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Take On Me 5  作者: マン太


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7.授業

 朱莉の警護と共に、授業も始まっている。

 国語、数学、地理歴史、公民、保健体育、芸術、外国語…。更に芸能コースを専攻している生徒は、別途選択授業が増える。朱莉と同じ、俺もそこへ参加していた。

 正直、これらを前にしたとき、警護の依頼を受けたことを、恥も外聞もなく後悔した。

 普通の教科ならいざ知らず。演劇論だの、古典演劇の考察だの。西洋の演劇から日本の伝統芸能まで。もう訳が分からない。

 もっといけないのが、実技だ。

 コンテンポラリーダンスなんて、最悪だった。だいたい、コンテンポラリーって、なんだ? 感情をダンスで表現──なんて、できるわけがない。俺が踊れば、ジェスチャーゲームにしかならなかった。

 それ以外の教科だって、厳しい。特に数学がついていけない。あれ? これって、どうだったっけ? なんて、思い返しているうちに、どんどん先へ進んでしまい、??? となる。後で朱莉に、仲良し演技のついでに聞いて、ああ、そうだったのか! と納得する。

 警護が主なのだ。まともに受ける必要は全くないのだが、やはり始まるといい加減にできず、集中してしまい。

 今日も授業後、朱莉に分からなかった数式を尋ねていれば、

 

「マジで受けなくったっていいのに。意味ないじゃん」


「そうは言っても、ずっと、寝ているかぼんやりしてる訳には行かないだろ? この件、知らない先生だっているんだし…」


「転校生だし、校長の関係者って分かってるから、絡む先生なんていないよ」


「そうなのか?」


「そうだって。適当でいいんだよ」


「そうかなぁ…」


 こうして、授業が終われば二人で額を付き合わせているから、端から見れば、かなり親密に見えるらしい。そうして、話を続けていれば、


「──ね、朱莉」


 クラスメートの女子が声をかけてくる。内心、身構えた。だって、犯人の可能性もあるのだ。油断は出来ない。


「──なに?」


「直球で聞くんだけど──宮本くんて…彼氏なの? 皆でどうなんだろうって、話してて…」


 女生徒の背後には、興味津々といったクラスメートらの顔が見えた。どうやら、生徒代表で来たらしい。嫌がらせとは関係なさそうだ。朱莉はチラとこちらに目を向けたあと。


「──そうだよ。付き合ってる」


「本当? ──意外。だっていつも三年の先輩とつるんでるし…」


「湊先輩は、ただの先輩。それだけだもん。大和とは別だよ」


「…へぇ、そうなんだ。わかった、ありがとね」


 それだけ聞くと満足したのか、また自分のグループへと戻って行った。戻った生徒を、他の生徒が取り囲む。俺はその様子を眺めつつ。


「…皆、上手く騙されるといいな?」


「私が本気でやれば、騙せない奴なんて、いないって」


 フンと、鼻で笑う。


 ──さすがだ、朱莉。


 この状態でいれば、犯人もその内、反応しだすだろう。なにをしてくるか、不安がないと言えば嘘になるが、高校生のする事だ。過去の話を聞いても、そこまで不安になる要素はない。


 ──気を付けはするけど…。


 心配する岳の顔が思い浮かんだ。

 そこで予鈴が鳴った。つぎの授業のはじまりだ。俺は慌てて席に戻った。



 ワッと歓声が上がった。放ったボールが、回転しながら、綺麗な弧を描き、バスケットのゴールへ吸い込まれて行く。

 残り時間、五秒。ラインの外から放ったシュートが決まったのだ。その直後、試合終了の笛が鳴る。

 三点が入り一点上回って逆転勝利。両手を上げてチームメイトが駆け寄ってくる。


「やった! 大和、すごいじゃん」


「すげー、マジカッコいい!」


「まさか、決まるとは思わなかった!」


 俺は雨のように降り注ぐハイタッチに応えつつ、笑顔になって。


「いやー、偶然、偶然! ラッキー」


 目立たない無難な転校生を演じるつもりが──朱莉の警護についた時点で、それは無理だったが──つい、本気モードに突入してしまい、気がつけばスリーポイントシュートを放っていた。

 ありがちだが、身体を動かす方が性に合っている。高校生の時も、体育の授業となると、やたら張り切っていたのを思い出す。

 

「宮本、おまえ筋がいいな? 短期間の転校生じゃなきゃ、部活に誘ったんだが…」


 体育教師が、残念そうに口にした。


「あはは…、ありがとうございます…!」


 そう言えば、高校時代はバイトが忙しくて、部活動に参加できなかったな。


 ──色々、やってみたかったんだよなぁ。


 バスケもサッカーも野球もバレーも。テニスや卓球、器械体操に陸上競技。数え出せばキリがない。

 朱莉のお陰で、少しだけあの時の、無くしてしまった時間を、取り戻している気がした。



「なんか、賑やかだな?」


 クラスメートが、体育館に目を向けてそう口にした。


「…だな」


 湊の視線の先には、クラスメートに囲まれ、埋もれる大和がいた。小さいから頭の先しか見えないが、あの跳ねる髪は大和のだ。

 グラウンドでサッカーの授業の合間の休憩時間、ワッと上がった歓声に体育館内に目を向けたのだ。


「あれ、転校生だろ? なんか短期間のって、珍しいな」


「そうだな…」


 確かに、珍しいし、変わっている。

 大和は初っぱなから、インパクトを残した。

 幼い頃から空手とボクシングは習っていて、馴染みがあった。格闘技系には自信がある。その湊の拘束を、いとも簡単に解いたのだ。普通の奴ならまず無理だ。

 タメ口を平気で使うし、自分を前にして物怖じしない。湊は身長も高く、容姿も端麗。大抵の人間はひと目見て圧倒され緊張する。


 ──なのに。


 大和は全くの自然体で。年下の癖に、どこか落ち着いている。それに、身体は細いくせに、筋肉がしっかりついていた。普通の生徒のつき方じゃない。何か格闘技をしている奴の体つきだ。

 自慢したっていいのに、本人はその事については、何も口にしない。怪しいことこの上なかった。


「変な奴…」


 湊はクラスメートに囲まれる大和に目を向ける。体育館では、まだ二年生が騒いでいた。

 

 

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