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ダンジョン探索者だけど猫耳美少女になった件について  作者: 蒼井茜


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特訓3!

 転がされる。

 何度も何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も、地面を転がされて口の中に土の味が広がる。


「うえ……ぺっ」


「娘御がはしたないのう」


「いや、男孫だろ」


「今は娘孫だ。しかしなんだ、力は強くとも使いこなせてないな」


「だからずっと仮初だって言ってるじゃん」


「それが理解できているうちはいい。だがな、もし唐突にその力が無くなったらどうする」


「そりゃ……今までと変わらずビッグボアを狩る」


 安全とは言い難いが、それでも俺が対処できる範疇では比較的安全なモンスターだ。

 しかも収入源としてはそれなりと言える。


「違う、その姿かたちやレベルだけじゃない。本来のレベルまで奪われた場合だ」


 む、それは考えてなかった……生まれる前からあった者に疑問を抱かなかった。

 神々の恩寵とか言われているけど、それは気まぐれと言い換えてもいい。

 いくつかの宗教団体は大きく方針転換したり、ほぼ壊滅するくらいにもめたらしいけどそういう事だ。

 神々、つまり複数形で、そんな者達の意志がある。

 気まぐれに与えた力なら気まぐれに奪う事もあるだろう。

 想像が足りていなかった……というより、考える事すらしなかった。


「その時はどうしたもんかなぁ。ダンジョン省に雇われたとしても戦力になれないなら先は無いし、普通に就職するにも国が滅びかねない事態だろうし」


「うむ、考えるのだ。若人に許されるのは考え学ぶこと。俺達老人と比べて時間は山ほどあるのだから」


「とかいって、あと50年は生きるって言ってたよな。俺より長生きしそう」


「馬鹿もん、儂より先に死出の道を行くなど許さんぞ」


「はいはい、今のところそんな予定も無いしね」


 と言いながらじっちゃんならマジで俺より長生きするかも、という不思議な感覚がある。

 なんというか、90歳超えているとは思えない胆力があるんだよな。

 歳をとると食欲が細くなり、脱水も起こしやすくなると聞いたことがある。

 爺ちゃんじっちゃん、婆ちゃんばっちゃんの事を考えて調べたこともあるのだが、幸いにして皆健啖家で暇さえあれば茶を啜っている。


 流石に酒はやめたらしいが、それでもじっちゃんは夕陽を見ながら煙草を吸うのが日課だ。

 身体に悪いとみんな言うが、じっちゃん曰く「そう言ってきた医者はみんな俺より先に死んだ」と豪快に笑い飛ばしてたっけ。


「さて、組手をしてわかったが……あの演舞だったか。随分と熱心にやっているがそれだけだな」


「ん? いや、本気でやっているけど」


「そうじゃない。何のためにやっているかではなく、誰のためにやっているかだ」


「誰? 俺のためじゃなくて?」


 大きくため息をつくじっちゃん。


「お前なぁ桜ちゃんが聞いたらげんこつ物だぞ」


 桜、ばっちゃんの名前だ。

 90歳超えてちゃん付けはどうかと思うが、そういう仲なのだろう。


「モンクとは武闘家の先と思っているかもしれんが、その実態は聖職者の先にある。つまり演武とは神にささげる舞いと同じだという事だ」


 そういや歴史の授業でそんなの習ったな。

 戦闘特化の僧侶みたいな立ち位置って聞いたが。


「神ねぇ……けどその神様ってさ」


「うむ、まぁ上位種としか言えんが全能というわけでもないだろう。もしかしたらこの世界に対してだけなら全農になれるかもしれないがな」


「ってことは俺は信仰心が足りてないって事? そう言っても信仰心なんて歴史の教科書にしか出てこないけど」


「桜ちゃんは【オラクル】というスキルを持っている。これは神と交信するための物だ」


 初耳だ。

 そもそもソレ、聞いたことがないから一般的なスキルじゃないと思う。

 レア、下手したら世界で1人だけのユニークかもしれない。


「曰く、神は気まぐれを起こさないとは言っていた。けれど俺達はそれを知るすべはないし、信じる事も難しい。なにせ戦後すぐにダンジョンなんてけったいな物ができたからな。益も与えるが、その多くは試練だ。お前だって試験を出す教師にいい感情はないだろう」


「いや、ぶっちゃけるけど試験くらいなら今の実力がわかるからありがたいくらいだよ。むしろ問題考えて、採点までしてご苦労様としか言えない」


「できた孫とほめるべきか、変わり者というべきか……だが命がけなら話は別だろうさ」


「それはそうだ」


 誰しも失敗したら死ぬ試験なんてごめんだからな。


「だから一度神にでも捧げるつもりでやってみろ。ほれ、思い立ったが吉日だ」


「わかった」


 じっちゃんのいい分はなんとなくだけどわかる。

 わかるけど……捧げるねぇ。

 信仰心ってのがどんなもんかわからないけど、それでも墓の前で供え物をする感覚でいいのかな。

 悩んでても仕方ないのでまず【演舞】を発動させる。

 大地を掴み、身体を動かす。


 それを漫画のように「御照覧あれ」と強く念じながら身体を動かせば雑念が消えていくようだ。

 そして1分、【演舞】を終えるとズキッと頭が痛んだ。

 初めての経験だが、頭に声が響く。

 あの時のアナウンスに似ているが……。


『汝の成したいように成すがいい』


 そんな言葉だった。

 ……邪神かな?


