表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王軍の運用保守プロジェクト ~勇者(バグ)の過負荷攻撃から世界(システム)を守る辺境の中間管理職~  作者: AItak
新世界(Ver2.0)でも、俺たちの残業は終わらない

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/30

第27話 残り二十九時間、隣で戦ってる奴の話


 神様が呆れたような顔で世界そのものに直接宣告した、絶体絶命のカウントダウン。

 王宮地下のトラブルシューティング部門のど真ん中、一番目立つ空中に浮かんでいる赤いデジタルタイマーは、情け容赦のない重い機械音を響かせながらただひたすらに命の数字を無機質に刻み続けていたッス。


 『29:58:30』


 残り時間はついに三十時間を切ったッス。七十二時間あった猶予の半分以上が、すでに血反吐を吐くようなデスマーチの中に溶けて消え去ったことになる。

 本来なら誰もが泣き叫んで絶望し祈りながら世界の終わりを待ってもおかしくないどうしようもない状況なのに。このカビ臭くてホコリっぽくて、古い機械油が極限まで焦げる嫌な匂いが充満している限界の地下室は、信じられないほどのすさまじい熱気と戦場特有の活気に包まれていたッス!


 「行くぞお前ら!! 俺たちの世界の配線は全部俺たちが手動で同時に繋ぎ直す!!」


 ガルムさんがそう叫んで絶望的なスパゲッティコードの赤い海へと迷いなくキーボードからダイブして以来。ここでの光景はもはやシステム保守なんていう小綺麗な言葉で表せるものじゃなくなっていたッス。

 その作業風景は完全に狂気と熱狂が入り混じる魔法の儀式、いやもっと汗臭くて泥臭い命の削り合いみたいになっちゃっていたッスよ。


 何千年分もの歴代のアホで怠惰な設計者たちが無理矢理に繋ぎ続けた地獄のようなスパゲッティコード。一箇所直せば全然関係ない三箇所が連鎖的に壊れてバグるなら、エラーを吐き出す一瞬の隙間でその全てを四箇所同時に書き換えて再接続してしまえば世界は保てる。それは言葉で言うのは簡単でも、常人なら一秒で脳が焼き切れるような文字通りの正気の沙汰じゃない作戦ッス。


 「トカゲ! 南地区の天候パラメーターの配列、三番から八番までを俺がコンパイルする一秒間だけ物理メモリから退避させろ!」

 「了解だッ! 一時退避領域にぶち込んで俺の魔力で鍵を三つ掛けてやったぜ! 急げガルム、三秒以上放置したら変数が完全に腐ってメモリ全体がエラーで火を吹くからな!」

 「一秒で十分だ!! ドラン! 物理配線の三十五番プラグをぶっこ抜け! 鍛冶炉の温度計算のルートを一度切断する!」

 「おうよォォ!! 腕が鳴るぜェ!!」


 ドランさんが太い丸太みたいな毛むくじゃらの腕で壁の分厚いサーバータワーから青白い火花を散らしながら、人間の胴体くらいある巨大なプラグを素手で強引に引き抜くッス。

 そのゼロコンマ五秒の隙間。

 ガルムさんの神速のタイピングが弾け、キーボードの摩擦で指先から煙が上がりそうな速度で千切れたプログラムの論理の糸をターミナルから直接強引に結びつけるんスよ!

 ダダダダダダダッ!! という雨あられのような打鍵音がまるで戦場の最前線の重機関銃みたいに地下室のエラー空間を切り裂いていくッス。


 『西ルートの魔力ネットワーク通信、私が細かい蜘蛛の糸を全部バイパスして一時停止させたわ。……今よ、狂犬! 噛み砕きなさい!』

 『近衛騎士団の物理隔離、王宮内の外からのノイズ流入率ゼロを完全に維持している。愚かなアーキテクト残党は誰一人としてそちらには近づけさせん。心置きなくやれ』


 モニターの向こうから元魔王軍の幹部である四天王のレイナさんとザルガンのおっかない指揮官も、これ以上ないってくらい完璧なタイミングでサポートの声を飛ばしてくるッス。みんなの呼吸が、バラバラの種族の全く違う思惑で動いていたはずの連中が、今は一つの巨大な生き物みたいに完璧に同期してるんス!


