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魔王軍の運用保守プロジェクト ~勇者(バグ)の過負荷攻撃から世界(システム)を守る辺境の中間管理職~  作者: AItak
新世界(Ver2.0)でも、俺たちの残業は終わらない

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第13話 勇者は平和な世界で何をすればいいのか、わからない


 魔王の居城が完全に崩壊し、大陸を覆っていた暗黒の結界が霧散して、空に一条の眩い光が差し込んだあの日から、もう数日が経過していた。

 アルゲリア王国の王都、その中心地にある最も絢爛豪華な宿屋のスイートルームにて。勇者アレンは、真新しい高級な亜麻布のシーツの上で目を覚まし、窓から差し込む美しい朝陽を浴びながら、深く、深くため息をついた。


 「……今日も、平和だ」

 アレンはゆっくりと重い身体をベッドから起こし、眼下に広がる活気ある王都の大通りを見つめた。

 彼の傍らには、過酷な試練の末に神から授かった伝説の武具「聖剣エクスカリバー」が立て掛けられている。しかし、かつて魔族を震え上がらせたその神々しい輝きは、抜く相手が誰もいない今、どこか退屈そうに鈍っていた。

 無理もない。世界から魔王という絶対的な脅威が消滅し、世界が新しい平和な時代へと移行した今、アレンの勇者としての使命は完全に消失してしまったのだから。

 王様からは「そなたは世界を救った英雄じゃ。これからは城下町でゆっくりと羽を伸ばすがよい。生涯の生活は王宮が保証しよう」と莫大な報奨金を与えられた。しかし、物心ついた時から剣の素振りと過酷なダンジョン探索にしか明け暮れてこなかったアレンにとって、このスローライフという名の絶対的な虚無は、想像を絶する拷問に近いものであった。


 アレンの力は、過酷な戦闘の末にすでに人としての限界値を突破し、神の領域にまで達している。彼の肉体には常人の何万倍もの濃密な闘気が宿っており、ただ呼吸をするだけで周囲の霊力を激しく消費してしまうのだ。


 コンコン、と控えめなノックの音がして、豪奢なオーク材の扉が開いた。

 「アレン、起きてる? 朝食の時間よ。今日は東の国から取り寄せた新鮮なフルーツの盛り合わせらしいわ」

 入ってきたのは、パーティメンバーである若き天才魔法使い、エリアリアだった。彼女は魔王軍との最終決戦で放った禁呪の後遺症で魔力の大部分を失っているはずだが、その手にある大賢者の杖は、今やすっかり魔法の杖というよりは、高級なお洒落アクセサリーと化している。彼女の後ろからは、分厚いミスリルプレートを磨き上げた重装戦士のゴードンと、純白の法衣に身を包んだ心優しき聖職者のフィリアが顔を覗かせていた。


 「おはよう、エリアリア、みんな……その」アレンは言葉を濁した。「今日も、やることがないな。平和なのは喜ばしいことだが……」

 「仕方ねえさ。王都を取り囲んでいた凶悪な魔物の一匹すら出ねえんだからよ。この世界はすっかり綺麗に浄化されちまった」ゴードンが肩をすくめ、自慢の剛腕で自らの肩を叩いた。「武器の手入れも昨日だけで百回はやったし、鎧の艶出しも完璧だ。宿屋の飯は最高にうまいが、戦いがないと身体が鈍っちまってしょうがねえぜ」

 「私は平和なことは素晴らしいと思いますけれど……アレン様のその思い詰めたようなお顔を見ていると、少し心配で」フィリアが祈るように手を組み、憂いを帯びた瞳でアレンを見つめた。「夜中も、ずっと剣の素振りをされていましたよね? 剣が空を切る風鳴りの音が……いえ、なにかもっと不気味な、空間が切り裂かれるような恐ろしい音が響いていましたが」


 アレンは彼女の言葉にハッとし、決意を込めて立ち上がった。

 「よし。散歩に出よう。王都の住人たちは平和、平和と浮かれているが、もしかしたらまだ街の片隅に魔王の残党や、苦しんでいる人々が隠れているかもしれない。真の平和とは、ただ与えられるものではない。自らの足で歩き、確かめるものだ!」

