神様式パイプカット
「三上幸助ってのいるかしら」
こうしてギャルに玩具にされていた俺だったが、ある種のハーレムの中で唐突に呼び出された。
視線だけ動かすと探索科の制服を見に纏った女子。
いわゆるエリートで、制服も先頭に耐えられる特注品。
別売りの戦闘用タイツなんかを合わせれば学校の制服のままダンジョンの中層までくらいなら余裕で戦えて、なおかつ一目でどこの学校の探索科所属か判明する優れもの。
なおたまにネットで高額転売されているが、卒業しても優秀な防具として見に纏い続ける生徒は結構多いという。
「あー、俺だけど」
「……なんで女子に囲まれてるの?」
「これとこれのせい」
耳と尻尾だけ動かす。
というかそれ以外が動かせないのだ。
今両手両足にネイルアートを施されている。
顔も化粧の真っ最中で、文字通り全身の動きを封じられてしまった。
くっ、ダンジョンより女子の方が怖いぜ。
「で、三上になんのようだし」
俺の頭を膝に乗せたまままつ毛をカールさせていくギャルが睨みつける。
まぁ、この前探索者に切りつけられたばっかりだからな。
「なにを警戒しているのかはわかるけど、純粋にダンジョン探索のお誘いに来たの。探索科への転科のお誘いついでに」
その瞬間俺を彩っている女子以外が全員構えた。
「待って待って、これは私の意志じゃないの。メッセンジャーで、担任に言われただけだから。だから転科はどーでもいいのよ」
その言葉に委員長が男子を連れて教室から出ていく。
各々箒やらなにやらと武器になりそうなものを手にしながら、その眼力は獲物を見つけた虎か鬼。
……カチコミかな?
「で、ダンジョンに一緒に行かない? って聞きたかったんだけどどう? あと私もその耳触っていい?」
ちらりとギャルを見ればまだ半信半疑と言った様子だが、すっと手をどけて俺の耳を支えた。
待って、俺まだ了承してないんだけど……あっあっあっ。
「うわぁ、ふかふかでふわふわ……」
「っでしょー?」
なんでギャルが嬉しそうなんですかね。
そうだ! 雑賀さん!
あ、ダメだ、女子の情報網による暴力を避けるために窓の外眺めてる。
いや、止めろよ!
「あの人はDの?」
「あ、あぁ……というか両省は俺にとってほしいんだけど」
「ごめんごめん。けどされるがままだったからついね」
「もう全部諦めただけだよ……今の俺のレベルだとちょっとした抵抗すら致命傷になりかねないから」
「なるほどなるほど、探索科が欲しがるわけだ。一般科の探索者はその辺の意識低いからねー」
探索科に通う連中が真っ先に教わる事は、レベルは暴力であるという事だと聞く。
それを教え込むためにそこそこのレベルに達した先輩との模擬戦から始まり、低レベルが高レベルとぶつかったらどうなるか、命がけで教わるそうだ。
俺の場合じっちゃんに何度もやられたことだから今更ではあるが、その辺の心構えはしっかりしているつもりだ。
ついでに婆ちゃんなんかは「レベルが高いならば食わねど高楊枝」と教わったし、爺ちゃんは「弱い奴は庇護すべし」と言って守り方を教えてくれた。
そしてばっちゃんに至っては「レベルの高さだけで偉そうにしてる奴は殺していいよ」とまで言われている。
事実四人の言う事は正しい。
正しすぎてダンジョンに関する教科書にすら乗っていることで、ライセンスの取得や昇格では当たり前のように、そして刷り込むように問題や面接に出てくる。
実際その認識薄い奴は早々に逮捕されるからな。
「この前一般科の馬鹿とやり合ったって聞いたけどほんと?」
「一方的に切られて、ナイフ握り潰して、ジャンクになったナイフを切っただけだ」
ちらりとギャルを見る探索科。
ギャルは無言で頷く。
割とショッキングな映像ではあったんだけど、メンタル的にそこまで影響は無いようだ。
こういうのも気にしないとやっていけないというのが探索者の辛い所でな、無駄な事して周囲の一般人まで怖がらせるんじゃねえぞというのが暗黙の了解になっている。
明文化されたルールじゃない、というかそこまで気を使うと今度は探索者が表で何もできなくなる。
だから、暗黙なのだ。
「気をつけてはいるが、こっちのレベルを旧式のままだと思い込んで喧嘩売ってきた馬鹿相手だ。加減してやる理由がなく、本気の一端を見せる理由はあった。ってのが俺の自己弁護なんだけどね」
「あー、その辺責めるつもりはないよ。先にやらかした奴が悪い、けどメンタルケアも重要じゃない?」
「それはそう」
ギャルが深く同意する。
俺のあずかり知らぬところで色々言われたりしたんじゃないだろうか。
反探索者なんて集団もいるわけで、そういう連中相手だろうと視聴率がとれるからと無茶な取材をするマスコミも少数ながらにいる。
今回の事件は格好の餌だったわけだが、結局のところ探索者が探索者を襲ったというだけの内容に落ち着いた。
