ライセンス
「ちょーッと待った! 私も行く! ライセンスを正式に上げる!」
そこで突撃してきたのが亜衣である。
一人大きくなった妹だが、その中身までは変わっていない。
「あれ、亜衣のライセンスって4級になってるんじゃね?」
「いえ、準4級です。幸助さんにはあぁいいましたけれど、実の所探索者全員のライセンスを一つ上げるのは少々問題があったので、一定以上の力量と経験がある場合昇格、その他各種例外を用いつつ基本は仮免許と同じように半歩昇格という形です」
「なるほど、じゃあ俺が2級になれたのって……」
「コンスタントに稼いで無事帰ってくることが多かったからですね。無茶をしないという点が高く評価され、レベルに見合った行動を心掛けている優秀な探索者として認められたのです。またギフトによるレベルの上り幅が大きく、外観の変化も著しいため保護の名目もありました」
「あぁ、3級だとアマチュア扱いだからどこそこの組織が手を出してくるかもってあれですか」
「そうですね。それ以外にも探索者のプロチームなどから勧誘される場合もありました。無論本人の希望とあればこちらが否を言う理由はありませんが、悪質な所は無茶な条件や過酷な環境での労働、金銭的に問題のある契約を結ぼうとしてくることもありますので」
そういや以前そんなニュース見たな。
どっかの探索者チームが新人を安い給料でこき使ってて労基がダンジョン省と一緒に動いて解散させたとかなんとか。
関係者はみんな降格か、ライセンスはく奪されたって話だった。
「で、亜衣はどうやってライセンス昇格させるんだ。4級になるには最低でも送り狼くらいは単独で撃破ってのが条件だが」
5級は筆記だけ、4級は筆記と最低限の実力、3級は15レベル以上でなおかつ実績と筆記が必要となってくる。
プロとされる2級は中層、50階層への到達とその証拠の提示として複数のモンスター素材を入手してこいというのが何回か繰り返される。
これだけだと不正もできるので、ギルド職員との模擬戦も含まれており、それをこなす必要がある。
具体的にはレベル100以上は欲しいと言われるライン。
「んー、お兄ちゃんたちが監督官としての同行じゃ駄目?」
「私は構いませんよ。中学生で4級というのは珍しいと思いますが、多少の困難を乗り越えれば不可能ではありませんから」
雑賀さんがフォローしてくれる。
ふむ……まぁいいなら遠慮はいらんか。
「じゃあその方針で。茉莉と瑠璃はそれぞれ5級のライセンスの勉強しておけよ。そんなに難しくないから」
「はーい」
「もう終わってるよ……?」
茉莉はまだだったみたいだが、瑠璃は既に終えていた。
というかこの子の事だから3級くらいの範囲までは勉強済みでも驚かない。
「優秀ですね」
「自慢の妹達です」
まじで自慢できる子達だ。
みんな献身的というわけじゃないけど俺のサポートもしてくれるし、家でも家事とかちゃんとこなしてくれる。
まだ幼い弟たちの遊び相手にもなってくれる立派な妹たちである。
なおそれはそれとして歳相応に遊びに行ったりしているので、非の打ち所がない。
……亜衣と茉莉の向こう見ずで男勝りというか、男顔負けな精神力を除けば最高の妹だ。
いや、2人ともいい子なんだよ?
ただ、いじめはどついてやめさせたり、自分に矛先剥いたら全力で殴り返したり、犯人が分からなかったら学年纏めて全員殴り飛ばしたり、問題行動がたまーに起こるというだけで。
やってること自体は悪じゃないんだけど、法的に見ると悪者にされちゃうよという……あ、ダメだ、フォローできねえや。
その点瑠璃は大人しくていい子だ。
いい子なんだが……ビブリオマニアでな。
彼女の部屋は見上げる程度に本が積まれている。
可愛い服より本、食事より本、睡眠より本、お小遣いの大半を本につぎ込んでいるせいで外行きの服は数えるほど。
飾り気もなく同級生からは姉二人と比較されているとまで聞くが、中身は一番過激だったりする。
亜衣や茉莉が普段からやらかす傾向があるのだが、瑠璃は自分に矛先が向いてもスルーする胆力がある。
だがクラスの男子が悪戯半分、いじめ半分で瑠璃の本を奪った時事件は起こった。
相手の腕をへし折ったのだ。
それも探索者をやっていて、ライセンスも4級を持っている「ちゃんと鍛えている探索者の同級生」の腕を軽々と。
……才能の塊かな?
