に申し上げれば、すでに私の知識など遥かに追い越されております」


「……戯言を」


魔導師長が小さく鼻で笑い、記憶石に魔力を通して空間に映像を映し出した。


そこに浮かび上がったのは、西別邸の応接間で、ティーカップを手にしながら無詠唱で『氷華・第三階梯』の構造を寸分違わず組み上げてみせる七歳のリアの姿だった。


部屋に走る微かな魔力の波形。あまりの無駄のなさ、そして微風すら起こさずに魔力を完璧に制御する圧倒的な精度。


「な……なんだ、この精密さは……!? 詠唱どころか、陣の展開すら省略しているだと……!?」


魔導師長の手が激しく震え、言葉を失った。熟練の魔導師でさえ数分間の集中と複雑な触媒を要する術式を、七歳の少女がお茶のついでに、息を吸うような自然さで扱っている。


ヴァルデマーは無言のまま、画面に映る娘の氷藍色(アイスブルー)の瞳を見つめていた。暴走に怯えて泣いていたあの幼い少女が、いまや公爵家の歴史すら塗り替えかねない存在として覚醒しつつある。


「……レオポルド。これは真実か」


「はい。リア様の手にかかれば、術式の摩擦や減衰という概念そのものが存在しないかのごときにございます。……神聖術式監査局(アーク・コード)に知られれば、間違いなく『神域の才能』として力ずくで引き抜かれるでしょう」


ヴァルデマーの瞳の奥に、鋭い光が宿った。


「……魔導師長。今すぐ西別邸への研究費名目の予算枠を大幅に引き上げろ。さらに、本館地下資料室の情報を閲覧するための『特別アクセス文様鍵』をリアに与える」


「か、閣下!? 七歳の子供にそこまでの特権と潤沢な予算を……!?」


「黙れ。あの才能を監査局の豚どもに悟らせるわけにはいかん。西別邸を単なる隔離先から、公爵家直轄の『最重要研究拠点』へ格上げする。名目は『領地魔導調査および特別教育費』だ」


こうして、リア自身が一度も本館へ赴くことなく、彼女の手元には公爵家を動かすための最初の「莫大な予算」と「情報の鍵」が差し出されることとなった。レオポルドは静かに一礼し、執務室を後にしたのだった。

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