 「よしっ、第三層の複合エラー四箇所同時の再ルーティング完了! コンパイル通った! オールグリーンだ!! システムの同期率上昇!!」

 ガルムさんがターンッ!と力強くエンターキーを叩いた瞬間、真っ赤に染まって絶望を叫んでいた四つの巨大なエラー画面が同時に鮮やかな緑色の正常動作の文字列へと美しく書き換わったッス!


 「「「ウオオオオオッッ!! やったぞォォ!! 次だ次ィ!! 休むんじゃねえぞォ!!」」」

 地下室にいるインフラ部員の魔物たちが拳を突き上げながら咆哮するッス。失敗すれば即座に世界が致命的な矛盾を起こして爆発し俺たち全員が消去される文字通り命がけのバグの山の上で、なんでみんなこんなに楽しそうに笑って戦えるんスかね。


 きっと俺ら底辺の下層プログラムや現場の魔物たちは、神様や貴族が作った小綺麗な上にしか行けない論理や堅苦しい神殿みたいな場所より、こうやって油ダラダラ流して泥水すすって、隣の奴と肩を組んで大声出して生きている方がずっと肌に合ってるとしか思えないッス。


 「ゴブ太! 三番プラグの配線がショートして完全に焼けた! すぐに予備ケーブルと予備の冷却液だ! ついでに俺の頭から直接冷却液をぶっかけてくれ! あと糖分たっぷりのコーヒーもな!」

 「はいッス!! 現場のロジスティクスの要、最強の兵站担当のゴブ太が特製濃縮カフェインと替えのケーブルを超速でお届けするッスよー!!」


 俺は台車に山ほど積載した予備パーツとマグカップを山積みにし、火花が散る配線と怒声が飛び交う地下室を全速力で駆け回ったッス。

 俺は最弱のゴブリンだからプログラムを書くことはできないし、太いケーブルを力で抜くこともできない。でもだからこそ誰よりも速く走り回って戦ってるみんなの一秒を稼ぐことはできるッス! これが俺に与えられた俺自身で勝ち取った最強のタスクなんスから!!


 それから数時間の異常な並列処理作業が誰一人倒れることなく狂ったペースで続いたッス。


 赤いタイマーが『25:10:45』を刻んだ頃。

 奇跡みたいな完璧な連携がミスなくずっと続いたおかげで、連鎖する巨大バグの群れの第一波を一時的に全て抑え込み、システム全体に十五分ほどのバグ報告発生のバッファ領域が生まれたんス。


 「よし! 全員タイピングの手を一度完全に止めろ! システムのメモリダンプが安定推移してる。今のうちに十五分間の完全休憩を取る! 倒れて仮眠できる奴は一分でも長く休め!! これは命令だ!」

 ガルムさんの荒い息の号令と共に、極度の緊張状態からパチンと解放された地下室のあちこちでドサドサッと魔物たちが床に無防備に倒れ込んで高いいびきをかき始めたッス。


 俺ももう台車を押しすぎてゴブリンの短い腕が千切れそうなくらい痛かったけど、最後にガルムさんたちのいるメインデスクへ特製の飲み物を配って回ったッス。


 「お疲れ様ッス、ドランさん。あの太いプラグを何十回もミスなく抜き差しするなんて、ドワーフの親方にしかできない神業ッスよ! 俺なら三十本束になった腕が全部引き抜かれてるはずッス!」

 俺が大量の氷を入れた冷たいポーション入りのヤバい色をした飲み物を渡すと、ドランさんは鉄の頑丈なレンチを床に放り投げてドスッと壁際に豪快にあぐらをかいたッス。


 「へっ、ありがてえなゴブ太。五臓六腑に染み渡るぜ。……全く、俺は元々は名誉あるドワーフの町の第一級鍛冶職人の親方様だったはずなのに、なんでこんな油臭くて天井の低い王宮の最下層でパソコンの配線なんてチンケなもんを握らされて四六時中走り回ってんだろうな」

