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ムーンフラワーの儚い美しさで  作者: 影葉 柚希
始まりの出逢い~村設立
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3話:村を誕生させるにはどうしたら良い?

 ルグは早朝……リュミやアベリア、エミルが起きるより遥かに早い時間に起床して領主としての仕事を始めているが、その仕事は多岐に渡るのが領主としての仕事だと言える。執事のサポートを受けながら大量の書類と国造りの土台ともなる「村」の設立に至る為の情報整理を行う。

 幸いにも土地の豊かさはルルーンガリア国においても肥沃的であるが、人が住まないのは住む為の土地が整備されていないの原因、だとルグは考えていた。そして、朝食までの間に起床してきたリュミがルグの事を知る為の言い方が悪いが監視をする為に部屋にやってくるも、資料の多さに息を飲む。

「これを朝早くからしていたのか?」

「これだけで済んでいる方だよ。普段はこの数倍はまだあるからね。それに、そろそろ領主としての実力を示さないといけない時期でもあるんだ」

「村を作る為に動き出す、って事か?」

 リュミの言葉にルグは小さく頷いて、椅子から立ち上がると壁に貼っている領地の地図を見上げる。リュミが隣に立って地図を見つめているのを確認したルグはある場所にピンを刺す。

 そこは、広く肥沃な土地としても村には最適な土地であるが故に、人の手が入らない理由も存在する。平坦な土地だが、岩やモンスターの巣穴が点在していて簡単に整備を受け入れられるような状態の土地ではないのであった。

「モンスターの巣穴はルスの力を借りれば難なく滅する事は可能なんだけれど、モンスターが復讐をしてこない可能性もあるって人間達は簡単には立ち入る事を拒んでいるんだよ」

「それじゃ簡単に人は集まらないって事か。それだと村作りも簡単じゃないって事だな」

「あぁ、どうにか村を作れる為の土台をこの土地に建築していかないと国造りの基盤だ。ここで躓く訳にいかないんだよ」

 話す横顔をは少しだけ苦しそうな表情だと見ていたリュミは、ある可能性をルグに提案した。それはルグにも考えがなかった訳ではないが、そこまでの具体的な方法を実行に移せるだけのキッカケがなかったと言える。

 リュミが提案したのは、ハンターギルドに依頼を出す事。元々、リュミはハンターをしていたから考えられる提案ではあった。

 だが、ルグは吸血鬼……人間達からそう簡単に信頼される事が難しいのも十分にリュミも理解をしている。だからこそ、自分を使って欲しいとルグに一言告げる。

「俺の人脈を使ってくれ」

「リュミ君の?」

「俺は元々ハンターをしていた。その頃の人脈はまだ生きている。俺の力でハンターズギルドを動かす。それでモンスターの巣穴を殲滅すれば少し人が集まりやすいと言えるだろう?」

 リュミがこの提案をしたのはある意味のルグへの試しが入っていたと言える。ルグがここで素直にリュミの提案を飲むのであれば、それだけルグは人間と共存を望む吸血鬼だと認識出来て、信頼を深める事も可能だと言えるからだ。

 だが、ルグが別の意味でハンターを頼れないのであればルグにも問題はあると考えて、向き合う事を付き合うつもりではリュミにはあった。だが、ルグがどうしてハンターズギルドを頼らないのかを知った時、リュミはルグの優しさを知る事になる。

「僕がハンターを頼らなかった訳じゃない。ただ、彼らだって帰るべき場所、待っている人、それらを僕の為に失わせる事は出来ない。彼らの力は僕達吸血鬼に使うんじゃない、愛する者達の為に使われるべきなんだよ」

「……」

「甘いと言われるかも知れない。でも、この世界に生きる全ての存在は愛する者達との間に命を授かって、そして、この世界を作り上げてきた。どんな理由があっても、それを傷付ける権利は僕にはないと思っている」

 ルグの言葉に込められた感情を感じ取って、それでいて深い慈悲を知り、リュミは静かに口元に笑みを浮かべていた。だからこそ、このルグと言う一人の吸血鬼を信じたいと思ってしまうのかも知れない。

 アベリアとエミルの事もあるからとルグが部屋から出ていくと、ルスがリュミの足元に姿を見せて腹這いになって見上げてくる。その頭を優しく右手で撫でるとリュミはルスに一言漏らす。

「お前の主人は本当……吸血鬼って信じれない程のお人好しだな」

『それがあのルグの魅力なのだ。だから私は従う。ルグの望む世界を私は知りたい』

 その言葉を聞いて思いが届けば人間との共存だって無理じゃない事を考える。ルスの頭から胴体を撫でていた時に執事の声がして、朝食の準備が出来たと知らせが入ってルグに遅れてリュミも食堂に向かった。

