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ダンジョン探索者だけど猫耳美少女になった件について  作者: 蒼井茜


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戦後組

「戦後探索者になった人は多いのは知っているな」


「うん、食料やお金になるものを得るためにダンジョンに潜ったんだよね」


 戦後、日本国内だけで100に近いダンジョンが見つかった。

 今でも増えたり消えたりしているが、基本的には増加傾向のそれは職員さんが日々衛星写真を見て散策している。

 そこに潜っていった初代やファーストと呼ばれる世代が爺ちゃん達だ。


「けれど無秩序に強くなる国民を見て政府は危機感を覚えた。故に設けられたのがライセンスという資格だった」


 雑賀さんが正座しながら、じっと話を聞いている。

 その表情はどこか気まずそうで、口をはさむ余地が無いようだ。


「当時は徴兵だなんだの後に、復権や復興と慌ただしくいくつもの犯罪が見逃されて……いや、手が回らなかったというべきかな。そしてその恩恵は多くの人間が受けていたのも事実。今でこそ社会の厄介者であるヤクザも、足場がなければ落ちるのみ。その足場固めに随分と奔走していた」


「闇市の取り仕切りとか、ケツ持ちって言われるやつ?」


「そうだ。だがそんなものを無視できるほどの強者が山ほど生まれたらどうなるか。軍はそれどころではなく、警察機構も力を蓄える余裕はなかった。結果として探索者という存在に歯止めをかける事にした」


「それがライセンス」


 その言葉に爺ちゃん達が、そして雑賀さんが頷く。


「手足の延長にしたかったのだろう。その計画は頓挫したがな」


「それは……なんで?」


「ライセンスの取得はいくつも条件が課された。華族や財閥なんて言われた者達の縁者はそれを通る事が出来た。一方でただの民草にはとても手が届かない内容だった」


「お金とか、信用の問題?」


「それもある。だが一番は国の匙加減よ。あまりに多くの戦力を用意しても危ないと踏んだ政府は狭き門を用意した。そしてわし等はその門をくぐらなかった」


 ん? くぐらなかった?

 くぐれなかったではなく?


「あのね幸ちゃん、ライセンスの取得ができなかった人にも種類があるの」


 婆ちゃんがお茶を飲みながら語る。


「まず純粋に試験に落ちた人。狭き門に弾かれた人ね」


 これはわかりやすい、現代社会でも受験や就職と門をくぐれなかった人は大勢いる。


「次に知らなかった人。理由は情報が届かなかったとか、ダンジョンの中に潜っていて時期が悪かったって人もいるの」


 純粋に情報の取得に送れたという事か。

 現代で言うなら受験の申し込みに遅れたという感じかな。


「あとは政府のやり方に異論を覚えた人。今でこそ緩和されたけれど、当時は銃殺されるかもしれないほど厳しい取り締まりがあったの」


 さしもの探索者と言えど、低レベルの内は銃やナイフで簡単に死ぬ。

 確か歴史の授業でその辺を語ってたっけ。


「見せしめもあったわ。けど、政府もその全てをどうにかできるほどじゃなかったの」


「付け加えるならば、政府としては清廉潔白で立場のある人物を英雄としたかった、という意図もあります」


 雑賀さんの言葉にも納得はいく。

 それこそどこそこのお嬢様が最先端を行く探索者で、レベルもずば抜けて高く、悪を許さないとなれば庶民の希望となりえる。

 だけど、それは政府の傀儡だ。

 そしてなまじ立場を持っているから使いにくく、庶民にとってはやはり遠い世界。

 だからこそGHQの要請に応じて華族や財閥の解体が行われるのを良しとして、同じ庶民であると、むしろ世間知らずの者達としての貢献を狙ったともいえる。

 一方で無辜の民から生まれる英雄は、時に国家に反旗を翻すかもしれない危険分子と見なされることになる。


 それこそジャンヌダルクだ。

 下手に発言権を与えれば、政治の知識もないのに突拍子もない事を言い出しかねない。

 それを暴力で解決しかねない存在など危険以外の何物でもない。

 だから情報を渋り、狭き門を見せかけだけでも用意した。


「あとは私達のように足抜けこそしないけれど、国の方針に従わなかった、従う必要のなかった人達よ」


「必要のなかった……高レベル?」


「正解だ。政府の対応は後手だった。故に銃殺などできないほどの力を蓄えた者達で一部のダンジョンを独占し、戦後弱り切った軍を相手に戦い抜くことができた。そもそも奴らはダンジョンの素人、籠城戦をするにしても燃料も食材も全て賄える要塞があるようなものだからな。最終的に折衷案を取り付ける事ができればいいと考えていた。その矢先だ」


