試験
そうこうしている間にクラスメイトと茉莉たちが出てきた。
亜衣も後から来ることになっていたので、慌てて「装備を持ってくるか、あるいは来るな」と連絡を入れたところ雑賀さんが先んじて情報を送っていたらしく「フル装備で行く」という返答があった。
ねぇ、やっぱりあの人殴っていいかな。
対人特化っぽいから俺じゃ勝てないにしても一発くらい殴っていいかな。
「で、俺は妹の面倒を見ろという事ですね」
「はい、形式上とはいえ2級ライセンスの持ち主で、ダンジョン省の方の監視もある。これ以上ない戦力かと」
でしょうねぇ!
そりゃまあレベルだけ見れば俺は中堅以上にいるよ?
雑賀さんのレベルだって最低300以上、推定なら4桁だ。
そりゃ最高戦力の行ったんでしょうけども、俺はまだレベルに馴染んでいないのもあって戦力として見ると微妙なところだ。
そりゃブルーラット程度なら何百体出てきても対処はできる。
けど守りながらとなるとそれは途端に難しくなる。
だって俺にできるの、ダンジョンの一部崩壊させてでも殺す事だけであって、それは護りながらだと使えない方法だから。
「どうします、どっちがオフェンス?」
「ふむ、対多数相手なら三上さんの方が適任でしょう。少数なら私が対処します」
「少数で脅威になる事ってありますかね」
「ダンジョンでは何が起きても不思議ではありませんから」
それはそうなんだが、そもそも1階層でそんな異変が起こるようなダンジョンは国家認定の特級が何十人と集まって対処するレベルの事案だ。
こんなオープンにされてる場所でそこまでの事が起こるとは……考えたくない。
考えにくいのではなく、マジである日突然5階層くらいしかなかったダンジョンが広がって1000を超える階層を持ちました、今までは個人の所有地でよかったけど国が土地ごと買い取って国有地にしますね。
という案件が何パターンもある。
その中で一番有名なのは山形県の古民家が「まよひが」と呼ばれる特級ダンジョンに変貌した事だろう。
それまでは無人の家だったのに、ある日突然ダンジョンになって「入った者の最も欲する魔法の道具を持ったボスが出現する」という超特殊ダンジョンになった。
そしてそれには回数制限があり、全世界の再考踏破階層数に応じて増えていくというものだった。
今の所公式で確認されているのは7782階層までの踏破、ちなみにそこまで潜ったのは戦後からずっとダンジョンの奥地に潜り続けている5級ライセンス。
ライセンス取得後からずっと更新してないので5級のままだが、実際は特級認定したいけどふらっと帰ってきて、そのまま何事もなかったかのようにダンジョンにUターンしていくから認定する暇がないそうだ。
軍刀の拵えをそのままに本当に変え、戦時中から使い続けている事から軍神なんて揶揄されている。
他にも剣聖とか、魔導王とか色々いるけど一番有名なのはその人。
ついでにダンジョン探索においては日本がトップを走っているが、主に戦時中に伝説を残すほどの活躍をした突出した人物たちがこぞって突撃したからである。
少数精鋭がいい方向に働いた結果と言えるし、数の暴力では肥えられない壁が存在すると知らしめたと言ってもいい。
その点に関しては戦後の復興に随分貢献したらしいが、今じゃ他国も5000階層までは到達しているので最前線組が何かしらの……大抵の場合死亡という理由でリタイアした場合アドバンテージは薄くなってくる。
日本でも準最前線組と言われている人物たちは5000階層を攻略して、5500階層まで突撃しているというが、後進育成も考えているため伸び悩んでいるらしい。
ダンジョンにもよるが、滅茶苦茶広かったり一面海だったりと特殊なフィールドも多々存在するのだ。
短ければ数分で、長ければ数週間踏破に時間をかけなければいけないので、アイテムボックスなどの道具がなければそもそも深層まで進めないというのが現状。
まよひがで得られるアイテムの多くがアイテムボックスというのも納得である。
普通に探そうとしたら1000階層くらいまで行かないと見つからないし、探そうにも砂漠でダイヤの指輪を見つけようとするようなものだ。
時間と人員割いてようやくとなればねぇ……ちなみにその点で日本に次ぐペースなのはイギリスだ。
あの国は狭くてダンジョンが少ないため一点突破が可能なので順調に攻略が進んでいるらしい。
確か最高踏破階層は6000に達してたはず。
それに負けるかと張り合っているフランスだが、こちらは逆に広いダンジョンが多すぎてスタンピードを抑え込むのに必死だそうだ。
対抗しているアメリカ、ロシア、中国なんかはたまに内ゲバ始めるのでスタンピードもぽろぽろ発生させているし、日本の富士の樹海みたいにエリア丸ごとダンジョン化しちゃったなんてパターンや、州ひとつモンスターに占拠されましたなんて地区もあるそうだ。
そのため一時期は冷戦状態だったが、今では武器を後ろ手に握手して互いの腹の内を探り合いながら地域奪還作戦をスタンピード阻止と同じペースで進めているという。
とにかくダンジョンはいつどこで発生するかわからないし、その対処に追われる人が多く、そして常に人手不足で後進の成長が欠かせない超長期的な課題と言える。
もしかしたら人類滅亡まで続くんじゃないかね……。
ローマとか未だに宗教関連で内紛とか起こっているっていうし、ソ連解体前後までロシアもちょっと宗教的に不安定だったと聞く。
というか宗教関係で、特に一神教を国是としていた国家は大体ヤバい内紛とか起こってた、というのが歴史の授業でのお約束だ。
「……雑賀さん、マジでいざという時のために聞いておきます。レベルを直接聞くようなことはしませんが、逆にレベルいくつまでなら対処できますか」
「そうですね、5000までなら」
「いざという時はたのみます」
うん、俺じゃ逆立ちしても勝てないな。
むしろ逆立ちしてもらっても負けるわ。