 食堂にはエミルとアベリアはまだ来ていなかったが、ルグが抑制剤を飲んでいる姿を見て思う。こんなにも人を思う吸血鬼がいる反面、人間は醜い価値観と憎しみを募らせて他種族を排他していく。

 それが当たり前のように許される事がなんとも悲しいと言うべきだろう。少しでも他者を、多種族を、分かり合おうとする動きは異端者だと言われて抑制されてしまう、

「ルグ」

「うん?」

「俺はやっぱり、あんたのような吸血鬼が造る国があった方がいいと思う」

「どうしたんだい? いきなり」

「何も、俺はあんたの国で生活したい」

 リュミがそう言ってルグの右肩をポンっと叩く姿をたまたま入ってきたエミルとアベリアは、顔を見合わせながら首を傾げていた。そして、四人の食事を見守っていたルスはリュミから与えられてハンターズギルドに自分が赴く事になる未来図を予想していたのは秘密の話。

ーーーー

 ハンターズギルド宛に手紙を書いたリュミの元にアベリアが姿を見せて、手紙に気付くと首を傾げて不思議そうにしている。それを見てアベリアがどうして不思議そうにしているのかはリュミにはある程度の理解はできていたが、それを言葉に出す事はしなかった。

 ルスがリュミの書いた手紙を受け取りに来て、受け取った手紙をどうやって運ぶのかとアベリアが問い掛けると、ルスが尻尾を揺らしたかと思った瞬間。

「えっ」

「本当か」

『この姿ならば問題ないだろう』

 ルスの犬の様な姿が、リュミと大差ない身長を持つ人型の姿に変わっていたのである。これにはアベリアもリュミも驚きで言葉を失ってしまうが。

 ルスの人としての姿は、真っ赤な髪を肩まで伸ばし、瞳は髪より薄めの赤をしているが、身体付きは立派なハンターと大差ないと考えていいだろう。アベリアが少し興味があるのか、ペタペタとルスを触っているのをリュミが流石に止める。

「ルス、ルルーンガリア国のハンターズギルドの長に俺の名前を伝えれば、その手紙を受け取ってくれる筈だ。絶対に手を出すなよ」

『分かった。全てはルグの為であれば私も頑張ろう。しばらく離れるがルグを頼む』

「お気を付けてくださいねルスさん。行ってらっしゃい」

 ルスの姿が外に出ていくと、アベリアは隣で見送ったリュミをジッと見上げる。その視線に隠されている意味をリュミは知らないフリをして、やり過ごす事をしていたがアベリアが小さな声で告げる……可愛らしい幼馴染は、本当にいつまでも「守りたい」と思わせる可愛らしさを秘めていた。

「ルグ様!」

「エミル君、それは?」

「アベリアお姉さんと練習しているんだけれど、さっき成功したの!」

 エミルがルグの執務室にやってきて見せたのは、アベリアと一緒に魔力のコントロールをしている時に試している訓練の一つで。物体に魔力を込めて輝きを持たせる訓練の賜物。

 ルグの執務机の上に置かれたのは木彫りで作られたリスがまるで生きているかのような、そんな生命力を感じさせる生き生きとした輝きを放つ置物だった。その輝きは見る者に勇気や希望を与えると言っても過言じゃないかのような印象を与える。

「かなり訓練に集中していたんだね。こんなに高純度の置物は滅多に見れないよ」

「そうなの? 私はお姉さんに教わったやり方を毎日練習しているだけなんだけれど」

「因みに、エミル君はどんな動物がお好きかな?」

 ルグから突然聞かれた好きな動物について。それはエミルには難しい質問ではなかった。

 エミルは元々気の優しい少女でもあり、村にいた頃は殆ど家から出る事は出来なかった過去を持っている。その状態でもこの純粋さを保ち続けていたのは、アベリアとリュミが寂しくないようにと色々な動物を家に住まわせていたからでもあって。

「私は……意外かも知れないけれど、犬が大好き! だからルスの事も大好きだよ!」

「犬か。ルスの事は怖くないの?」

「怖い? どうして? ルスはとーってもいい子だよ?」

 純粋にルスをいい子だと言い切ったエミルにルグは小さく微笑みを浮かべて、そっとエミルの頭へ右手を伸ばし魔力を使って可愛らしい葉っぱの髪飾りを生成してあげる。ルグにとって家族でもあるルスを怖がらない事も嬉しいが、いい子だと理解してくれるエミルが眩しかった。

 そこにアベリアとリュミが姿を見せると、アベリアがエミルの髪に生成された髪飾りを見て嬉しそうに微笑みを浮かべ、リュミがルグに礼を述べる。だが、ルグの方がリュミやアベリアにお礼を言いたいと告げて二人はキョトンとしてルグを見てしまうが、ルグはそんな二人に微笑みだけを返す。