 「アレン……そうね。こんな素晴らしい朝に、部屋にこもってウジウジ悩んでいるよりはずっとマシかも!」


 かくして、世界でも随一の強すぎる力を持った勇者パーティは、新たな使命を探すために、平和の象徴たるアルゲリアの大通りへと足を踏み出したのである。

 彼らは知らなかった。自分たち力が強すぎる存在が、生まれたばかりの不安定な新世界において、ただ存在するだけで街の理を圧迫する災厄の種であるという事実を。


 外に出た途端、アレンは己の鋭敏すぎる勇者の感覚に強烈な違和感を覚えた。

 「……なんだ? この空気の歪みは。ひどく息苦しい」


 アレンが一歩、力強く王都の石畳を踏みしめた瞬間だった。

 彼の足元の石畳が、一瞬だけ半透明に透け、その下にあるはずのない虚無の暗闇がチラリと覗いたのだ。

 「きゃあっ!? アレン! 床が……床が一瞬、消えましたわ!」

 フィリアが悲鳴を上げ、アレンの腕にしがみつく。アレンは即座に聖剣の柄に手をかけ、鋭い視線で路地を見回した。

 「気をつけろみんな! 油断するな! やはり俺の予感は的中した……魔王は死んだが、奴が死に際に残した呪いの残滓がまだこの王都の根幹を蝕んでいるに違いない! 俺たちの放つ強力な聖なる気配に当てられて、世界を覆う幻術が剥がれかけて真の闇を見せたんだ!」


 「馬鹿な……見ろ! アレン!!」ゴードンが大斧を構えながら前方を指差した。「やはりこの街は、見えない脅威に侵されている!!」

 アレンたちが目を向けた大通りの中央広場。そこには、信じられない狂気の光景が次々と広がっていた。


 広場の中央にある美しい勇者記念大噴水。そこから湧き出るはずの清らかな水が、あろうことか天高く、どこまでも続く青空の雲に向かって、重力を無視して逆流して空へ昇っていくではないか。

 さらに大通りの果物屋では、木箱の中の大量の真っ赤なリンゴたちが、不可視の悪魔に取り憑かれたかのように空中で激しい絶叫を上げながら、ブルブルとブレて暴れ回っている。


 「ああっ! なんておぞましい光景だ!」エリアリアが杖を構え、震える声で叫ぶ。「重力が完全に逆転し、罪なき果実が自らの意思を持って苦悶の声を上げている! これは強力なポルターガイスト現象よ! 魔王の怨念が、王都の物理法則を破壊しようとしているんだわ!」


 「なんてことだ……王都の人々は、こんな恐ろしい呪いの真っ只中で、無自覚に生活しているというのか!?」

 アレンは義憤に駆られ、歯を強く食いしばり、拳から血が出るほど強く握りしめた。やはり自分たち勇者パーティは、まだ休息を取るわけにはいかないのだ。俺たちがこの隠された呪いから人々を救い出さねばならない。


 その時、小路から一匹の小さな茶色い野良犬が、アレンたちに向かって走り出てきた。

 キャン! キャンキャンキャン!

 犬が吠えるたびに、その頭上の空中に赤黒い血のような不気味な文字が刻まれた半透明の札がポンッ、ポンッと不快な破裂音を立てて無数に出現していく。札には解読不能な古代のルーン文字が刻まれており、犬が連続して吠え続けることで、その血の札は空を覆い尽くすほどの数に増殖していった。