『次邪神とか言ったら天罰な』


 ……俗な神様だ。

 けどこれがばっちゃんのスキル、【オラクル】に似た物だというのはわかる。


「どうだった」


「なんか頭の中に直接語り掛けられたよ。汝の成したいように成すがいいだって」


「ほほう、やっぱり神官系の力でもあるわけだ。よし、続けてみろ」


 何か納得した様子のじっちゃんを見ながら【演舞Ⅱ】を発動させる。

 再び御照覧あれと念じながら、空気の玉を通して体をあやつる。

 そして再び小さな頭痛と共に声が響く。


『過ちを犯さなければ、神は気まぐれを起こさない』


 そんな言葉だった。

 えと、つまり俺が犯罪とかの間違った使い方をしなければ仮初にして借り物の力はそのまま使わせてもらえるって事かな?


「顔色がいいな。どうだった」


「悪い事、って言うと語弊があるか。過ちを犯さなければ剥奪はしないって言ってたんだと思う」


 どうなるかはわからんけどね。


「なら、まずは訓練あるのみだ。力が強い分横からの小さな力で逸らされる。その対処だな」


「どうすればいい?」


「簡単だ。逸らされる前に殴る。逸らされないように殴る。逸らされてもいいように殴る、それだけだ」


 言うは易く行うは難しというけど……じっちゃんは感覚派だからなぁ。


「まぁ殴るのは段階を踏んでからになるが、関節技や投げ技も多用するべきだろう。武器だって使えるんだろう?」


「スキルにはないけど、できるよ」


 モンクのジョブのままナイフを使う事は出来た。

 当然戦闘力はがた落ちするが、それでも使えなくはない。

 ともすれば同格相手ならブラフに使うことだってできるだろう。

 ついでに言えば戦闘中でもジョブを変えられる感覚があったので、徒手空拳ですと見せかけてからのデカい剣でズバンって事もできる。

 単純に俺の技量じゃそんな何でもかんでも使いこなせるわけじゃないからやってないだけで。


「ならまずは関節技や絞め技だな。とらえてしまえばその後は自由だ」


「生かすも殺すもって?」


「その通り。これは常識だがダンジョンで倒したモンスターはドロップアイテムを残して消滅する。しかし例外もあって、生きているうちに解体ができれば多くの物を手に入れる事ができる」


「え、マジ?」


「相当な修練が必要というのを除外すればな」


 それは……とてもおいしい情報なのでは?


「ちなみに猶予は殺してから3秒以内、殺す前は急所を外して暴れる相手を捕まえたままの解体になる」


「つまり、力は大前提で技術も必要……」


「そうだ。それに技もな。なのでこれからみっちりと技を仕込んでやる。スキルなんぞに頼らん、戦いとらえるための技術、そして確実に相手を殺す技術をな」


 ごくりと喉が鳴った。

 今まで意識してこなかったわけじゃない。

 けど、殺しの技術があったとしてそれを俺が使えるかと言えば、精神的に難しいかもしれない。


「まぁ慣れは必要でも、覚えておいて損はない。というわけでもう一度組手だ。今度はしっかりと拘束術を教えていくからな」


 そうかたるじっちゃん、見た目にそぐわぬ力でごり押してきたと思えば小技を挟んで、たまにフェイントを入れて翻弄してくる。

 目は追いつく、身体だって言う通りに動いてくれる。

 けどそれらを潜り抜けて、俺はあっという間に地面に引きずり倒された。


「とまぁこんな感じで、どれだけ力があっても人体の構造には逆らえん。関節を外せば動きを鈍らせられるし、骨を折れば力が落ちる。頸動脈を絞めれば気絶させることだってできるからな。そこにレベルは関係ない」


 なるほど、生き物にとってのあたりまえはモンスターにも有効なわけだ。


「ちなみに解体と言ったが。ナイフとかで腹を切り裂く必要はない。力任せに足だの内臓を引きずり出すだの、採取は可能だ」


 それは知らなかった……あれ、もしかしたらレベルとかが奪われてもそういうので対処できる事もあるんじゃないかな。


「言っておくが力がある事が最低限だからな。それを忘れるべからずだ」


「うす」


 こちらの考えはオミトオシってわけだ。なら……今は持て余している力を十全に、自分の意志で加減もできるようにならないといけない。

 なにせ出力で換算すれば1か100の極端な状態だからな。


「つーわけで使えるもんは使えるようになっておけ。まだまだ試してないスキルあるだろ」


「あ、はい」


 まぁ、うん、バレるよね。

 何を隠そう俺をゲーマーの道に引きずり込んだのはじっちゃんだ。

 死にゲーと言われるゲームをボケ防止と称してノーダメノーセーブクリアしたじっちゃん、それじゃ温いと始めたのが集団戦が基本のオンラインゲームで、パリィと回避の達人である。

 ちなみに探索者の道は俺が決めた物だけど、寝物語に聞かされたのが響いているので結構祖父母の影響は強いんじゃないかね。


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