ハウジング
「ハウジングねぇ……名前からすりゃ家を建てるスキルだわな」
「だよなぁ。ゲームシステム由来の名前だし」
「お前ゲームでは家持ってたか?」
「現実貧乏ゲーム金持ち、よくあるパターン」
本当によくあるパターンなのだ。
中学生の頃は「あぁ、昼飯代ないわ……途中でモンスター狩るか」とか考えるくらいにはどっぷりハマってた。
そしてハマってたという事はそれだけやり込んでいたわけで、金も9桁くらいはあったのだ。
ちなみにハウジングにかかるお値段は最安値300万、最大で1000万なので金は持て余していたのである。
なお余談だが、ゲームは遊ばないがプレイヤー同士で物の売買ができるマーケットがあり、爺ちゃんと婆ちゃんが相場を見て買い占めてから放出したりという資産運用を教えてくれた。
そのうちあぶく銭が手に入ったら株でもやってみるかと思ったけど、実際にそんな大金動かすのは怖いので堅実に生きていこうと決めたのは想定外のアイテムが突如高額になったり、高値と予想していたアイテムが暴落した時だった。
「まぁ危険なスキルじゃなさそうだ。使ってみ」
「あいよ。【ハウジング】」
スキルを使用すると目の前の空間が歪んだ。
虹色に光りながら、空間の亀裂ができあがる。
空間型ダンジョン、そう呼ばれるものとそっくりだ。
中で大規模な爆発を起こしても外では音すらしないという特別なダンジョン。
その全てが政府の手によって抑えられ、パワーレベリングに使われるというわかりやすく有用な代物だ。
なんせ中に爆弾運んで、時限スイッチ押してダンジョンの外に出る。
これだけでレベルが上がるのだから。
なおその性質上ドロップアイテムどころか、どんなモンスターが出てくるかもまともに調査されていない。
調査するまでもなくスタンピード起こさせねえぞという気概と、そもそもモンスターを経験値としてしか見ていないという気風があるのは割りきりゆえだろう。
警察も軍隊も、どれだけ訓練したところでレベルが低ければ個人の暴力で全てなぎ倒されてしまう。
じゃあゲームで言うところの強い探索者の後ろでチクチクしていればいいかと言えばそれは違う。
レベルに必要とされている何かは倒した本人に行くと言われているし、高レベルのモンスターになってくると肉や内臓すら鋼鉄を上回る強度で、最低でも同等のレベルと、それに見合った装備が必要になってくる。
そういうのを無視して毒ガスや爆弾でレベル上げ出来る事の重要性に目を向けた奴は頭がおかしいと思うの。
もちろんそんなの効かない相手もいるけどさ。
「じっちゃん、これ……」
「うむ、空間型ダンジョンに似てるな」
「とりあえず入ってみるけど、ついてくる?」
「面白そうだし行く」
はい、じっちゃんの座右の銘「面白いは全てに優先される」が発動したようだ。
まぁ今更止めるつもりもないので中に入ってみるとあら不思議、ゲーム内で俺が購入した豪邸があるじゃありませんか。
XLサイズで、個人所有させる気がねえと言われていたそれはフランスとかイギリスにある貴族の館を連想させる。
一方で庭にある露天風呂や畑と言った設置物が違和感を醸し出しているが、それも含めて気に入っていた我が家だ。
「なんというか……うむ、西か東かわけんかい」
「ゲーム内だから好き放題置いてたんだよ」
桜や紅葉と春夏秋冬も無視した庭木に、どれだけ殴ってHPを0にしても壊れないサンドバッグがレベルごとに3つ、他にも色々置いてあるが全部見慣れた物だった。
「お、これは硬いな」
「あぁ、それレベル100のエンドコンテンツ用サンドバッグ」
現状一番強い敵と戦う時にダメージ計算や練習のために使われるものだ。
複数人で挑んでようやく倒せるかというレベルとHP、そして防御力を兼ね備えているので一般人だと殴った方が怪我をするし、ダメージ計算がゲーム特有の天元突破なので現実でのレベル100程度でも拳を痛める。
それをぺしぺしと叩いてから、おもむろに拳で鋭い突きをはなったじっちゃん。
怪我をする、と注意する間もなかった。
同時にズドンと、おおよそ人体が打撃で出していい音とは思えない重低音が響く。
見ればサンドバッグに拳がめり込んでいた。
「おぉ、いいなこれ。たまに使わせてくれ」
「……それ、現実だとレベル500くらい無いと逆に怪我すると思うんだけど」
「そりゃお前、技術も必要だって言っただろ。それに俺等の世代はみんなそれなりに強いぞ」
「……修羅の世代」
「おうよ、ジジババを見たら生き残りの修羅と思え」
ダンジョンが現れてすぐの世代を修羅の世代と呼ぶことがある。
戦争も、戦後の混乱も、ダンジョンという災害も、さらに国防のためのダンジョンに関する取り決めやら法律やらも掻い潜って強くなった人ばかりの世代。
それがじっちゃん達だ。
つまるところ現代において老人は滅茶苦茶強い。
世代が変わると事情も変わるけど、今最高レベルなのはじっちゃん世代で、今でも現役で探索者やってますって人はギルドカードの反応から深層と言われる500階層以降でバリバリレベル上げしているらしい。
俺みたいな上層で稼ぐだけならいいけど、中層より先に行く場合はギルドにカードを預けるのが半ば義務みたいになっているからな。
ギルドカードは所有者の死亡、あるいは破棄によって消滅する。
破棄はダンジョンの壁に埋め込むことが条件で、死亡はそのまんまの意味。
これで生死確認ができるのが便利だ。
ちなみに紛失した場合だが24時間以上触れない、ダンジョンに潜らないと手元に現れる仕組みになっている。
仕組みと言っても神々の仕業なのでどういう理論かは知らんし、研究もとん挫した。
確か今の最高レベルは……100万は超えてたっけ。
そこまで来るともうだれにも止められないので、個人国家と言ってもいい存在になってくる。
自由意志を持って闊歩する核爆弾より恐ろしい何か、という評価が世間の物で、なおかつ本人はダンジョン以外興味がないというやべー奴なので「もう好きにしてください」だ。
運が良ければ何年かに一回戻ってきて荷物を置いてダンジョンに帰っていくので、都度大きな競りが始まったり一目見ようと人が集まったりする。
……たしか130歳超えてたから、レベルは人間の寿命も変えてしまうのではないかという議論がされたが、3桁程度では大した変化はないという結論に至った。
4桁半ばになると老化が遅れたり、見た目は老いても力は全盛期祖のままだったり、そもそも病気にならないとかが出てくるって話。
5桁になるとほぼ不老不死で外的要因がなけりゃ死なないとまで言われているが、今のトップは見た目は老人そのものだった。
そういう成長もあるのだとじっちゃんは言うが……。
まさしく修羅の集まりと行っていい世代である。
「で、じっちゃんは結局レベルいくつよ」
「そりゃあ秘密に決まってんだろ。こういうのはネタバレが一番つまらねえからな!」
と、まぁのらりくらりと躱されてるが……絶対にこの人4桁のフォースって言われる類だよな。
ファースト世代のフォースとか、そりゃ間違いなく修羅認定されるわ。
むしろライセンス持ってない事が不思議で仕方ないが……混乱期だったの一言で片づけられるの、ずるくない?