 「見ろ! あの魔犬が、呪いの札を撒き散らしている! あれに触れれば魂を抜かれるぞ! これ以上あの呪いが広がれば、人々の心が闇に飲まれてしまう!」

 アレンは決死の覚悟で、抜き身の聖剣エクスカリバーを上段に構えた。

 「下がっていろフィリア! 俺が邪悪を討つ! ハァァァァッ!! 聖剣よ、邪悪なる幻影を切り裂け! 奥義・ホーリー・スラッシュ・フルバースト!!」


 アレンの剣から放たれた極太で圧倒的な光の斬撃が、一切の手加減なしで、空中に増殖した呪いの札の群れに向かって飛んでいく。

 しかし、それが世界の崩壊を招く、最悪の引き金となった。


 「ガッ、ギギ、ブブブブブッ……!!」

 突然、世界全体の時間が重くなった。極端に遅くなった、と言うべきだろうか。

 空を飛んでいた鳥が空中でピタリと静止し、コマ送りのようにカクカクと不自然にワープするような動きを始める。

 道ゆく人々が突然足を止め、無表情のまま両手を左右に水平に広げた十字架のような恐ろしい姿勢に固定され、そのまま地面をスーッ……と滑るようにアレンたちの周りを移動し始めた。


 「な、なんだこれは!? この街の住人すべてが、呪いによって操り人形に変えられていく!! アレン、私の足も……足がなんだか泥の底を歩いているように重い!」

 ゴードンが恐慌状態に陥り、大斧を振り回すが、その動きも通常の十倍ほど遅い。

 「時が……時の流れそのものが淀んでいるわ! 邪悪な魔力があまりにも濃すぎて、世界の理が崩壊しかけているのよ!!」エリアリアが悲鳴を上げた。

 「アレン様! お願いです、あの逆流する中央の大噴水……あそこに全ての呪いの根源が集まっています! 我々の全ての力を持ってあそこを浄化しなければ、間違いなく世界が完全に闇に沈んでしまいます!!」


 「任せろフィリア!! 俺たちの持てる力の全てを出し切って、必ずこの王都を救ってみせる! 死んでもみんなを守り抜く!!」

 アレンは悲壮な使命感に燃え上がり、逆流する大噴水に向かって、スローモーションのように重い足取りで駆け出した。十字架の姿勢で滑ってくる村人たちを間一髪で避けながら、噴水の中心へと飛び込む。


 「行くぞお前ら! 全魔力結集――究極奥義を放つ!!」

 「応!!」

 アレンが聖剣を天高く掲げ、エリアリアが手持ちの最大火力を誇る禁呪の詠唱を始め、フィリアが最高位の奇跡を天に祈り、ゴードンが大地を揺らす咆哮と共に大斧に闘気を込める。

 勇者パーティ四人のすべてを注ぎ込んだ、世界を滅ぼしかねない最強最悪の連携技が、平和な王都の広場のど真ん中で、一切の遠慮なく炸裂した。


 ズギュウウウウウウウウウウウウンッ!!!!


 ――次の瞬間。

 世界から音が完全に消失した。

 いや、音だけではない。アレンたちの目の前、広場の中央にあった大噴水が、白昼夢のような激しい光のフラッシュに包まれた直後、空間ごと巨大な四角い形に消失したのだ。

 後に残されたのは、美しい石畳も、逆流する水も、大気の光すらない、完全なる絶対の虚無。

 その底知れない黒い奈落の口からは、世界を崩壊させるような恐ろしい警告の赤い光がチカチカと漏れ出している。


 「あ、ああ……なんということだ……」

 アレンはその圧倒的な絶望の前に、がくりと膝をついた。

 「俺たちの全力の力でも、魔王の呪いは浄化できなかった……そればかりか、空間に巨大な魔界の穴を空けてしまった! このままでは、王都が……いや、世界そのものがこの暗黒に吸い込まれて消滅してしまう!」


 「俺の責任だ。俺が引き起こした事態だ……! こうなったら、俺がこの穴に飛び込んで、我が命と聖剣の力と引き換えに、内側から永遠の封印結界を張る! みんなは逃げてくれ! そして王様を連れて遠くへ!!」

 アレンが悪魔の穴に向かって決死の跳躍を見せようとした、まさにその時であった。


 「――おい待てそこの阿呆共!! 絶対に一歩も動くな!! 息を止めておけ!!」


 突如として、広場の地面の隅にあった古びた鉄の扉が勢いよく吹き飛び、地下の暗闇から奇妙な装束を着た集団が怒号と共に這い出してきたのだ。

 先頭に立つのは、王都の華やかな住人とは全く異なる、油と泥にまみれたボロボロの白衣を着た、異質な気配を纏う男だった。頭髪はなく、その瞳には魔王すらも凌駕するような深い絶望と、何ヶ月も眠っていないような恐ろしい隈が真っ黒に刻まれている。

