送り狼
送り狼たちだが、最近はかなり懐いてきてくれた気がする。
いや、最初から人懐こい子達ではあったんだが、それでも野生なりの警戒というのがあった。
ただ、ここで好感度が一気に下がって距離を置かれるトラブルが発生したのだ。
「はい、予防接種はこれで完了です」
「ありがとうございます」
注射である。
痛い事をされたという記憶が俺を遠巻きにしている原因だ。
ついでにボアたちも猫も注射されたので、共通の敵を見るような視線が痛い。
というかこのDから派遣された獣医さんもレベル300超えているからか、送り狼たちの必死の抵抗を平然と無視していた。
「見た目は普通の犬ですが、やはりモンスターですね。運動能力が並の犬と比べて段違いだ。あ、採血させてもらったのでサンプルとして研究させてもらいますね」
「どうぞどうぞ」
「あっちのボアは肥えさせたら美味しいかもしれませんよ」
「それは重畳、でもここで捌くと他の子から逃げられると思うのでメガトンボア目指してもらって背中に乗れるようにしたいと思います」
「なるほど、それは面白い。あとあの猫ちゃんですが……」
「あの子に何か?」
「雌です。去勢する必要なかったですね」
はっはっはっと笑って牧場から出て行った獣医さん。
……送り狼君たち、去勢されちゃった?
「モンスターは繁殖するのか、という議論が上がっていたので今回はしてないです」
「雑賀さん、ナチュラルに心読まないで」
「いえ、その、三上さんはわかりやすいのです」
「マジで? 結構なポーカーフェイスしてると思ったんだけど」
頬をぐにぐにと触りながら答える。
顔色はともかく表情は変わってなかったと思うんだがなぁ……。
「脚の間を見ていただければ……」
「脚? あぁ……」
尻尾が股の間に入っていた。
手鏡、亜衣から押し付けられたやつを見てみれば耳もへたーんとなっている。
なるほど、これはわかりやすい。
無意識に耳と尻尾に出ていたか。
今度から気をつけよう。
しかしこの身体になってからまだ10日くらいだ。
慣れてない部分も多い。
特に女性の身体というのは神秘的でな……風呂で鏡をまともに見られない。
それを見かねた茉莉が水着で風呂場に突撃してきて、奇麗にトリートメントまでされて今や俺の尻尾もつやつやだ。
金持ちの飼い猫と見間違えるくらいには……という冗談を言ったら「いやおまえダンジョン省の一員みたいなもんだし、国の飼い猫だろ」とじっちゃんに突っ込まれた。
……贅沢して勝った瓶コーラの味がしなかったなぁ。
ちなみに俺をそんなになるまで磨き上げた茉莉曰く「洗ってない猫の臭いがする」というお兄ちゃんの心をへし折るには十分すぎる一言だった。
この子腕の骨くらい簡単に兄の心折るじゃん?
ダンジョンに潜れば3回に1回くらいのペースで折れる骨なんかコンビニで売ってる菓子より脆いぞ。
「これ隠すにはやっぱり普段のあれですかねぇ……」
「アレも意外とバレますよ。フードと帽子を合わせてようやく耳が見えにくいなくらいなので、服の下で尻尾が動いているのは見えます」
……俺の変装、高レベル相手には通用していなかった。
道理でたまに俺を見てぎょっとする人がいるわけだよ。
「あと付け加えておきますが、ポーカーフェイスを自称していましたがそれほどとは言えません。なんと言いますか……注射を痛くないと言い張る涙目の子供、くらいでしょうか」
「雑賀さん、その辺で。俺の心が砕け散ります。深層に降りたレベル1くらい簡単に砕け散ります」
最近遠慮が無くなってきたな、この人。
まぁ気やすい関係になったと言えばいいか。
家の中では家族全員名前呼びに変えるくらいには打ち解けてきたわけだし。
「真のポーカーフェイスは絶対に何か考えてるけど胡散臭さが全面に出ている笑顔の事を指します。こんな風に」
「うわっ、うさんくさ!」
「でしょう? その印象を与えて、あとは濁しておけばいいのですよ。そうすれば深入りしようとして来ませんから。けれど三上さんには向いてないですね。なのであえて感情全開にしておいた方が勝手に深読みしてくれるので楽かと思います」
そんな方法が……いや、雑賀さんの胡散臭い笑顔は本当に怖いんだけどさ。
絶対思う所あって、だけどうさん臭さしか感じないからマジで何を考えているかわからない。
というかこんな風に、とかやってみせた時点で何も考えてない可能性すらあるから、無駄に深読みすると俺がつかれるので何も考えない。
うん、これもう何も考えないで殴るのが一番楽なパターンだな。




