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零からの魔法回路 〜世界システムをハックする反逆のSE〜  作者: ラレイラ
第一章:黎明の理論回路 ――揺りかごの天才――

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第22話 システムクラッシュ:絶望の炉

カイトの小さな指先が、錆びついた鉄の枷の隙間にわずかに残された縫い針を差し込み、微弱な地妖石《ちようせき》の魔力を流し込む。チリチリと耳障りな摩擦音とともに、冷たい金属の分子配列に干渉し、その構造的な弛緩を引き起こしていく。


前世の知識とこの世界で培った魔導演算を組み合わせた、完璧なコード・インジェクション――本来の彼であれば、この古い物理ロックのアルゴリズムなど数秒でバイパスし、鮮やかに地下監禁室からのデバッグを完了させていたはずだった。


だが、その計算の裏をかく致命的なエラーが走った。


「――おや、感心なことだな。ガキの分際で、その古い魔導ロックの構造解析をしようとは」


湿った地下通路の奥から響いてきたのは、等間隔に刻まれる硬質な靴の音だった。カチャリ、カチャリと石畳を叩く革靴の響きが、カイトの思考を強制的に急停止させる。


鉄格子の外で細々と瞬いていた古びた魔導ランプの光が、突如として空間ごと押し潰されるように消え失せ、代わりに圧倒的なプレッシャーを伴う眩い光量が闇を切り裂いた。見張りの男たちが青ざめ、慌てて床にひれ伏す衣擦れの音がバタバタと響く。それらの雑音すら完全に無視して、監禁室の空間そのものがグニャリと歪み、皮膚が粟立つような重く冷たい気圧が部屋全体を押し潰した。


現れたのは、黒曜の検体(オブシディアン・アイ)の下っ端エージェントなどではない。その最上位組織、空間歪曲(コード・シフト)魔導を自在に操る、組織の最高幹部――あるいは、王国の闇の深淵に巣食う特級の買い手だった。


漆黒のロングコートを纏い、顔の半分を奇妙な文様の仮面で隠したその男は、鼻を突くような上質な香油の匂いと、ピリピリと肌を刺す高密度のオゾン臭を纏っていた。公爵家令嬢の暴走を完璧に制御していた「未知の回路(デバッグの痕跡)」の持ち主であるカイトの価値は、地方の薄汚い隠れ家で細々と調査するにはあまりにも大きすぎた。その存在を嗅ぎつけたより強大な非合法組織、あるいは国家の裏部隊が、この瞬間を狙って強制接収に動いたのだ。


「待、お待ちを……! まだ基礎データの採取すら途上で、どこへ移送(納品)するかも未定の段階です……!」


「愚か者が。この検体の価値は貴様ら三流の想像を遥かに超越している。これ以上の遅滞は、お前たちの心臓のコードを直接書き換えて停止させるぞ」


這いつくばって恐怖に震える下っ端の弁解を、冷酷な一言が一刀両断する。


カイトがどれほど完璧な論理を組み立てていようとも、物理的な圧倒的暴力と、組織間の権力闘争という「上位の例外処理」の前には、わずか五歳の肉体で作った細工など無力だった。


最高幹部が冷ややかに視線を落とした瞬間、カイトの指先から引き抜かれた縫い針は足元で無残に踏みにじられ、ポケットの隅に隠されていた地妖石の欠片は、冷たい革靴の踵の下で音もなく粉々に砕け散った。


「くっ……!」


魔法による力任せの突破も、緻密に練った脱出のプロセスも、すべては一瞬にしてシャットダウンされた。


最初の脱出劇は、完膚なきまでの、そして絶望的なまでの失敗に終わった。


◇ ◇ ◇


意識を断つための重い麻薬性の煙が監禁室の換気口から吹き込み、甘ったるい悪臭がカイトの鼻腔を満たしていく。視界は再び泥のように濁り、思考の糸がプツリと切れていく。遠ざかる意識の中で、彼の小さな身体は麻袋に包まれ、より深く、より黒い闇を湛えた別の地下施設へと運び出されていった。



そこで待っていたのは、さらなる地獄のような日々の始まりだった。


最初の組織など比にならないほど狂気に満ちた魔導実験と、理不尽なまでの肉体改造の嵐。薬液が血管を焼く灼熱の痛みと、精神をすり減らす解析の連続に、まだ幼いカイトの精神と肉体は幾度もシステムクラッシュの寸前まで追い詰められていく。


だが、その底知れぬ絶望の淵こそが、後にすべてを穿つ「最強の刃」を鍛え上げるための、唯一にして絶対の炉(プライマリ・フォージ)となるのだった。

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