第24話 残された温もりと、引き裂かれた日常
薄明かりの差し込む子供部屋には、もはや少年の温もりのかけらも残されていなかった。
窓ガラスは冷たい夜気にさらされ、そこに吹き付ける風は、まるでこの屋敷から一切の光が奪い去られたことを告げるように、床板をうら寂しく鳴らしている。部屋の隅には、カイトが愛用していた木製の玩具が放り出されたままになっていた。
栗色の髪を乱した母は、ベッドの縁にしがみつくように崩れ落ち、狂ったように声を上げて泣きじゃくっていた。
「カイト……! カイトっ、返して……!」
すでにひび割れた喉から絞り出されるのは、心を引き裂かれるような悲痛な叫びと、とめどない号泣だった。オリーブブラウンの瞳からあふれる涙が、少年の脱ぎ捨てた小さなシャツをぐっしょりと濡らしていく。
残されたのは、微かに残る石鹸の匂いと、拭い去れない残酷な冷たさだけだった。
その傍らで、父――領主は、立ち尽くしたまま鉄灰色の髪を荒々しくかきむしり、耐えきれずその場に膝をついた。スチールグレーの瞳から大粒の男泣きの涙が零れ落ちるのも構わず、喉の奥から獣のようなうめき声を漏らしながら、血が滲むほど固く拳を握りしめて床を打ち付ける。
何者による仕業かすら分からない。誰が、何の目的で我が子を闇から連れ去ったのか――。
権力と誇りを持つはずの領主であっても、手掛かりすらない見えざる悪意の前に、ただ愛息子の名を呼び続けることしかできない無力な男だった。
部屋の外の廊下では、マーサが壁に背中を預け、両手で顔を覆って激しく咽び泣いていた。亜麻色の髪を項垂れさせ、ヘーゼルの瞳から零れる涙を拭うこともせず、「カイト様……っ、カイト様……っ、あぁ、うっ、ひっく……!」と言葉にならない嗚咽を漏らしながら、その場に崩れ落ちていた。
カイトの世話をしていた日々の温もりが思い出されるたび、胸を締め付けられるような泣き声がとめどなく溢れ出していた。
そして、その惨劇のような泣き声が響く中、ベッドの端にぽつんと座っていたのは、もう一人の小さな子供――リアだった。
白銀の髪を微かに揺らし、氷藍色の瞳には、感情の定まらない深い静けさが湛えられている。まだ五歳という幼さでありながら、彼女はカイトがいた場所の「空白」を誰よりも敏感に感じ取っていた。周りの大人たちの激しい号泣の嵐の中で、ただ一点を見つめ続け、あまりの突然の出来事に、その小さな胸の内に言い知れぬ暗い影が静かに落されていく。
屋敷を包むのは、底知れぬ絶望と、引き裂かれた日常への激しい慟哭だった。
誰もが信じたくなかった。あの小さな黒髪の少年が、今この瞬間も冷たい闇の中へと連れ去られているという残酷な現実を――。