 ドランさんが太い傷だらけの指を見つめながら少しだけ自嘲気味に笑ったッス。

 確かにドランさんはオーウェンの理不尽な命令で工場を潰されて無理矢理ここに左遷されてきたんスよね。


 「もしかして、少しは後悔してるッスか? こんな、いつエラーで爆発して世界ごと消えるか分からないデスマーチの過酷な現場なんて」

 俺が隣に座り込んでこっそり聞くと、ドランさんの横で疲れ果てて床に寝転がっていたトカゲの先輩が細い尻尾をパシッと床に叩きつけたッス。


 「バカ言えゴブ太。そんな後悔なんか一ミリでもしてるわけねェだろ。俺だって元々は王立ネットワークインフラの第一技術者様として綺麗な服着てふんぞり返ってたんだ。だけどなあんな何もしねえでいばってるだけの上層部の綺麗なオフィスより、ここの油とカビの匂いの方が胸いっぱいに吸い込むと不思議と空気がうまいんだよ。生きてるって実感が湧くんだ」

 「空気うまいッスか!? 俺はそろそろ鼻が曲がりそうで香水でも撒きたい気分ッスけど……」


 俺の言葉にドランさんがガハハと笑いながら氷の入った飲み物を一気に飲み干してから。

 デスクでまだ一人だけ休むこともせずにエラーログの次の波のコードのチェックをしているガルムさんの、小さな人間の背中をじっと見たッス。


 「……トカゲの言う通りだ。こっちも不思議とひねくれてやさぐれた気分じゃねえんだよ。確かに労働環境としてはここは最低の掃き溜めだが……あいつの叩くキーボードの音をずっと聞いてるとよ」

 ドランさんが顎の立派な髭を優しく撫でるッス。

 「あのタイピングの音は、上等な熱い鉄を俺たち職人のドワーフが魂込めてハンマーでカンカンと打つ時の音と同じリズムなんだ。いい音色なんだよ。……全く毎日のように言い争いをしてた犬猿の仲のはずの人間の小僧の背中が、今は俺の打ったどんな業物の剣や鎧より一番分厚くて信頼できる盾に見えるんだぜ」


 「ちょっと、全部聞こえてるんだぞヒゲ親父。誰と誰が犬猿の仲で誰のその盾のおかげで今ゆっくり休めてると思ってるんだ。こちとら目がシパシパして前が全く見えねえわ。……あとゴブ太、この緑色のドス黒いコーヒーはなんだ。飲んだ瞬間視界が白黒に反転して、なぜか遠くに死んだおばあちゃんの顔が見えたぞ……」


 ガルムさんが振り返りフラフラしながら俺にツッコミを入れてきたッス。目の下のクマがもはや真っ黒に色素沈着してるんじゃないかってくらい酷いことになってるッス。


 「えっ!? ごめんなさいッス! 魔力回復ポーションの原液を煮詰めてさらに濃縮したやつを七割入れたら、ただの致死性の猛毒になっちゃったかもしれないッス! 吐き出して!! すぐに吐き出して!!」

 「遅せえよ! 胃の壁がシュワシュワ音立てて溶けるかと思ったわ! だが……この理不尽な猛烈な眠気だけは内臓の痛みのおかげで一発で吹っ飛んだ。悪くねえ」

 ガルムさんが口から微かに緑色の光の粒子をフワァッと吐き出しながら、それでもニヤリと悪党のように笑ったッス。


 「全く、上から逃げたり蹴落とされてきた底辺の人間と、変わり者で粗くれの魔物たちだけの掃き溜めの集まりだ。だがこの王宮地下のトラブルシューティング部門は……間違いなく世界で一番強くて一番うるさくて、最高のチームだ」

 トカゲの先輩が嬉しそうに鋭い歯を剥き出しにして笑うッス。


 俺も胸の奥がじんわりと温泉に浸かったみたいに温かくなったッス。

 少し前までははじまりの森で、毎日通りすがりの勇者に斬られ続けるだけの的でしかなかった名無しの雑魚ゴブリン。

 そんな俺にゴブ太って名前をくれて、コーヒーを淹れるという誰かの役立つタスクを教えてくれて。こんな世界の命運を懸けた一番大切な戦場のど真ん中に、当たり前のように俺の居場所を用意して笑いかけてくれている。

