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Take On Me 5  作者: マン太


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19/24

17.過去

 次の日も、朝から朱莉は打ち沈んだ様子だった。気にはなるが、問いただすことも出来ない。

 昼休みには皆、都合がつかなかった為、放課後、いつものメンバーで倉庫に集まった。


「あれから、本当に大丈夫だったのか?」


 早速、湊が尋ねてくる。朱莉にも自転車の件は知らされ、陽菜も知るところとなった。


「連絡した通り。家族に迎えに来てもらったし、たいした怪我もなかったし。心配してくれて、ありがとうな」


「呑気だよなぁ、大和は。下手したら、大変なことになってたかも知れないのに…」


 自転車はその後、修理に出された。ブレーキパッドの取り替えのみだから、今日中には終わる。岳が取りに行ってくれる手はずになっていた。

 見てくれた整備士が、人の手で削られたものだと、断言した。普通に乗っているだけなら、こんな削られ方はしないと言う。

 一緒についてきた岳は、それを聞いて、そうですかと頷いたが、表情が固かったのは、言うまでもない。


「──まあな。それが俺のいいところでさ。結果オーライって。な?」


「って言うか、やった奴にムカつくんだけど…」


 湊は腕を組み、憤慨した様子だ。


「でも…怖いですよね? いくら朱莉先輩と付き合っているからって、ここまでしなくっても…。登山靴の件で終わったと思ったのに…。──ね、朱莉先輩」


 陽菜は二の腕を抱えながら口にする。隣の朱莉は俯いたままだった。


「先輩?」


「あ、うん…。やりすぎだと、思う…」


「俺も油断してたな。捕まったから安心してたんだけど…。──やっぱり、決行するしかないな」


 実はその件で、岳や真琴、楠らと話し合っていた。

 本当の犯人を挙げるため、こちらから仕掛けることにしたのだ。方法は簡単だ。要は俺がおとりになる。

 俺が朱莉に強く転校を勧めていて、朱莉を説得している、朱莉も前向きに検討中。そう言う体にして、その偽情報を流すのだ。それも、近い間柄の人間だけに。

 近いと言えば、湊に陽菜に、他に親しくしている友人数名ほど。犯人はそのうちの誰かだ。その偽情報に踊らされ、焦った犯人はきっと何かを仕掛けてくるはず。

 この案は、なんと岳が持ちかけたものだった。

 早々にこの件を終わらせる為だと言う。俺の事は自分が必ず守るからと約束した。いつも危険から遠ざけようとする岳の提案に、覚悟を感じた俺は、一も二もなく応じた。


「何を?」


 湊の問いに、俺は心底、残念そうな顔を作って、


「朱莉に転校を勧めているんだ。俺と一緒にな」


「まじ?」


 湊が目を丸くして驚きの表情を浮かべる。朱莉の隣にいた陽菜は、あまりの事に二の句も告げず、ポカンと口を開けていた。


「マジ。朱莉も俺が行くならって──な?」


「うん…」


「朱莉先輩、いなくなっちゃうんですか? 他に方法ないんですか?」


 陽菜がひしと朱莉の腕にすがって、涙目で訴えるが。


「色々考えたけど、これが一番手っ取り早いって事になったんだ。朱莉も前向きに検討中だよな?」


 俺は朱莉に同意を求める。


「そう、だね…」


「朱莉先輩…。なんか嫌々って感じなんですけど…。大和先輩に言われて無理やり、なんですか?」


 陽菜は朱莉の顔を覗き込むようにしてそう口にした。俺は慌ててフォローを入れる。


「そんなことねぇって。な?」


「うん…」


 朱莉の晴れない表情に、陽菜は最後まで納得していない様子だった。



「大和、さっきの嘘だろ?」


 倉庫を出たところで、湊に呼び止められた。朱莉と陽菜は先を歩く。陽菜は朱莉の腕に取りついて、必死に何か懇願しているようだった。


「嘘じゃ…ねぇよ?」


「絶対、ウソ。大和、すぐ表情に出るから」


「…んなこと、ねぇって」


 そっぽを向くが。


 ──いや、岳にはよく言われる。


「な、大和。…なんか隠してないか? 」


「どうしてそう思うんだよ」


「だって、朱莉と付き合ってるって嘘ついてるだろ? ってことは、朱莉のこと、守るためだけに転校して来たって事になる。──それって、普通じゃない。好きでもない相手を守るためって。高校生なのにボディーガードかよ」


 ──うーん、鋭い。


 確かに、俺はボディーガードの為にここへ来た。が、今は湊に話すつもりはない。湊は犯人ではないと分かっているが、話すことでこの計画が犯人に悟られる可能性もある。騙すなら、まずは身内から──だ。


