オツトメ
夕飯時、唐突に雑賀さんがニュースをつけていいか聞いてきた。
俺達はこれと言って見るものもないので、了承したが……すっかりうちに馴染んでるな。
「昨日未成年探索者が同級生を切りつけたことで逮捕されました。二次覚醒者という事もあり、警察は重く受け止め即日裁判の後無期懲役、あるいは探索刑が決まり本人の希望から探索刑となりました」
「これって」
「はい、先日の山田さんによる凶行に対する報道です」
「あー、あいつ探索刑になったのか……大丈夫ですかね」
「わかりません。ダンジョンは何があるかわかりませんし、受刑者ともなれば装備の貸し出しも最低限、レベルから判断して中層以降に送られる予定です」
「報復とかは」
「現在フォースが見張りについています。三交代制で24時間、常に3人以上で」
「ならまぁ……というか二次覚醒者?」
「先日の恩寵による成長率著しい者達の呼称です。三上さんは顕著ですが、他の方々も差があるとはいえ何かしらの力を得ていますから。我々はそういう方々を二次覚醒者、そして恩寵をギフトと呼称する事にしました」
二次覚醒者にギフトねぇ……おれちんこ持っていかれたんだけど?
しかし中層か、確か階層にして50以上をそう呼ぶはずだ。
レベル3桁相当のモンスターが闊歩して、火山や凍結などの地形ダメージもある。
登竜門と呼ばれているが、ここを鼻歌交じりに散策できるようになれば一人前と言われている。
そしてそのレベルになれば儲けも増えてきて、専業で食っていくに困らなくなるとも言われる。
そこまでくればフォースと呼ばれる、レベル4桁にも片足が引っかかる頃合いだ。
俺以上の人達が見張っているというなら報復とかもないだろう、逆恨みだけど。
ちなみに下層は100階層より先をいい、未確認領域と呼ばれるところは全て深層と言われている。
そこまでたどり着いたらもう豪邸一括購入余裕なセレブになるが、大半がその前に探索者か人生をリタイアする。
フィフスとかになれるのはごく一部という事だな。
まぁあそこまでくれば国のお抱えになるのが普通で、発電所やら病院やらの重要機関に高純度高品質のデカい魔石を卸す事が多い。
というか普通に探索者としてギルドに売るとぼったくりみたいな値段になるからな。
パーセンテージで言えば取り分は5%もあればいい方だろう。
それでも新宿の一等地くらい買える値段だけど、直に卸せばその数倍は貰える。
ギルドとて慈善事業じゃないのはわかっているが、それでも暴利なんだよな……。
そういうのが嫌で爺ちゃん達はギルドとは関わらず、闇市をはじめとした裏組織やら、そっち方面と繋がりのある企業相手に仕事をしていたというけど。
「でも未成年者保護とかそういうのは無いんですね」
「有体に言ってしまえば見せしめです。子供であろうと容赦はしないという前例を用意した事で他の二次覚醒者への牽制となると踏んでの事ですね」
「司法はよくわからないんですが……横紙破りでは?」
「いいえ、上からの命令なので我々は何も口を挟んでいません」
詭弁といえばそうなのだが、実際上に掛け合った結果こうなったんじゃないかと予想しておく。
いや、まぁよくある事なのかもしれんけどさ。
それでもこれはあからさまだ。
多分ネットではお祭り騒ぎだろうな。
あと俺の事が報じられなかったのは情報をある程度秘匿しているのと、相手の状況がわからない方が事件の悲惨性が増すからだろう。
大人怖い。
「幸助? お母さん聞いてなかったんだけど?」
……ごめん、言うの忘れてた。
「い、いや、実際大したことなかったし……普通に忘れてました。ごめんなさい」
「はいよろしい。けど探索科の子達は大丈夫かしら。こんな事件があったってなると風当たりも強くなるんじゃないかしら」
「そこは大丈夫だと思うよ。これやったの一般科だから。ただ探索者への視線はどうしても厳しくなるんじゃないかな」