 もし神様がこんな居心地のいい泥臭い世界を自分勝手な理由で一瞬でフォーマットしようとするなら。俺は俺のデータに代えてでも、ガルムさんやこの地下室の仲間たちを絶対に守り抜きたいッス。


 その時だったッス。


 ふと俺は休憩がてら背後にある分厚い防護ガラスの向こう側を見たッス。

 そこは隔離室。

 この地獄のデスマーチの影のMVPにして最大の功労者とも呼べる、新勇者HERO-010が一人だけで閉じ込められている無機質な部屋。

 彼は相変わらず俺たちが配管パイプラインで定期的に流し込み続けるシステムの膨大なゴミデータ群の巨大な山を、何の感情のない無垢な笑顔で伝説の聖剣を振り回して物理的に粉砕し続けていたッス。


 「……あれ?」

 俺の小さな疑問の声にガルムさんたちも休憩のコーヒーを置き不思議そうに振り返ったッス。


 「ヒカリア、レ……! テーキー、ハッケ、ン……スルゥ……」

 ガラスの向こうの様子が明らかにおかしかったんスよ。


 HERO-010は無限のスタミナとカンストした火力で、一秒間に何十回も剣を異常な速度で振り回し続けていたはずなのに。

 その滑らかな動作が一瞬だけピタリと。まるで処理落ちしてフリーズした人形のように完全に動きを止めたッス。


 俺たちが息を呑んで見守る中。

 勇者のお兄ちゃんは足元に群がるスライムの山を完全に無視して持っていた剣をだらりと下ろし、何のオブジェクトもないはずの隔離室の中空の天井をじいっと微動だにせず見つめ上げたッス。


 そのガラス玉みたいな虚無の瞳の奥に、ほんのわずかに……迷子になった幼い子供が大好きな母親を探すような、ひどく悲しげで切実な色が浮かんだように俺には見えたッス。


 「ア……アァ……。オレハ、オレハ……ココデ、ナニヲ……」


 勇者のお兄ちゃんが首をコテンとひどく人間に近い感情的な仕草で傾けた瞬間。


 バギィッ!! と彼の強く握っていた伝説の聖剣のポリゴンが、今まで聞いたこともないような激しい不快なノイズを立ててバグり、彼自身の右腕のグラフィックそのものが一瞬だけ黒いモザイク状にひび割れて崩れたッス。


 「おいおいおい!? なんだありゃ!? システム修復のための要である勇者のデータが急に崩壊しかかってるのか!?」

 ドランさんが慌てて立ち上がって防護ガラスに太い顔を張り付けるッス。

 「このままガベージコレクションの機能が止まっちまったら、世界中のメモリが数分でパンクして俺たちのがんばった手動修正が全く間に合わなくなるぞ!! メモリの空きがないとコードが書けなくなる!」


 トカゲの先輩が悲鳴を上げながら慌てて隔離室のステータスログのターミナルを叩いて調べるッス。


 「い、いや! 一時的なフレーム落ちだ! 腕のモザイクも直ってすぐにまたスライムの山に向かって剣を振り始めた! ……おいガルム、今のあいつの虚空を見る変な悲しそうな動き、一体どういうワケだ!? あんなバグ今まで一度も見たことねえぞ!」


 ガルムさんは猛毒コーヒーのカップをデスクにカンッと置き、鋭い猜疑心を孕んだ目でガラスの向こうの勇者を睨みつけていたッス。


 「……分からねえ。だが、あいつは本来魔王を倒すためだけに思考を制限されて作られた単純なAIロジックのはずだ。あんなふうに悲しそうに空を見るなんていう人間みたいな無駄なモーション、俺たち下層のシステム屋の方で組まれた形跡は一切ない」


 ガルムさんの低い声が嵐の前の静けさのような地下室に重く響く。


 「……もしかして神が一番最初に直に流し込んできたあいつのベースモデルのコアそのものの残滓が、あの純白の空間の接触か何かの影響で干渉して自意識を持ち始めてるのか? それとも俺たちのこの泥臭くてエラーだらけの世界の不浄な空気が、完璧な真っ白のお人形さんであるあいつの中にまで感染って変な感情を生み出したのか」


 背筋がゾクッとしたッス。

 ただのプログラムのバグの塊としか思っていなかった勇者のお兄ちゃんが。もしも彼の中に俺たち生きている魔物たちと同じような心や感情のバグが芽生え始めているとしたら。彼はずっと一人で戦い続けて、一体何を思っているんスかね。


 ピリリリリリリリッッ!!


