門屋家と爆弾発言
そういえば、金梨に関して、一周目では薄ぼんやりと想像するだけだった事柄が存在した。
そのことを(当然あの白パンツ含め)ふとした拍子に思い出しては、推理していたからこそ、ごくわずかな接点しかなかった彼女のことを、これだけ色濃く覚えていたというわけだが……。
さておき、一周目では解き明かされなかった謎とはズバリ、これだ。
……どうして、金梨は栽培コンテナの中に落っこちてたんだろう。
それも、パンモロ状態で頭からダイブする前のめりっぷりである。
ケガ一つなかったから笑い話であるものの、下手したら、首の骨に障害を負って一生車椅子コースとか有り得そうな現場災害っぷりであった。
そして、二周目の同イベントを、別ルートに分岐させた今、その答えは明らかなものとなったのだ。
果たして、驚愕の真相とは……? 君にその謎が解けるか!?
……ちなみに、この台詞をアニメ版の次回予告で言ってた名探偵の孫のドラマ版キャストが、二代目に引き継がれたのも、この2001年な。
「がっがっがっ!
ぐわっ! ぐわっ!
んぐんぐんぐんぐ!
――プハァー!
おかわり! いただきます!」
少量の刻んだ鶏むね肉に、たっぷりの根付き豆付きもやしを使ったもやし炒めで、大盛りの白いご飯をかっこみ、やはりもやしが具材に使われている味噌汁をングング飲んだジャージ姿の金梨が、堂々たる態度で空の茶碗を突き出す。
なお、彼女はすでに三杯もの大盛りご飯を食べ終えているものとする!
俺ほどの推理力の持ち主だと、ここまで条件が揃えば、おのずと真相に辿り着いてしまう。
なんということだ。西暦2020年代から過去へと戻った人間は、名探偵となってキュアッと解決する宿命だというのか?
なお、記念すべきシリーズ一作目はこの三年後であることを述べたところで、真実のお披露目といこう。
「金梨……。
もしかして、めっちゃくちゃお腹が空いてて、それで栽培中のもやしを文字通り食い入るように見つめてた結果、頭っから栽培コンテナの中へと落っこちたのか?」
母からおかわりの大盛りご飯を受け取った金梨が、ピクリと動きを止める。
それから、不敵に笑ってみせたのだ。
「……お気づきになりましたか」
なんでお前、横山光輝版の諸葛亮孔明みたいな雰囲気漂わせてんの?
そんで、マジで金に困ってたんだな? マグロ漁師になる未来は知っていたが、まさか、調理すらされてない発育途中のもやしに食欲を覚えるほどだとは……。
「はっはっは!
うちのもやしを見て、そんなに食欲を燃やすとは、分かっているお嬢さんだ!」
父――門屋大作が、そんな金梨の姿を見て豪快に笑う。
「……どうした? 豆助。
おれの顔に、何か付いているのか?」
そして、そんな父の顔を見ていた俺の姿にきょとんとした顔。
「いや……別に」
視線を自分の茶碗に移す俺だ。
父がこうも元気にしている姿というのは、なんというか、無性に嬉しくなるものだ。
年頃の女子を家に招いているというのに、汗まみれのタンクトップシャツ(もやし農家は年中汗だくで働くものだ)姿というのはやや無神経だが、それを頼もしく思えてしまうのは、俺自身も一周目で中年期を経験したからか。
「やあねえ、大作さん。
あんたがそんなだらしない格好して、クラスメイトの子の前にいるもんだから、豆助は恥ずかしいのよ」
そんな俺の意思を部分的に代弁してくれたのが、やはりこの頃ははつらつとしている母――門屋巴。
父と同様、家業の関係で汗まみれな姿であるが、それでも作業着の上着はちゃんと着ているし、『あゆ風ショート』にした茶髪は清潔感とシャレッ気がある。
……特に後者は、この十年後くらいには感じられなくなったものだ。
「……それで、誰なの、この人?
お兄ちゃんの高校の同級生?
それが、どうしてうちの栽培コンテナに落っこちて、シャワーとお兄ちゃんのジャージ借りて、ご飯まで一緒に食べてるわけ?」
俺の隣で、味噌汁をすすりながら不満げな声を漏らしたのが、我が妹こと小豆。
今年で小学六年生の、ちょっとおませな女の子……といえば、小豆のことはおおよそ伝えられていると思う。
何しろ、後頭部で下ツインテールにしている髪型こそは、年齢相応の幼さを感じるものだが……肝心なその髪の毛を、明るい茶色に染めているからな!
