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Take On Me 5  作者: マン太


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その後 1.セルフポートレート

 その日、頼まれた撮影に、岳は全く乗り気でなかった。いや、岳はプロだ。それを表には出さないし、作品にもそれを反映はさせない。──ちょっと、力を抜くくらいだ。

 そんなことは滅多にない。いつか撮ったモデルの、ラルフ海斗にでさえ、手を抜かなかった。


 ──けれど。


「よろしくお願いします──」


 今日は、以前の事務所に併設されたスタジオでの撮影だ。そこを訪れて、四十代くらいの女性マネージャーと共に深々と丁寧に頭を下げて見せたのは、佐々木湊。

 これから売り出すにあたって、新たにセルフポートレートを撮り直したいのだとか。そして、岳を指名してきたのだ。


「──こちらこそ。よろしく」

 

 嫌な予感はしていた。いつかこんな日が来るのでは、と。湊はうっすらと笑みを浮かべて見せた。

 撮影は順調に進む。しかし、ある程度撮り終わった所で。


「ちょっといいですか?」


 湊から声をかけてきた。


「なんでしょう?」


「──皆、無難には撮れているんですけど…。なんか、思っていたのと違うっていうか…」


 と、それを聞き付けたマネージャーが、


「なに言ってるの? 全然、十分じゃないの。すみません、この子、まだ分かってなくて──」


 慌てて湊の頭を下げさせようとするが、


「いえ。──どうしてそう思うんだ?」


 それを制して、先を促す。すると、首を傾げながら、


「前に──モデルの海斗を撮ったの、見たことがあったんです。あれ、凄く格好よかった…。あれの印象が強くって。だから、比べると──」


 ああ、と口に出したあと、岳は笑みを浮かべながら。


「確かに、無難なできだ。が、あの時とは被写体が違う──」


 すると、その言葉に湊がまな尻を吊り上げた。


「──と言っては、失礼だな。どんな相手でも、同じように撮れないとプロじゃない。けれど、ラルフは別だ。元々、積んできた経験が並大抵じゃない。俺はそれを更に引き出した。が、君にはまだ引き出せる程の蓄えがない。──これがいいところだと思うが…」


「わかってます…。けど、それもどうにかするのがプロじゃないんですか? この程度だって、諦めるんですか?」


 喰ってかかる湊に岳は笑う。


「──いい度胸だ」


「す、すみませんっ! いつもはこんな事、言うような子じゃないんですけど。今回だって無理を言って、予定を入れさせてもらったのに…。ほら、湊、謝って!」


 マネージャーは顔を真っ青にさせ、必死に謝罪を湊に促す。


「いえ。お気になさらず。──わかった。じゃあ、全部撮り直す。ラルフと同じように撮る。…容赦しない。──そのつもりで」


 ええっ! とマネージャーは声を上げたが、


「いいですよ? 受けて立ちます…」


 そうして、撮影が始まった。



 結局、撮影は押しに押しまくり。

 終わったのは日付も変わる頃。撮影を始めたのが午前中。昼前には、終えるはずだったのだ。他に急ぎの予定が入っていなかったのが幸いだった。


「──これで終了です。撮ったものは、まとめ直してまた後日、確認してもらいます」


 アシスタントがマネージャーに説明している。少し離れた所で、テーブルの上に腰を預け、休憩も兼ねて撮ったデータを見直していれば、


「…ありがとうございました」


 湊が声をかけてきた。すぐに控え室に戻り、帰るものと思っていたのだが。


「お疲れ。──プロ扱いは、大変だったろ?」


「まあ、そうですね…」


 自分から動けない分、岳から色々注文を出した。引き出しがないから、それに対応するのは大変だっただろう。岳も理解しやすいように、事細かに指示を出した。それでも音を上げずついてきた根性は褒めるべきだろう。


「よくついてきたな? これから、もっと大変な現場に、幾らでも出くわすだろう。そういうときは、我を張らず素直に従って動くといい。──そうすれば、いつか自分の引き出しの中も一杯になるさ」


「──はい。あの…」


「なんだ? 帰らないのか? マネージャーが待ってるぞ」


 湊の後ろに、心配そうな顔をしたマネージャーが控えている。


「プロのあなたは尊敬します。言う通りだって思います…。けど──大和の事とは、別ですから。──じゃ」


 身を翻すと、マネージャーのもとに戻って行った。

 

 ──まったく。


 大和はよくよく、面倒な奴にモテるらしい。しかも、皆、油断ならない手合いばかりだ。


「それも、仕方ない──か」


 大和が魅力的な人物なのだから仕方ない。卑屈で、根性のネジ曲がった、陰険な人物だったら、誰も見向きもしないだろう。それは、岳も同じだ。そんな大和だったら、鼻にもかけないだろう。

 太陽の様に、眩しく目に映る存在だから、無視を決め込む事など出来ないのだ。


「…せいぜい、気張っていかないとな」


 去っていく湊の背を見送った所で、携帯端末が着信を知らせる。大和からだった。通信アプリにメッセージとスタンプが踊る。


『ふてね』


 コツメカワウソが眠るスタンプのあと、送られてきた画像に思わず噴き出した。

 大和が岳の枕を抱きかかえ、こちらに背を向け寝ている。その手前、写り込んでいるサイドテーブルの上には、ワイン、ウィスキー、日本酒の一升瓶の空き瓶に、缶ビールの空き缶が置かれていた。おまけに空になった、柿ピーの袋もある。

 もちろん、大和はこんな大量に飲まないし、大体一人酒などした試しがない。おおかた、家にあった空き瓶、空き缶をかき集めたのだろう。

 要するに、こんな気持ちだと訴えたいのだ。

 よくここまで綺麗に撮れたものだと思う。相当、時間をかけ何度も撮り直しをしたことだろう。そんな大和の姿を想像し、また笑みがこぼれる。こんな、セルフポートレートもあるのだ。

 聞き付けたアシスタントが小首を傾げる。


「どうかされたんですか?」


 すぐに帰る、と、メッセージを返すと大和からは、ハートマーク付きのコツメカワウソが送られて来た。


「──いや。さて、さっさと片付けて帰るとしよう」


 端末をテーブルに置いて、急いで片付け作業に取りかかった。温かいあの場所に帰るために。



ー了ー

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