心の折れる音
「お返しに、ていっ」
「いやおまっ」
茶菓子のピーナッツを指ではじいたエウレカ、音を置き去りにして、破裂音が聞こえてすぐに爆風に襲われた。
嘘だろ、ピーナッツで衝撃波発生させやがった……。
「んー、命中。捕まえる?」
「えと、確保は任せよう……ぜ?」
「あぁ、お仕事だもんね。撃たれたけど。そういうのを捕まえるのがお仕事だからね。撃たれたけど」
根に持つのはわかるが……多分そういうの抜きで素で言ってるんだろうな。
なんというか、深く考えていないからこそやべぇこと普通にやるタイプだこいつ。
「それにしても窓が吹っ飛んじゃった。代わりの部屋って貸してもらえるかな」
「そっちは俺が交渉するから」
「わかったー。任せるねー」
こいつ、ボス戦とかで窮地に陥ってここは任せて先に行けと言っても同じ事言いそうで怖いな。
「あー、すんません。エウレカの部屋なんですけど、はい、俺も一緒に軟禁されてる部屋。狙撃されたんでもうちょい安全な場所に移動できないですかね。本人? 脳天に弾丸受けてピンピンしてます。怪我も無いです。あったとしても治すんで問題ないです。それより部屋の窓が吹っ飛んで……あ、これ狙撃とかじゃなくお返しとか言ってピーナッツで衝撃波発生させながら狙撃手ぶっ飛ばした本人の……いや、マジなんですって」
ふぅ、説明に無駄な時間がかかった。
しかし……この調子だとホテルの高層階は避けた方がいいな。
爆破とかされたら一般客が死ぬ。
俺はなんとかなりそうだけど……エウレカは最初から心配する必要ねえわ。
なんなら窓の外眺めてる今蹴り落としても文句言いに壁よじ登ってくるだろうし。
「部屋変えてもらえるらしいが見晴らしは悪いが攻撃されない部屋と、見晴らしはいいが攻撃されまくる部屋、どっちがいい」
「そうですねぇ、外の景色は十分堪能しましたけど……面白い部屋がいいです」
「すんません雑賀さん。適当なラブホで。あるでしょその辺にベッド回転するような部屋。そこに一人ぶち込んで俺達外から見張ってればいいですよ」
「ベッドが回転? 何それ面白そう!」
俺もゲームとかでしかそういう知識ないから何も言えないけどね、はっきり言うけどこいつ面倒くさい。
面白い部屋がいい? よろしい、ならばラブホだ。
子供がお城だとはしゃいで、将来お姫さまになると笑ってた子が泡姫になるように。
現実というものを直視するがいい。
……適当にAVでも見て泡吹いて倒れてくれねえかなこいつ。
「ん? んー、あぁ、人間が交尾するための施設なんですね。気配でわかります!」
交尾言うな。
そして特に気にした様子は無さそうだ。
意趣返しできるかと思ったが残念……思えばこれセクハラか?
でもこの残念エルフ相手にそういう気持ち一切わかないからなぁ……。
「その気配探知どこまでできる」
「この国全土なら余裕で。流石にダンジョンだと……100階層先が限界ですね」
十分化物だが?
俺達探索者がその階層の1割を把握できれば上等、3割で上澄みと言われるレベルだぞ。
それを階層超えてとか化け物以外にないが?
地上だって町一つで上等、市区まで行って上澄みレベルだ。
しかも普段からそんな範囲感知してたら情報過多で脳が焼き切れる。
言うなれば日本中の人間の生活音や会話を耳元でされるような状態、発狂待ったなし。
「これは好奇心で聞くんだが……そんな広範囲探知して気持ち悪くないのか?」
「え、いらない情報は切り捨てればいいじゃないですか。できないんですかぁ?」
あー! むかつく!
出来ねえよ普通!
ディベートで特定の相手だけ声を聞かないようにするとか無理だろ普通!
それと同じだよ!
無視じゃなくて聞かないんだ! 耳に届かないんだよ!
それを意図的にできるかって話だ!
「うん、俺達の常識とかけ離れまくってるのは十分に分かった……なんというか、ダンジョン内で得た知識とか能力はあまり口外しないでくれ」
「え? 気配遮断とかの方法も?」
それもうトップランカーが必死こいて覚える秘儀じゃねえか!
「敵の追跡とかそういうのも全部」
「はぁ、地上って遅れてるんですね」
……落ち着け俺、言ってることは間違ってない。
深層から出てきた化物エルフからすればそういう意見になるのもわかる。
ただこの、また私何かやっちゃいました? って顔がすっげぇ腹立つ!
「一つだけ、うん、マジで一つだけ個人的な事聞いていい?」
「なんでしょう」
「ムカつくから殴っていいか?」
「できるものならどうぞ!」
その後、新しい部屋が用意されるまで10分本気で殴りかかったけど、動くことなく首の動きだけで避けられた。
もうやだこの無自覚煽りの馬鹿エルフ……。