 だがその疑問に答えを出す暇は、システム屋である俺たちには無情にも与えられなかったッス。

 奇跡的な十五分のバッファが完全に尽き、メインモニターが再び真っ赤なエラー警告を火を吹くように表示し始めたからッス。


 「クソッ、新手の第四層ネットワークエラーの大規模発生だ! 複数のサーバーがダウンしかかってる! 全員起きろ!! 楽しい休憩はおしまいだ!! 持ち場へ戻れ!!」

 ガルムさんが叫び瞬時にキーボードの海へと鋭いプロの意識を切り替える。

 「今は勇者の異変を構ってデバッグしている時間は一秒もねえ! ゴブ太、お前は勇者の部屋のコンディション監視だけは裏の別モニターでずっと続けろ! もし本当に完全に機能停止したら即座に教えるんだ!」

 「は、はいッス!! 了解ッス!!」


 再び機関銃のようなすさまじいタイピング音とドランさんの怒号とトカゲ先輩の悲鳴、そして焦げた火花が飛び交う熱狂のデスマーチの荒海へと俺たちは迷うことなく飛び込んでいったッス。


 ――そして。

 そこからはどれだけの時間が経過したのか、もう誰の頭の感覚も痛みも疲労も麻痺しきっていた夜明け前の頃。


 『各部、手を休めずに報告を聞きなさい』

 突然、通信モニターの向こうからレイナさんのどこか震えるようなしかし確かな歓喜と喜びを含んだ声が地下室に響いたッス。


 頭上の赤いタイマーに、手を動かしながら全員が一瞬だけ目を向けたッス。


 『20:59:15』


 残り時間はついに二十時間を切る直前になっていたッス。


 『たった今、私とドレインの集計処理モジュールで正確な数値が確定したわ。……システム全体の根幹コードの手動修正完了率。つまりあの絶望的だったスパゲッティコードの巨大な山の解消率が……』


 レイナさんが美しい唇をニヤリと悪女のように曲げてとんでもない言葉を放ったッス。


 『ついに五十パーセント。……半分を完全に超えたわ!! バグのエラーの自然発生による増殖スピードより、ガルムたちインフラ屋の並列修正処理スピードが完全にシステムロジックとして数字上で上回ったのよ!!』


 「「「おおおおおおおおおおっっ!!!」」」

 地下室が今度こそ物理的に爆発するんじゃないかという狂喜の歓声と涙声の混じった雄叫びで溢れかえったッス。

 不可能だと思われていた。人間の手では直せないと絶対の神様にも見捨てられた限界のシステム。

 それを俺たちは泥水すすりながら気合いと根性と隣にいる仲間への信頼だけで、ついに折り返し地点まで到達させてみせたッス!!


 「……聞いたかお前ら。俺たちの泥臭い勝ち目がただの根性論じゃなく、完全な数字のロジックになってはっきりと論理的に証明されたぞ!」

 ガルムさんがよれよれの白衣の襟の汗を袖で強く拭いながら、これ以上ないってくらい凶悪でそして世界中の誰よりも最高に頼もしい笑顔で立ち上がったッス。

 その血走った目にはもう神の初期化への絶望なんて、一ミクロンたりともカケラも残っていない。


 「残り二十時間。ここからは完全に俺たちの得意な追い上げのターンだ。一分単位でアクセルをさらに床まで踏み込むぞ! このクソみたいな神のプログラムを俺たち下流の泥臭い手で全部残さず上書きして、俺たちの世界を完璧に取り戻してやるぜェェェ!!」

 「「「ウオオオオオオオオオッッ!! 行くぞォォ!!」」」


 神とシステムへの反逆、その怒涛のデスマーチは勝利の希望と数字の証明という最高の劇薬を注射されて。

 誰一人欠けることなく最終コーナーとなるラスト二十時間へと強引に突入していくッス!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