『女カリスマ美容師を目指すなら、今からオシャレしなきゃいけないの!』
と言って、茶髪にしたのが小学五年生の時のこと。
無論、2001年……髪染めた時は2000年か。
この当時の基準に当てはめて考えるならば、小学生や中学生が髪を染めるなどというのは、通常考えられないことである。
ゆえに、俺はそんなことをして周囲から浮かないか? つーか、先生から怒られないかと心配したものだが、それには、そっけない一言で返された。
小豆、いわく。
『小豆は、お兄ちゃんと違って成績優秀だし、周囲の人望も厚いから平気なの!
変な心配、しないで!』
……とのことである。反抗期早くない?
まあ、そんなわけで、ちょっとおしゃまでかわいらしい自慢の妹……それが、門屋小豆という女の子なのだ。
さておき、親愛なるマイシスターが抱いたごく当然の疑問には、答えておかねばならないだろう。
「こちらは、金梨士さん。
今日から通い始めた高校の同級生で、うちの家業に興味を持ってくれたらしい。
で、もやし工場の見学をしている最中、栽培中のもやしがあんまり美味しそうなんで身を乗り出して見入っていた結果、コンテナに落っこちてしまったので、シャワーと着替えを貸した。
ついでに、もう時間も遅いから母さんが夕飯はいかがと誘って今に至るというのが、ここまでの流れだ」
「うん! 完璧で的確な要約だね!
門屋君、小説家になれるよ! おかわりお願いします!」
もやし炒めひとつまみで、どれほどの白米を道連れにできるというのだろうか?
部活直後の野球部員もかくやという勢いで四杯目の大盛り飯をかっくらった金梨が、空の茶碗を差し出した。
「あらあら、多めに炊いておいてよかったわー」
それに対し、動じることなくおかわりをよそってあげる我が母。多分、余りは明日の朝飯とかに回す予定だったんだろうな……。
「ふうん……? ものすごい食い意地」
「こらこら、お客さんにそういうことを言うもんじゃない。
こういう時はな。見事な食いっぷりって言うんだ」
白い目を向ける小豆に対し、色々とズレたたしなめ方をする父だ。
なんだろう……? 小豆って、見も知らぬ他人に対して、こうまで当たりが強い子供だったか?
それこそ、本人が言う通りの品行方正な、こう……委員長タイプな女の子だと思うんだが。
……まあ、金梨の食欲が凄まじすぎてドン引きしている可能性は、なきにしもあらずだが。
さておき、ここが切り出し時だろう。
「……てなわけで、こちらの金梨さんは見ての通り、うちのもやしに大層惚れ込んでくれたらしくってさ。
うちでバイトしてくれるんだって」
「おお! マジか!?」
その言葉に、身を乗り出すのが俺の父だ。
25年後には事業縮小の結果、パートを減らすまでに至っていた我が門屋商店であるが、2001年のこの頃は、どちらかというと人手不足で困っていた。
が、そこは2001年。ネットもまだまだ黎明期で、安価に利用可能な求人媒体がほぼ存在しなかった時代だ。
というわけで、工場の入口や、配送に使う冷凍冷蔵車の側面に手製の求人チラシを貼り付けてはみたものの、そんなものでそうそう人が集まるわけもなく、困っていたのがこの頃の門屋商店なのである。
ゆえに、父が飛びついた。
「がっ! がっ!
ぐわっ! ぐわっ!
……はい! 栽培コンテナも一個ダメにしちゃいましたし、償いってわけじゃないけど、精一杯働くのでよろしくお願いします!」
そんな父に対し、恐るべき勢いで大盛り飯の半分ほどを平らげた後、元気いっぱいに答える金梨。
「あら、本当に助かるわ」
「んー。
まあ、お父さんとお母さんがいいなら」
母と小豆も、それぞれなりの反応を示す。
うん、うん、いい流れだ。
全ては、未来の記憶があったればこそ。
金梨士という新たなファクターを迎え、俺はこの門屋商店を救ってみせる!
しかしながら、続いて金梨が口にしたのは、未来の記憶を持つこの俺にも、到底予想できない言葉であったのだ。
「あ、それと!
私、できれば住み込みで働かせて欲しいです!
というか、住み込みじゃないと寒さで死にます!
もう家がないので!」
「……はあああああっ!?」
なんだろうな。
普通、相手を驚かせるのって、未来の記憶を持ってタイムリープしている俺の側なんじゃないだろうか?