まぁ結果として不問になったし、向こうも一般人に腕を折られたというのを大事にしたくなかったのもあってか、というかそもそも手を出してきたのが向こうだからというのもあるが、その件はサラッと終わってしまったのでいいとしよう。
まぁ強いて言うなら三姉妹とも俺と趣味の方向性が違うから、あまり話が合わないくらいなんだけどな。
ジャージ貸してくれた茉莉は運動が好きで、亜衣はドラマが好き、瑠璃は本なら何でも好きで、俺はゲームや漫画アニメが大好きなのだ。
ビブリオマニアの瑠璃は本なら貴賤なく読むからたまに漫画借りてるし、俺の部屋から持っていく事もある。
その後「面白いから自分も買う」と本屋にダッシュしたりするので、一番大人しい瑠璃も運動が苦手なわけではない。
嫌いらしいけど。
「それで、幸助さんからして妹さん達は探索者としてどうでしょう」
「Dの人ならそこ気になりますよね。順当に行けば中層で安定して稼げる程度にはなるかと」
「それは楽しみです」
実際運動神経は悪くない。
じっちゃん達が護身術と言っていろんな武術とかを教えてくれてたのもあって、亜衣たちもかなり身体の動かし方が上手い。
俺も教わったんだけど……三人に比べるとちょっとぎこちなかったかな、今はベストパフォーマンス出せるボディになったからどんどん訓練してもらってるけど。
「現在中層以降を探索できる人材の確保に難儀している状態ですから」
「まぁ、ですよねとしか言えませんよ。上層だけでそこそこの稼ぎが期待できて、金銭欲か名誉欲に興味がないと中層より先にはいかない。で、中層の試練で逃げかえる人が多いって話ですから」
Dことダンジョン省としては探索者の数が増えるのは好ましい事、そして戦力が増えるのもとても好ましいと言える。
だがそんな時間が作れる人というのはあまり多くない。
専業探索者になるなら上層だけでも十分食い繋げるが、贅沢が難しくなってくる。
どうしても装備とかに金くわれるから経費が馬鹿にならないのだ。
じゃあ自由に使えるだけの金を稼ごうとなったら中層より先に行かないといけないのだが、その中層からは人型のモンスターが出現する。
ゴブリンとかコボルトとかだ。
こいつらの厄介な所は人間の悪意そのものを詰め込んだような存在であるという一点。
上層の動物の延長にいる奴らとは違い連携とか当然してくるし、捨て駒だって使う。
なんなら囮や、自分たちで連れてきたモンスターの群をぶつけるトレインとかMPKなんて言われる行為すらしてくる。
それだけでも厄介なのに、人型というのが一番問題だ。
なにせ同型の相手を殺すというのはかなり抵抗がある。
慣れればヤバいし、慣れなければ死ぬという嫌な二択を迫ってくるのでまともに専業で探索者を続けられる人は少ない。
基本的に専業探索者はみんなどこかプッツンしていると言っていい。
下層に行く奴は常識が擦り切れてるか元から無いし、深層に行く奴は人間の精神性をしていないレベルだから。
無いと困るけど有りすぎてもやばい、それがダンジョンと探索者という存在なのでダンジョン省はできるだけ高レベルの探索者を身内に引き入れたいという欲求がある。
そのために厳しいレベル制限をかけた試験と、そして高給に高待遇の職場を用意する事でどうにかこうにか今の状況を維持していると言っていい。
まぁ、そんな探索者にも犯罪者は出てくるので、その対処に回る事もあるので万事が万事とはいかないんだけどな。
「さて、亜衣の付き添いは俺が行くとして……茉莉と瑠璃の試験も同伴してもいいですかね」
「構いませんよ。元々探索者の家族が同伴する事もありますし、ダンジョン省としても護衛が多いのは好ましいです」
「護衛……できますかね、俺で」
「ブルーラットなら何百体出てきてもどうにでもできますよね」