センセーショナルだったのは双方が学生で未成年だったこと、そして刑が重く迅速に執行されたことの二つだけ。
被害者、俺だけじゃなくその場に居合わせた、加えてナイフを手にするまで被害者がいなかったのか、監督役は何をしていたのかという点は見事にスルーされていたのである。
実際の所後から雑賀さんに聞いてみれば「申し訳ないとは思ったが、見せしめが必要でした」との回答。
つまりDはレベル差を知っていて、その上でどうするのが一番いい回転をするのか見極めて、そしていざという時は俺が裁かれる形で全てを収束させるつもりだった。
さすが国家公認探索者、考える事が汚い。
とはいえ入念な打ち合わせの末、一般生徒に被害が出ないようにしていたとは聞いていたが……じっちゃんが雑賀さんを本気でぶん殴ってた。
人間が水平に壁に向かって吹っ飛ぶのを始めてみた、とだけ言っておく。
「で、ダンジョン!」
「あー、妹たちがカードとライセンス取得でダンジョンに潜るんだ。そんでレベリングの手伝いもする。その時でよければ」
せっかくだ、肉壁も戦力も多ければ多いほどいい。
最悪の場合があったとしても探索科の人間がいるなら自力で解決することだってできるだろう。
できなかったら、死ぬのが早くなるだけだ。
探索科はエリート故に、あらゆる意味で脱落者が出やすい場所でもある。
単位不足、レベル不足、怪我の後遺症で引退、トラウマで引退、そして死亡。
ダンジョンに関わるならありふれた理由ばかりだ……単位はともかく。
「じゃあうちのパーティと一緒にダンジョン潜るってことでいい?」
「何人いて、どういう構成?」
「私含めて4人、全員女子でタンク1、ヒーラー1、アタッカー2。ちなみに私はアタッカーで弓と短剣をつかうよ。もう一人は氷の魔法使い」
なるほど、悪くない構成だ。
訓練次第では中層くらいまでなら一方的な戦闘が可能なチーム、タンクが引き付けてヒーラーをアタッカーを挟む位置に置き、いざという時は回避盾をするレンジャー系。
そしてフレンドリーファイアを避ける特訓をメインにしていけばいいチームになるだろう。
氷の魔法が使えるというのもデカい。
あれは溶かせば飲み水の確保もできる。
純水故に味は悪いらしいけれど、それでも持ち歩く水の量を調整できるのはでかい。
なにせアイテムボックス系のアイテムやスキルが無ければ苦労するのは水だ。
荷物の大半が水という探索者もいないわけじゃないからな。
一応ダンジョン内にも給水スポットはあるのだが、そことは離れた階層での狩りをメインとするなら必須の代物だし、ダンジョン価格で売りつけるという手法もある。
水系魔法使いはこれ以上なく重宝される存在と言っていいだろう。
逆にあまり人気がないのは火と土だな。
味方を巻き込む可能性が高い火と、迷宮型階層ではあまり役に立たない土は探索者の中でも撃たれ弱く、フィジカルの恩恵が少ないことから当たり外れが大きい。
珍しい属性で言うなら光や闇だが、これらは重宝どころかDが押さえたいと切望するようなレアパターンだ。
直接攻撃、搦め手、支援、大抵の事が出来てしまうから。
……そんな魔法をコンプリートしている俺は、まぁばれたらプロからの勧誘がやばい事になるだろうな。
だからDの所属前提という状況になっているんだけど。
「そう言えば妹さんは何歳?」
「三姉妹の三つ子でな、全員14歳。だからライセンスは5級までしか取れないけど、16歳になった時スムーズにライセンス更新できるようにしているらしい。といってもライセンス持ちは長女だけで、あの子もレベルは1のまま、ギフトで肉体が変化したのもあってDで情報欲しいからって手伝いもしてくれる。レベリングは手伝ってもらえないけどな」
こういうのは正直に答えるのが吉だ。
離していない部分があるとしても、それは聞かれなかったからで通せる。
筋だって通して、不要な情報だって出しているんだからな。
「なるほどなるほど……レベリング相手はブルーラット?」
「レベル2になるまではその予定。その後はボア狩りをして、余裕があればビッグボアとの戦いも視野に入れてる。俺が盾役をやるつもりだけどな」
「ねぇ、ひとつ質問」
ギャルが挙手する。
「あ、あとお願いもあるんだけどさ。あたしもカードとライセンス欲しいから手伝って? もちろんお礼はするから」
「具体的には?」
「んー、おっぱい揉む?」
「ご縁がなかったという事で」
「冗談冗談、三上童貞?」
「使わないまま神様式パイプカットされたのは見ての通りだ」
「あー、まぁどんまい。で、質問だけど妹さん耳とかどうなってる?」
「あいにく、俺みたいに猫化とかしてなくて普通に成長しただけだよ」
「そっかぁ……」
残念そうにしているところ悪いが、三姉妹とも他人にベタベタ触られるのは嫌いなタイプだ。
……あの子達の方が猫っぽいと思うんだけどなぁ。




