カード
こうして突入と相成った土曜日組、俺達が護衛するのは茉莉と瑠璃、そして俺の爪を奇麗に彩ってくれたギャルたち5人組と委員長だった。
ちなみに亜衣は護衛する側として参加しているので、俺達兄妹揃い踏みと言える。
「というわけで、基本は俺と雑賀さんで挟んで歩く。モンスターの出現条件とか解明されてないから前だけ気をつければいいわけじゃないからな」
バックアタックと言われる現象に気をつけつつ、この辺は慣れている俺が先頭を歩くことになった。
まぁ伊達に毎日通ってないからな。
「それじゃ全員準備はいいか? つっても罠仕掛けてとどめ刺すだけだけど」
俺の言葉に少し不安そうな面々が頷く。
1階層は迷宮型で色々な所に分かれ道がある。
その全部が第二階層への階段に繋がっているが、ルートによっては遠回りになるので最短距離を行くのがベストなのだが、残ったルートはこのようにしてカード取得に利用される。
ようするに人がいない方向に進めば次の階層に最短で辿り着けるわけだ。
時間にすれば最低でも1分あれば駆け抜けられる距離、一番遠回りなルートを使うとなんと1時間以上かかるという罠がある。
しかも辿り着くのは同じ階段なので、マッピングした人もさぞ困った事だろう。
というか「ふざけんな」という五文字を報告書という形に引き伸ばした呪詛の塊みたいな内容が展示されている辺り、当時のマッピング担当者はおぶらーをの使い方が天才的だったと言わざるを得ない。
「三上、罠って言うけど本当にこんなんで大丈夫なん? 食い破られたりとかさ」
「ブルーラットはでかいドブネズミみたいなもんだ。大した力も、魔法もない。ただ最近ダンジョンの様子がおかしいから病原菌のキャリアーになってるんじゃないかとDの方でめっちゃ調べてるよ」
「うげぇ……」
「でも嚙まれたり、不用意に触ったりしないでちゃんと消毒と手荒いうがいをすれば問題ない。青くてデカいだけの鼠だ」
なんかの漫画で「人類は一人の馬鹿が手洗いを怠ったから滅びた」なんてフレーズがあったけど、こうして見るとありえないとは言いきれないんだよなぁ。
普通は感染しない病気が、一人の人間を中心に広がっていく事もあるわけだ。
そうなったら……まぁ悲惨だろう。
「ナイフもレンタル品だがそれで十分対処できるぞ。モンスターは生きたまま引きちぎったりしない限り値は出ないから安心しろ。感染症のリスクが下がる」
「生きたままって……そんな事する奴いるの?」
「この先の階層に猪がいてな。そいつの肉を採取するならドロップアイテム狙うより足を引きちぎって確保する方が楽なんだ。俺もまだ辿り着いてない階層だとサイクロプスの目玉とかは漢方薬として使えるからよく抉られてるらしい」
「うへぇ……」
「ドラゴンの倒し方なんか生きたまま鱗はがして、傷口作ってそこに攻撃を集中させることだからな。で、鱗を持ち帰って売って打ち上げだ」
他にもメガトンボアでやったように牙とか爪をあらかじめ破壊しておくのは定石だ。
素材としても美味しいのだが、ドロップ品として狙うより可能性が高いからな。
たまに失敗て砕け散ったり、奇麗に壊したはいいけどモンスター似踏みつぶされて砕け散るというのは珍しくない。
そういう意味じゃゴブリンとか相手している時に武器を奪うのも似たようなものなのかもしれんな。
「よし、この辺でいいか」
少し開けた場所に出たので、罠を仕掛けさせてから物陰に隠れる。
後はブルーラットが罠にかかるのを待つばかりだが、ぶっちゃけそう時間はかからなかった。
罠設置して隠れてから30秒、ガシャーンと専用の折が閉まる音が響き渡る。
「はい、ファーストペンギンだれだ」
「あたし!」
ギャルが挙手したので同伴して、青い鼠が閉じ込められた檻を指さす。
「そのナイフで適当に刺せば死んで、カードが目の前に出てくるから」
「はーい」
ストンと、ためらいなくナイフを振り下ろしたギャル。
……普通もう少しためらわない?
「うちさー、父さんが釣り趣味で生きた魚捌くのとか慣れてんだよね」
「あぁ、それで……いや、魚と哺乳類だと違くない?」
「爺ちゃんがマタギ」
「……才能あるよお前」
戦後経験者のマタギを家族に持っているとか、そりゃ強いわ。
むしろなんでギャルに……あ、現代のハンター的な?