「前にも言ったけどさ、今はなにも言えない。朱莉の件が収まるまではな」


「俺への答えも、その時だったよな?」


「まあな…」


 答えは決まっているのだが。すると、湊が俺の肩を掴んで、自分の方へ振り向かせた。


「…俺は、大和が好きだ。真剣だから」


「──」


 強い眼差しは、岳を思い起こさせる。幾ら高校生とは言え、好きな相手を思う気持ちは一緒なのだ。


「──じゃ…」


 湊はそれだけ言うと、素早く身を翻し足早に去って行った。その耳が赤く染まっていたのを見逃さない。本気なのだろう。

 気持ちが揺らぐことはないが、その思いは十分、理解できる。だからこそ、この件を早く終わらせ、正直に話すべきだろう。


 ──湊には、これから沢山、出会いがある。


 例え思いが届かなくとも、幾らでもやり直せるのだから。



 朱莉は校門前で陽菜と別れる。陽菜は今日も習い事だ。俺が追いつくと、朱莉は視線をこちらに寄越したあと逸らし。


「…少し、話したいことがあるんだけど…」


「なんだ?」


「あっちで話そう…」


 そう言うと、朱莉は校門前から校舎近くの雑木林に向かう。その先へ進めば、いつも皆で集まる旧校舎横の倉庫があった。

 今はそこまで行かず、手前の雑木林で立ち止まる。


「昨日の自転車の──あれ、前にも…あったんだ」


 白樺の木陰に入ると、振り返った朱莉がそう口にした。黒目勝ちの瞳が潤んでいるように見える。


「前にも?」


 朱莉は頷くと、下唇を噛むようにしながら、


「私、前にバスケ部のマネージャーしてたの、知ってるよね?」


「ああ、湊から聞いてる」


「…その時、好きな先輩がいたことも…」


「あ…うん、岡田悠人…だっけ?」


 背筋のスッと伸びた、眼鏡の色白な青年を思い浮かべた。


「よく話すうち、お互い好きだってわかって、付き合おうかってなって…。ちょうどその頃、先輩やっと試合でもレギュラー取れて。これからって時に、先輩、自転車で事故って…」


「自転車で?」


 朱莉は頷くと、


「…そう。今回と一緒。ブレーキが利かなくなって、転んで、足怪我して...。それで、試合にも出られなくなって…」


「でも、事故じゃないのか?」


 朱莉は首を振ると。


「事故じゃない。そのあと、メッセージが入って。…先輩と付き合うからだって…」


「なんだよ、それ…」


「…今回の事故の後も、──メッセージがあった」


「なんて?」


「前の事故を忘れたのかって…。…別れないと、もっとひどいことが起こるって」


 朱莉はポケットに突っ込んでいた端末を取り出して、こちらに差し出して来た。受け取った端末画面には、そのメッセージが確かにあった。読み終えてから端末を朱莉に返すと、


「──わかった」


「ね、もういいよ! 私が我慢すればいいだけだし…。高校卒業すれば、きっとなくなるから…っ」


 必死の形相になるが、


「──いいや。我慢することない。これは俺が止める。打ち合わせしただろ? 偽情報で、犯人を炙り出す! 絶対、捕まえるから。だから、高校生活を楽しむことを諦めるな。──な?」


「でも…!」


「これで最後だ。絶対、上手くいく。俺たちを信じろ」


 しっかりと目を見て言えば、朱莉は暫くこちらを見つめていたが、諦めた様にうつむくと、


「──わかった…」


 小さく頷いた。


「うっし。じゃ、帰ろう。校門まで送ってく」


「うん…」


 そうして、門まで送り、無事に車に乗り込んだのを見届けていれば、


「大和先輩…」


 振り返れば、陽菜が所在なさげに立っていた。さっき帰ったと思ったのだが。


「どうした?」


「その…。もしかしたら、犯人かもしれない人、見かけて…」


「本当か?」


「朱莉先輩と一緒にいるクラスの()で…。でも、怖くてあと、つけられなくて...。たぶん、旧校舎に向かったみたいなんです...」


 旧校舎。ひと気がない場所だ。俺たちと同じように、人に聞かれたくない話をするのには、持ってこいだろう。


「──わかった。行ってみよう。陽菜はここまでいい」


「いいえ! 私も一緒に行きます…!」


 キッと目尻を吊り上げ、拳を作る。朱莉を助けたいのだろう。気持ちは一緒だ。


「わかった。でも、入口まででいい。確認できたら、後は俺の方で何とかするから」


「はい…」


「よし。じゃあ、途中まで案内よろしくな?」


 俺は陽菜と共に旧校舎へと向かった。



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