「そう言えば、村を造るで少し思った事があります。お聞きしてもいいでしょうか?」

「うん、聞いてくれていいよ。僕もまだまだ勉強中の身だから満足いく答えになるかは不明だけれど」

「村はどのような方針の村にするのですか? 貿易を中心にするのか? 旅人を迎える中継地点の役割を持つ村にするのか? それとも、産業を目指して特産品を生み出す村にするのか?」

 アベリアはルグがどんな国を目指すのであれ、基盤になる村を重点的に考えているのかを聞きたかったのだろう。ルグは一枚の大判ではあるが広い見取り図を机の上に広げていく。

 右側にアベリアとエミル、左側にリュミが立ってその見取り図を見つめると三人は「おぉ」と声を揃えて上げてしまう。村の設立を予定している肥沃な土地の状態はルグは調査を続けてどんな植物、どんな作物が適しているかを調べ上げていた。

 そして、見取り図に記されていたのはこのルルーンガリア国の古い時代に栄えていたある植物。それを再興する為の村として立ち上げようとしていたのである。

「これは……凄い大規模な畑と加工場ですね」

「それも、この規模だと村だというレベルじゃない。町だな」

「この「カリンガル畑」ってなぁに?」

「「カリンガル」っていうこのルルーンガリア地方でしか栽培が困難な植物、いわばお花だ。この花から採れる油・染色剤、薬の元になる種子……種の栽培も同時していけば、ルルーンガリア地方でまた「カリンガル」の栽培も可能になる。この花の需要は今や首都でもかなり切実に求められている」

 説明を聞いてアベリアとリュミが真剣に考えるが、エミルは村の構図を眺めて普通に「大きい」って呟くほどで。ルグの考えは分かったアベリアは、リュミがハンターズギルドに手を借りてくれたのは幸か不幸か、ハンターズギルドもこの「カリンガル」栽培に関しては知識として知り得たい技術もあるだろうと思えた。

 見取り図を見ていたリュミが昼間のルグとの会話を思い出して、ルグに視線を向けてその視線に気付いたルグがキョトンとリュミを見返す。リュミが何かを決断したのだろうと幼馴染のアベリアは雰囲気で察する事が出来て、小さく口元に笑みを浮かべている。

「この土地にあるモンスターの巣穴掃討は俺が出るとしよう」

「本気かい? 君が危険な仕事を請け負う必要は……」

「昼間に言わなかったか? 俺は、あんたの国に住みたい。その為の準備として手伝えるのであれば俺は自分の出来る事をしていくだけだ。アベリアやエミルの事を守ってもらうんだ。俺に出来るのはこんなモンスターの掃討とか、ハンターとしての時代に培った戦いを使ったやり方だけだからな」

 エミルがアベリアに抱き付き甘えているのを見つめながら、リュミが自然な笑みを浮かべてルグに告げる……その笑顔がルグには眩しくて、同時に嬉しくて。アベリアはエミルを優しく抱き締めてリュミに注意と言うなのお願いをするのは、これが二人の間にある約束という名のルールだとルグは感じ取っていた。

「リュミさん、お分かりかと思いますけれど……自分の力を過信し過ぎないで下さいね」

「毎回、それを俺に言っていないかアベリア?」

「貴方が前科が無かったら言っていませんよ。あの時のエミルがどんなに辛そうにしていたかを覚えていないとは言わせませんよ?」

「何か、過去にあったのかい?」

「リュミお兄さん、過去に大怪我して二ヶ月だけベッドから出れなかったの」

 ルグの質問に答えたエミルは心配を含んだ眼差しでリュミの顔を見つめる。それがリュミには居た堪れないのか苦笑を浮かべてしまう。

 アベリアの話を後で聞いた方がいいだろうか、とルグが考えていたがリュミがアベリアに視線でエミルを連れていくように、伝えていたのをルグはしっかり確認している。そして、アベリアがエミルにルグの為にお菓子を焼こうと誘うとエミルは笑顔で頷き、アベリアと共に執務室を出て行った。

「ルグ、あんたこのルルーンガリアに住んでどれくらいになる?」

「軽く八十年にはなるけれど……」

「なら、五年前にある地方を襲った悪竜を知っているな?」

「あぁ。……まさか」

 悪竜、と聞いたルグの顔が険しいものになったが、リュミは小さく笑ってある過去の話をし始める。その話を聞いたルグがリュミがどうしてハンターを辞めたのかも同時に理解して、リュミとルグは絆を結んでいく事となる。

 一体、五年前に何が起こったのだろうか? そして、リュミと悪竜の間に何があったのか。それを知る手掛かりは五年前のある出来事に関わっていた――――

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