男女どちらに向けた物かはわからんが、髪やアクセで武装もりもりか。
「お、出た!」
「よかったな」
「あれ? 監督として確認しねーの?」
「他人のギルドカードは見ないのがマナー。というか明文化されてないだけでルールに近いから」
「じゃあみせるのはいいんだ。ほれほれ」
うぜぇ……まぁ見るけどさ。
レベルは1、当然だな。
備考欄には何も書かれていない……じゃあ俺の【アップデート中】とかは異例か?
他のメンツも見て考えよう。
で、スキルが……。
「マジかよ」
「え、何か凄いの?」
「この【気術】ってスキル、1万人に1人の割合でしか発現しない珍しい奴。極めたら拳聖とかに至れる強力なレアスキル」
「えー、らっきー」
軽いなぁ……実際強いんだよな、【気術】。
使いこなすまで行かなくても身体能力を強化したり、漫画よろしく気を弾にして飛ばしたりと使い道が広い。
遠近両用のスキルで、しかも身体強化の倍率は最低でも10倍は行けるので、理論上であればこのギャルは既にレベル10と同等の戦力だ。
最大は不明とかいう熱エネルギーみたいな能力しているので、これを極めるだけでもレベル1のまま最強の座を目指すことだって不可能じゃない。
じゃあ順当にレベルを上げていけば、そりゃもう最強よ。
2000に満たない俺程度ならあっという間に超えてくるような、超逸材だ。
たしかうちの探索科でも持ってる奴いなかったな……。
「茉莉と瑠璃はどうだった?」
「はいこれ」
「ん」
揃ってカードを渡してきた。
うん、問題なく取得できたな。
備考は……【成長期】か。亜衣はこれが一気に進んだか?
スキルは……。
「すげぇじゃん」
茉莉が物理攻撃力が強い【筋力超上昇】というレアスキルで、瑠璃は【魔導】という魔法関係なら何でも使えてしまうレアスキルだった。
どっちも億分の1の確率とまで言われたレアスキルで、一般的には上位スキルとか言われているタイプ。
亜衣のカードは確認したことがなかったから今度見せてもらうとして、最初はスキル無しだった俺と比べたらえらい違いだ。
なによりこの二人でバランスがいい。
近接戦闘を茉莉がこなしつつ、攻撃回復補助と言ったサポートを瑠璃がする。
レベル以上の働きができるだろうことは自明の理だが……それゆえに強者の病なんて言われる状況には細心の注意を払うべきだな。
レアスキル持ちは死亡率が高い。
レベルを無視できるというのは序盤までで、中層に差し掛かる頃になるとスキル程度じゃ埋められない差が出てくる。
引きどころを間違えればあっという間に全滅する、それゆえに国は「階層の5倍のレベルが安全圏」と公言しているし、それでも今の俺が500階層で通用するとは思えない。
ちなみに探索刑になった場合レベルの半分を目安にダンジョンに送られるので、実質死刑と変わりないのだ。
「みんな凄いスキルだ。だけどレベルはちゃんとあげなきゃ危ないし、スキルの使い方もしっかりと覚えるべきだな。じゃないと死ぬ、冗談とか誇張抜きで」
「まーじー?」
「マジもマジだ。レアスキル狙いのヤクザとか結構いるし、ダンジョンでレベル上げするにもソロじゃ危ない。探索科から仲間を探した方がいいかもな」
「あいつら好きじゃないんだよねぇ。あ、探索部なら伝手あるよー」
探索科にはいれなくても一般科で探索者をしている奴は多い。
理由はまぁ色々あるが、それを部活動にしているのは仲間目当てだ。
俺の場合小銭稼ぎと、肉狙いだったから所属しないでソロ狩りしてたけど。
「私達もレベル上げた方がいいかな……」
「将来的な事を考えるならな。少なくともレベル100くらいになれば大抵の奴はちょっかいかけてこないぞ」
ヤクザみたいなのが狙うには面倒だけど、即戦力にはならない塩梅としてレベル100がラインになってくる。
フィットネス目的の奥様ですらそのくらいのレベルはごろごろいるし、安寧な生活を求めてレベルを上げるのは珍しくない。
というか日本じゃ探索者になってない奴を探す方が難しいな。
平均すればレベル5000くらい基準にされる魔境とか言われているけど、それは上が高すぎるからという何とも言えないものがある。
そういうの抜きにしても駅で石を投げたら6人に当たるくらいレベル3桁はいるので、強さの指針として見るならそこに辿り着けるかどうかだ。
