ハードなバカンス
それからは学校の休憩時間は同級生を、帰り際にダンジョンによってから家では亜衣たちの勉強の手伝いをしながら過ごした。
雑賀さんも協力してくれたおかげで結構余裕がありそうだったので、ついでにじっちゃん直伝の格闘術の一端も教えておいた。
雑賀さんがな!
俺がやると洒落にならない大事故になりかねないので、雑賀さんは水曜日にじっちゃんと手合わせして、木金はみんなにそれを伝授してた。
俺は一方的にじっちゃんに投げ飛ばされてたよ。
そして迎えた土曜日、クラスメイトを超えて探索科も含む学年全員と妹たち、そして一般参加でアウェーな気分になってしまった方々と合同で検査と試験が始まった。
検査と言っても先天的な病気などでライセンス取得が許可されるかどうかという話で、基本的には一般の身体測定と大差ない。
一応運動能力とかの確認もあるから警察とか自衛隊の試験に近いかな。
まぁ大抵の場合は、例えば喘息程度なら4級までは問題なくとれる。
その先の3級になってくるとギリアマチュアという範疇なので、ちょっと厳しくなって親父みたいにヘルニア持ってたりと運動に支障が出そうだと判断されたら弾かれる。
2級になったらもう厳しい。
少しでも問題があれば弾かれるし、素行調査もされるので本当にこの先プロ以外立ち入り禁止だ。
なお結果だけ言えば全員検査は問題なく、何人か喘息とか栄養の偏りが云々言われてたけどその程度。
あとついでに数人寝不足と言われていた。
まぁ、寝不足は学生のお友達だからね。
俺もゲームで徹夜くらい普通にするし、何ならこの身体になってから多少の無茶ができるようになったので数日くらい寝なくても大丈夫そうだ。
というわけで試験に移った皆を見送り、休憩所でジュースを購入して終わるまで待つことにした。
「で、三上はどう見る。付け焼刃の試験対策」
「引っかけ問題で躓く奴もいると思うけど、まぁ5級なら問題ないだろ」
探索科の女子に声をかけられたので普通に返しておく。
こいつは明日肉壁兼戦力として皆を守る側に回ってもらうのだ。
会話くらいはしておくべきだろう。
名前は……まだいいか。
「上のライセンス取得に行った探索科の連中は知らねえけど」
「あぁ、何人か触発されてついていったからね。けどみんな基本的に3級は持ってたから2級試験か……無理くね?」
「それを決めるのは俺じゃないだろ。というわけでどう思います、雑賀さん」
「僭越ながら」
この人がこの言い回しをする時は大抵言いにくい事を語る時だ。
そしてこのタイミングで言いだすという事は……。
「実力不足でしょう」
「ですよね」
探索科女子が雑賀さんの言葉に頷く。
俺も同意見だけどジュースの方が重要だ。
学生で2級を持っている、というのは案外いるのだがそれは世間的にも探索者的にも1%に満たない超少数。
小数点のかなたに存在する超エリートで、なおかつプロの探索者雇って専属で教わってようやく指先がかかる程度の可能性。
俺が入れるような一般科が存在する学校じゃまずいない。
……俺は本当に例外中の例外として。
今回受けた奴らはいわゆる「準2級」という立ち位置に置かれた奴らだろう。
探索科のほとんどはその立場にあると思われるが、それも珍しくはない。
選りすぐりの超をいくつ付けても足りないようなエリート校で、探索科しかない専門の育成所みたいなところに行ってようやく1人見つかるかどうかというレベルの化物だからな。
それが数日の付け焼刃じゃどうにもならないだろう。
「で、お前らはなんで来たのさ」
「暇だったから」
今日はペーパーテストと検査だけなので探索科のこいつらが来る必要はない。
このままダンジョンに潜ってもいいはずなのだが、今日は私服である。
そしてこの発言からわかるのは、野次馬だ。
まさに暇つぶしで見に来ただけなのだろう。
それに同伴させられた探索科の先生、先日俺のクラスメイト達が猛抗議した結果「体育とダンジョン学だけは探索科の方で見る」という結論に落ち着かせた功労者は休日を返上して……違うな、浪費させられて来ている。
ちなみにフル装備なので、万が一に備えているようだ。
最近ダンジョンの様子がおかしかったからな……。
そう思っていた矢先だった。
「えー、今日は受験者が多いのでカード取得までを今日明日の二回に分けます。この場にいる探索者の皆さんは装備を貸し出しますのでご協力をお願いします」
ギルド内放送で伝えられたその言葉に探索科女子が凍り付いた。
暇つぶしに来たと思ったら、厄介ごとに巻き込まれた。
雄弁に語ってくれる顔のためとてもわかりやすい。
先生はやっぱりかと言った様子で、雑賀さんは予定通りと言わんばかりにこちらにウィンクしてきた。
なにその目、潰していい?
「……暇つぶし、できる?」
「……思ってたよりハードなバカンスだったみたい」
でしょうね。




