第14話 凍える光の整え方
朝食が終わり、静けさを取り戻した館の廊下。冷えた外気がうっすらとガラスを曇らせる窓辺で、カイトは静かに隣を見つめていた。
そこには、ちょこんと立つリアの姿がある。窓から差し込む冬の淡い光が、彼女の白銀の髪をきらきらと反射していた。その小さな体を見つめるカイトの目には、彼女の内に渦巻く途方もない魔力が、はっきりと「光」として視えていた。
それは、氷のように冷たく青い光の渦だ。
本来は美しいはずの輝きだが、所々で乱れ、無軌道に火花を散らしている。カイトの目には、彼女の強大すぎる魔力が自身の器の限界を超え、無理に動き続けているのが手にとるように分かった。力が強すぎるあまり制御が追いついておらず、一歩間違えば、彼女自身や周囲を凍りつかせてしまう危うさを孕んでいる。
だが、このアデルハルト領の環境は、その暴走を防ぐための安全圏として機能していた。この土地を満たす重く冷たい空気が、リアから漏れ出す青い光を包み込み、余分な熱を奪うように自然と押さえ込んでいるのだ。
少し離れた廊下の角では、リアの侍女であり、万が一の暴走時にはその身を挺して周囲を守る護衛役をも兼ねるセレスが、両手を胸の前で組み、心配そうにこちらの様子を見守っていた。
元騎士団で魔力抑制の家系出身である彼女は、身の回りの細やかな世話だけでなく、危険な魔力を物理的・魔術的に抑え込むための高い戦闘力と耐性を備えている。いざという時はいつでも介入できるよう身構えつつも、今はカイトに身を任せている。そしてリアの横顔を見て、わずかにその厳格な瞳を和らげていた。
「……ねえ、カイト?」
ふと、小さな声が降ってきた。見上げると、リアが不安げに氷藍色の瞳を揺らしている。
彼女の指先から、鋭く尖った青い光の欠片がチカチカと漏れだし、窓際の空気中に小さな氷の結晶を形作りかけていた。魔力の制御が乱れ、外へ溢れ出し始めている兆候だ。
「大丈夫だ、リア」
カイトは自分の黒髪を軽く揺らしながら、幼児特有のたどたどしさを残しつつも、ひどく落ち着いた声で答えた。年齢相応の小さな手で、リアの冷えた指先にそっと触れる。
その瞬間、カイトは自身の魔力を――細く、だが一切の無駄を省いた精緻な光の糸として、リアの乱れた青い光の中へと滑り込ませた。
「今、魔力の流れを確かめてるから。……ほら、少し深呼吸して。暴れている青い光を、頭の隅にそっと押しやるみたいに」
「……こう?」
リアが小首をかしげ、言われた通りに息を整える。
カイトは彼女の魔力の波長に合わせ、絡まった糸を解くように自身の光で滞った流れをそっと整え、あふれそうな力を外へと逃がしていく。論理的で精密な、彼ならではの手順だった。
すると、鋭く乱反射していた冷気の火花がスッと収まり、脈打つような青い光は、静かで穏やかな淡い輝きへと変わった。窓辺にできた小さな氷の結晶も、害のない綺麗な形のまま静かに固まる。
(よし、正常な範囲に戻った。……この環境と俺のサポートがあれば、今のところ魔力が溢れ出す心配はない、か)
その見事な処置の一部始終を目にしたセレスは、護衛としての緊張を解き、安堵の息を小さく吐き出し、静かに一礼してそっとその場を離れていった。
冷たい空気が支配する辺境の館の一角で、二人の幼い子供は、光となって視える互いの魔力を通じて、静かに状態を確かめ合うのだった。