 背後には、毛むくじゃらで屈強なドワーフの戦士と、小さなゴブリンの魔術師が続いている。彼らからは、アレンが知るような常人の魔力は一切感じられない。だというのに、その佇まいからは、幾千の死線を潜り抜けてきた熟練の暗殺者のような、氷のように鋭い覇気が漂っていた。


 「あ、あなた方は一体……!?」アレンが驚いて剣を降ろす。

 「チィィィィッ!! だから口を酸っぱくして言ったんだ俺は!! 事前の確認もせずに、限界を超えた勇者を街に放流するから、過負荷で空間が崩壊しやがったんだよ!! 見ろこのあり様を!」

 白衣の男が、アレンには全く理解できない呪文を叫びながら、頭を抱えて激しく舌打ちをした。


 「急げドラン!! 空間が完全に消え去る前に、土台を叩き込んで流し込め! ゴブ太、お前はそこのアホ勇者共をあの範囲内から物理的に追っ払え!! あの大馬鹿共の力そのものが、この世界を縛る負荷の塊なんだよ!!」

 「おうよォ! まさか初日に、究極の空間崩壊のお目にかかるとはなぁ! 平和な世界、最高にスリリングで吐気がするぜ!!」


 ドワーフの男が、肩に担いでいた巨大な鈍色の十字架の儀式杖を振り回し、黒い虚無の穴の縁に向かって恐れもなく躍り出た。

 そしてアレンの目を疑うことに、彼は魔力も込めず、呪文も唱えず、真っ黒な無の空間そのものに向かって、ガンッ!! ガンッ!! と物理的に重い金属を叩きつけ、空中の見えない何かの理を筋肉の力だけで力強く締め上げ始めたのだ。

 彼が杖を叩きつけるたびに、無の空間から激しい青白い火花が散り、世界が奇妙な音を立てて歪み、光の網目のようなものが組み上がっていく。

 同時に小柄なゴブリンは、アレンたちの足元に謎の魔法陣を引き、不可視の壁を展開して勇者たちを穴から遠ざけた。


 「……なんという恐るべき神聖儀式だ……」アレンは言葉を失い、喉を鳴らした。魔法使いのエリアリアも、かつて大賢者ですら見たこともない荒々しい秘術に震えている。

 「呪文の詠唱も、複雑な魔法陣の構築すら一切ない……ただ物理的な打撃と不可視の力によって、世界のひび割れた理そのものを、強制的に編み直しているのか……!?」


 ドワーフの男が叫んだ。「土台の固定、完了! リーダー、いつものぶちかましてやれ!!」


 「了解だ」

 白衣の男が、白衣の汚れたポケットから黒い鉄の聖遺物をゆっくりと取り出した。その鉄の塊が放つ威圧感は、アレンの聖剣すらも凌駕するような絶対的な支配の力を持っていた。


 「強制権限発動!! 対象区画の情報を、正常な過去の状態から強制復旧!! そこのアホ勇者が引き起こした異常はすべて破棄だ!!」


 白衣の男が、その恐るべき鉄の鎚を、暗黒の虚無の中心に向かって一切の躊躇なく、思い切り振り下ろした。

 パァァァァァァンッッ!!!!


 鎚の重い一撃が虚空の壁を叩いた瞬間。

 まるで時を操る巻き戻しの時空魔法が発動したかのように、真っ黒だった奈落の穴が、光の粒子と共に瞬時にパタン!と閉ざされ、元の平和な石畳と、キラキラと輝く正常な大噴水が一瞬にして再構築されたのである。

 同時に、重く澱んでいた時間が嘘のように消え去り、鳥はさえずりながら空を舞い、十字架のポーズで滑っていた村人たちも正常に手足を動かして歩き始め、空中で破裂音を立てていた果物屋のリンゴもポトンと木箱の中に静かに収まった。