たまにハズレスキルなんて言われるのも出るが、最終的にレベル4桁になってくるとどんなスキル持ってようと持ってなかろうと化物に変わりはないからな。
「レベル100かぁ。めんど」
「うん、亜衣のレベルも上げるんだよね」
「……正直、ちょっと怖い」
ギャル含めた三者三葉の言葉だが、まぁ言わんとすることはわかる。
世間で売ってるゲームじゃレベル100ってカンストだからな。
だが現実にそんなものは無い。
「ぶっちゃけた話、レベル100はすっげぇ楽な部類だぞ。スキル覚えようとしたら道場に通って何年もかかるしな。レベル上げるだけなら5まではカード取得と同じ方法で行ける。その後4階層でボア相手にしていれば20は目指せる。あとは1階層5レベル感覚で上げていけばいい」
実際俺に切りかかってきた馬鹿は入学から1カ月でレベル100になってたし、探索科は既に300になっているだろう。
1日10レベル上げてる換算だが、ちょっと頑張ればできなくはない。
それは人間という個体の弱さに起因していると言われている。
1階層で出てくるブルーラットだって病気を伝染させないからこと、雑魚と呼ばれていた。
それがどうだ、今じゃ可能性が出てきたというだけでダンジョンの出入り口には消毒シャワーが設けられている。
送り狼だって基本的に人懐こいというだけで、対等な勝負に持ち込むのは武器が無ければ厳しい。
少なくともアレの首を素手でへし折れと言われてできる人間が、物理的な意味でだがどれだけいるだろうか。
最低でもプロの格闘家を呼ぶ必要が出てくる。
精神的な事を言えばプロの軍人でもなければ厳しいだろう。
ならボアはどうだ、うりぼうとはいえ猪、その突進だけで足の骨は砕けて、そのままだるま落としのように頭までカチ割られるのがオチだ。
ビッグボアになってきたらもう車の衝突と変わらない。
低い階層でこれだ、中層以降のゴブリンなんかは子供の体格に大人の筋力、狡猾さはそこら辺の子悪党並とくれば単体相手でも面倒くさい。
コボルトになってくると獣並みのパワーと持久力で、しかも集団で狩りをするのだから武装して数を揃えてようやくだ。
その上で4人前後がちょうどいいなんて言われる理由は、船頭多くして船山に上るという言葉がぴったりだからだ。
息の合った軍隊ならまだしも、素人にそれは難しい。
あとついでに戦後に発生したという事情から各国が個々人が軍人並みの統率力を持つのを良しとしなかったため流布されたプロパガンダが今にも響いているという噂もある。
実際軍の訓練だと中隊規模や大隊規模での突入も珍しくはないからな。
そういうアレコレもあって、人間のレベルは比較的あがりやすいと言われている。
たまーにゴブリンとかコボルトがレベル上がって異常個体とか言われるヤバい存在になるけどな。
その程度なら中層で活動している探索者なら問題なく対処できるが、探索刑になってるやつの大半が死ぬレベルだ。
「ま、自衛のためにというだけじゃ物足りないだろうから教えておくとな……美容にいいぞ」
「「「やる!」」」
三人とも声を合わせて即答してきた。
うん、実際美容にはいいよ。
結果だけ見ればだけどな。
そのためには泥と血にまみれて、命かけてダンジョンでレベリングしなきゃいけないんだ。
ただ世間でモデルやってる人とか、俳優なんかの大半はそこそこまでレベル上げて自衛と美容の両立を目指している。
フィットネスボクシングみたいなもんだ。
実際レベルが上がると筋肉がつきやすくなるんだが、これも罠なんだよなぁ……代謝が良くなるってのは燃費が悪くなる事と同義だ。
つまるところ深い階層に潜るには大量の食糧と水を貯め込む何かが必要になってくるわけで、そういった経緯からアイテムボックスを延々と産み続けてくれるまよひがは重宝されている。
今世間に出回っている大半を国が確保して、更に似たようなスキルを持っている人間は国が最初に唾つけて確保に走っているのだからその重要性は推して知るべし。
ついでに言うならアイテムボックスは輸出入禁止だし、各国もそれを受け入れていない。
なにせなんでも入るから検査で素通りして、機内に爆弾持ち込むのも他国の重要施設を爆破するのも簡単だから。
何かと面倒だけど、祖国で暮らすにはレベルは上げておいた方が便利というのがどこでも共通認識になっているんだよなぁ……金持ちとか一流の探索者はプライベートジェットで渡航する事はあるらしいけど。