「そりゃ、まぁ」
タンク系と呼ばれる高耐久ジョブなら問題ない。
特に闇系の魔法と剣を使う暗黒騎士というジョブは敵から体力を吸い取って回復する攻撃がいくつもある。
そして【バインド】というスキルで敵のヘイトを自分に集中させることもできるので、俺を見ろからの範囲攻撃と吸収で雑魚くらいなら一蹴できてしまう。
ちなみに光魔法と剣と盾を使うナイトは【フラッシュ】という技で自分に敵を引き付けるが、範囲はこちらの方が広い。
ただ攻撃に吸収能力が無いので、自力で光魔法を使い回復し続けなければいけないという点から雑魚相手なら暗黒騎士の方が向いているというだけだ。
他にもタンク系はあるけど、他はもっと攻撃的だからなぁ……耐久力だとこの二つがトップに出てくる。
「あとダンジョンの異常について少しご相談が」
「聞きましょう。俺の部屋でいいですか?」
「いえ、ここで構いませんよ。端的に申し上げるとスタンピードの兆候に似ていると聞きます。ただ普通のスタンピードとはまた違うという情報も」
「……日本ってまだスタンピード発生してないですよね」
「えぇ、戦後各地から収集した情報を精査したうえで似たような状況、としか言えません」
「つまり深層からなにかがやばいのが押し上げてきている?」
「かもしれません。ですがその辺りも調査中です」
ふぅむ、スタンピードの原理としては珍しいパターンだな。
基本的に災害扱いになっているからその記録は一般人でも調べられる。
俺が知っている範囲だと最初にアメリカで発生したスタンピードは上層のモンスターが増え過ぎて溢れたというものだった。
逆に一番最近発生したのはオーストラリアの物で、深層にモンスターが増えて下層を侵略、住処を奪われた下層のモンスターが中層に、中層のモンスターが上層に、上層のモンスターがダンジョンの外にという流れだった。
話的に似ているとは思うが……日本のダンジョンは深層を攻略し続けてる化物がいるからな。
ダンジョン大国として有名な日本は雑魚しか出ないとか、浅い階層しかない低級ダンジョンも多く存在しているし、そこそこの難易度だけどレベル100あればクリアできる中級ダンジョンもある。
深層まである上級ダンジョンだって浅い階層なら誰でも入れるからな。
もちろんライセンス次第だし、それだって場合によっては罰則があるので無秩序にとはいかないけど。
ただ少なくとも低級ダンジョンでそこそこの実力になった人がライセンスを取得するという事は珍しくないので、ちょくちょく「お前レベルの割にはライセンス5級かよ」というのもいる。
在野にレベル100超えが多すぎる国、それが日本。
そのせいでスポーツ界じゃ選手を集めるなら非探索者か低レベル探索者を捜せという状況になっているらしいけどな。
俺の学校でもレベル持ちは何人もいるし、レベル10を超えているのもちらほら。
探索科になってくればレベル50前後が平均で、トップクラスになるとレベル300を超えて早くもダンジョン省入りを考えているのもいる。
そう考えるとスタンピードの心配はあまりないんだけど……状況からして備えはしておいた方がよさそうなんだよな。
「万が一には備えておきたいですね」
「幸助さんならハウジングがあるのでどうにでもなるかと。ちなみに牧場はいかがです?」
「問題なく送り狼もボアも猫も共存していますよ。この後狂犬病の注射が大変そうですけど……」
「ダンジョン省から獣医資格を持っている人員を派遣しますね……」
「お願いします……」
調子に乗りすぎて200を超えるモンスターを捕まえてしまったからな。
おかげで俺が何かしなくても楽しそうに過ごしてくれているが、縄張り争いみたいなのは無いようだ。
一応一安心といえるのかな?