 世界に、完全に平穏が戻ったのだ。

 それも、たった数秒の、名もなき修道士たちの物理的で粗暴な儀式によって。


 「……ああ。なんということだ」

 アレンは感動のあまり、震える足で歩み寄り、白衣の男の前に静かに跪いた。

 「あなた方は……あなた方こそが、この世界の真の守護者。人知れず暗黒の呪いと戦う、神が遣わした影の使徒だったのですね!」

 アレンは深々と、最上級の敬意と畏怖を込めて頭を下げた。

 「どうか、その尊き名を教えてください! 我ら勇者パーティも、剣を携え、あなた方の絶望的な聖なる戦いに加勢させてほしい! 共にこの世界の呪いを祓うための礎となりましょう!!」


 しかし。

 アレンが見上げた白衣の男の顔は、神の使いなどという誇り高く威厳に満ちたものではなかった。

 男の真っ黒く濁った瞳には、アレンたちという絶対的な正義の象徴を前にしても、一切の敬意も熱意も、そして恐れすらなく、ただただ純度100%の極度の面倒臭さと、睡眠不足による殺意だけが黒く渦巻いていた。


 「……頼むから」

 白衣の男は、地を這うような怨念のこもった低い声で、絞り出すように言った。

 「お前らは、このせっかく平和になった世界で何一つ一切のことをするな」

 「え……?」

 「絶対に剣を振るな。無駄に魔法陣を展開するな。大声で叫ぶな。無闇に走るな。お前らの無駄に派手で過剰な演出の数々は、この世界の基盤を致命的に圧迫し破壊する。お前らがこの街に存在して、普通に動いているというその事実だけで、俺たちは地下室で吐き気と戦いながら何徹もさせられるんだ。これ以上俺の仕事を増やすな、頼むから!」


 男はアレンの肩をポン、と軽く、諦めたように叩いた。

 「息を吸って、大人しく誰にも迷惑をかけない宿屋のベッドで寝てろ。一切の無駄な行動をこの世界に起こさないこと。お前らの最強の力を行使しないこと。それが今、お前が大局的に世界を救う、唯一にして最大の手段だ。わかったか」


 言い捨てると、白衣の男は振り返りもせず、ドワーフやゴブリンの仲間たちを連れて反転し、再び暗い地下室へと、背を丸めて帰っていった。

 カチャン、と重い鉄の扉の蓋が閉ざされる。広場には、何事もなかったかのように平和なそよ風が吹き抜けている。


 アレンは、男たちの消えた汚れた扉を、ただじっと見つめ続けていた。

 「……そうか。俺は、ようやく理解したよ」

 アレンの目から、一筋の熱い涙がこぼれ落ちた。

 「真の平和とは、安易に剣を抜くことではない。己の強大な力を自ら封じ、世界の調和を信じて何もしないことなんだ。あの悲しき瞳をした影の賢者たちは、自らの華やかな人生を暗黒の泥底に捧げることで、俺たちにその重い真理を教えてくれたのだ……!」


 「アレン……なんて底知れぬ無償の愛と、尊い自己犠牲なのかしら」エリアリアも涙ぐみ、杖を握りしめた。

 「ああ。俺たちも、彼らの無言の教えに従おう。もう二度と、この街で決して不用意な力を使わないと、彼らの背中に誓うぜ」ゴードンが首を垂れ、兜を取って深く黙祷した。


 絶望的な勘違いと、完全にすれ違う技術的解釈。

 かくして勇者アレンとそのパーティは、世界一力の強い己らの武具を完全に封印し、平和な王都の宿屋で一日の大半をベッドで寝て一歩も外に出ないで過ごすという、極めて退廃的で究極の絶対スローライフへと自粛の足を踏み入れることになったのである。


 彼らの活躍により、王都にかかる負担は奇跡的かつ劇的に改善された。

 ただ、王宮のさらに深い地下室で、今度は新上司の無茶振りや別口のトラブルの山に埋もれながら、恩人たる白衣の男が毎日血の涙を流し続けていることなど、ベッドの上で満ち足りた表情で眠る輝かしき光の勇者たちは、永遠に知る由もなかった。


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