「アメリカでスタンピードが発生した時機と、ダンジョンが占拠される直前、どちらが先かまでは調べられていませんが同時期です」


 あぁ、そういう事か。

 つまるところ国としては探索者が必要不可欠だと考えた。

 だから公式にダンジョンに潜る事ができるライセンス持ちを用意した。

 一方でもぐりの探索者、ライセンスなんか知った事かという相手とも共存する事にした。

 そして爺ちゃん達は国の縛りを不要とした、一騎当千とも呼べる存在になっていたからこそ、権力と暴力の戦いは暴力に軍配が上がり、国の混乱が落ち着くまでは見逃されてきたのだろう。

 その後完全にライセンスが必要になったのはここ20年くらいと聞いている。

 その頃には爺ちゃん達ファーストは大半が引退、残った人員のほとんども健康面などを理由に拡張された門をくぐる事が出来なかったのだろう。


「……ちなみに、爺ちゃん達は歳を取ってからライセンスを取ろうとしなかったの?」


「歳が歳で、仕事もあった。婆様は知らんがな」


「私はもう引退していたつもりだったから」


 それは、なんというか勿体ないな。

 だから俺みたいな、今回の恩寵で変化したり強くなった探索者を逃すまいと国が躍起になっているのも頷ける。

 変に利権を意識しすぎたせいで、高レベルの探索者の大半を上手く制御できなかったのだから。

 そしてそれが雑賀さんに向けられた悪感情にあったのだろう。

 自分たちの時の仕打ち、そして俺を囲い込もうとする方針、手のひらをかえすような行いに腹を立てていたのだ。


「……好奇心から聞くけど、爺ちゃん達のレベルってどのくらい?」


「ふぅむ、そこの護衛さんとはやりあいたくないのう。どちらかが死ぬじゃろうし、それは老いた儂が先に音を上げる可能性が高い」


「私はやってもいいけれど、手加減はできないから怪我をさせてしまうかもしれないわねぇ」


 ……最低でも爺ちゃん達のレベルは3桁ってことか。

 そりゃ武術だのなんだのをある程度見ただけで真似られる実力もついているわけだ。

 あと強さに対して貪欲な所も、納得がいく。

 そういう生き方をしてきたのだろうから。

 それこそ探索者をやっていたうえで、今でも元気に老後を迎えられるというのはヤクザとの縁を断ち切っても問題ないだけの実力があったという事だ。

 聞く限り闇市とかの取り締まりや、ケツ持ちをしていたというつながりを断つならばそれなりの実力が必要になってくる。

 相手だって探索者で、なおかつ対人戦、というか一般人に対してはかなり強気に出られる暴力のプロだ。

 そんな連中を相手にして、それで「割に合わない」と思わせられるだけの力をつけたとなればねぇ……。


「教えられることは多くない。じゃが儂らとてただ無駄に時間を重ねていたわけではない。若人の悩み位いくらでも聞こう。孫のたのみならばなおさらじゃ」


「そうねぇ。あの動きも勉強になりそうだったし」


 ……たぶん、この人達は必要に駆られてというのがきっかけだったんだろう。

 けどそれは生き方の中に、強くあるべしという軸を打ち立てた可能性が高い。

 少しでも力を、技術を手にしたからわかる。

 圧倒的にレベルが上の俺でも、爺ちゃん達には勝てないという事が。

 そして雑賀さんも、恐らくは爺ちゃん達に勝つのは不可能だろう。

 いや、手段さえ問わなければどうとでもできるかもしれないけれど、真っ向勝負になったら……うん、やめておこう。

 そういうのは考えない方がいいかもしれない。


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