「なに他人事みたいに言ってるの?」
あ、俺も探索者か。
しかも見た目から二次覚醒者ってのバレバレだな。
「……しばらくキャップとフードで隠すか」
「そうしておきなさい。ご近所さんには私達がそれとなく話しておくから」
「助かるよ」
「あなたのお母さんだもん。それに美味しいお肉もってきてくれるしね」
「それはやりたくてやってる。だから諸々気にしなくていいよ」
「そう? じゃあ美味しいお野菜とれるダンジョンとかないかしら。最近高いのよねぇ」
野菜かぁ……基本的にドロップアイテム狙いなら食材ダンジョンって言われる、とにかくモンスターが食い物しか落とさないダンジョン狙いだよなぁ。
あるいは山とか森がそのままダンジョンになったパターン。
富士の樹海とかがその類だけど、そっちは肉が多いんだよな。
ドロップより採取だから狙った物を取れる利点はあるけど、あっちは確か結構モンスターが強かったはず。
階層がない代わりに、都市伝説だった方向が分からなくなるっていうのが現実化しているから普通に遭難するし。
というか東京で食材ダンジョンや山ダンジョンとなると奥多摩の方に行かないと無いんだよな。
「どうにかできなくはないけど、遠いから学校がね」
「あら、それは残念……でも幸助のおかげで家計にも余裕があるからそこまで気にしなくて大丈夫よ。ついでに補助金出たし」
「あぁ、あれっていくらくらいだった?」
「毎月500万」
母さんの言葉に味噌汁を噴き出しそうになった。
ご、ごひゃく!?
「そのくらいは当然かと。二次覚醒者の中でも特に変化が著しいので。代わりと言っては何ですが、体毛を研究に回していただけると助かりますがどうでしょう」
「いいですよ。耳と尻尾の毛でいいですかね」
「はい、助かります。ポーションと同様に調べさせますので」
「じゃあ入れ物でも用意しておいてください。小瓶にラベルでもつけておけば十分でしょうし」
「既に見張りの人間が準備に取り掛かっています。しかし……こうして毎日ご相伴に預かってもいいのか」
「気にしないでください。護衛してもらっているんですから」
俺の言葉にみんなが頷く。
特に爺ちゃん婆ちゃんは俺が弱いのを知っているからか、深い頷きだ。
「だがよぅ、いつまでも続くってのはちぃと問題だぜ?」
「親父!」
じっちゃん、つまり親父の父さんが口を開く。
「いや、一人分の食い扶持くらい問題ねえんだ。ただなんてんだ? ぷらいばしーだっけか? 幸助も年頃だ、そういうのは必要だろうさ」
「それはまぁ……」
「特におなごの身体になっちまったってんならなぁ」
「むぅ……」
「ご心配なく。今後女性職員との交代も視野に入れています」
それはそれでどうなんだろう……逆に緊張しそうだな。
ボディが女になっただけで精神性とかは普通に男のままだから。
「あるいはダンジョン省の連中が放置してもいいくらいに強くなるってのはどうだ」
「それは……はっきり申し上げますと、それだけの戦力となればうちで即時雇用ですね。現在も雇用関係となっていますが、現場に出ていただける実力が得られるなら給金も相応に出せますので」
「お上に持っていかれるのは気に喰わねえが、それでも肩の力が抜けるところができるなら最上だろうよ。どうだ、じっちゃんと特訓するか」
じっちゃんの言葉、それは酷くありがたい。
実際就職とかは置いておいて、強くなれるならそれに越したことは無い。
まだまだ俺は強くなれるし、その分今は弱い。
ビッグボアですらおっかなびっくり、この先の階層に進むのも時間をかけてゆっくりやっていきたいと思っている。
だったら、これは断る理由が無いな。
「お願いします、じっちゃん」
「おうよ! 任せておけ!」
がははと豪快に笑うじっちゃん、爺ちゃん達と違いがっしりした体躯なのは多分遺伝なんだろうな。
……俺、もしこうなって無かったら老けた時どっちに似たんだろう。




