0020話 たまには作者も読者も叩いてみよう(PV数水増し説について)
「小説家になろう」の運営や作家さんがアクセス解析のPV数を操作している。水増ししてランキングを操作していると主張している人が複数いる。
思わず苦笑してしまった。
どうもこういうPV数を操作していると主張する人達は他のサイトのブログ・ランキング等を参考にしてそういう事を主張しているようだ。
その根拠となるものは、まず「小説家になろう」の会員数に比べPV数がありえないレベルで多いという理由が一つ。
次に有名人のブログのPV数よりも「小説家になろう」の人気作家の作品のPV数がありえないレベルで多いという理由もあげている。
中には「小説家になろう」の連載作品のPV数と、ブログのPV数を引き合いに出して証拠にしている人も見かけた。
人気作品が連載開始5日後には1日で5000PVに達し、既に連載数年を経た今ではPV数が億に達しているのがおかしいと主張する。人気のブログの有名人でもそれほどのPV数は稼げず、某有名人にいたっては2年間の累計PVは数百万だと主張する。
そこで、「小説家になろう」の運営が押したい作品のPV数を水増ししたり、作者さん達が不正行為でPV数を水増ししていると主張するわけだ。
それを信じている人達もかなりいるようだ。
だが、私はこの主張を全く信じていない。
ちょっと考えればわかる事なのだが「小説家になろう」ではPV数によるランキングを行ってはいない。
「小説家になろう」のランキングはブックマークと評価ポイントによるポイント制だ。
PV数を水増ししたからと言ってランキングが変動するわけではない。
「小説家になろう」のサイトを訪れた人は、PVの数を見て読む作品を決めるわけではないだろう。
そもそもサイト内にはPV数のランキングは載っていないのだ。
まぁ書籍化された本の宣伝でPV数が使われる事もあるが毎回というわけでもない。
どうも、こういうPV数に不正があると主張している人達は、他のサイトのブログ・ランキングと「小説家になろう」のランキングを、故意か否かはわからないが、混同しているようだ。
他のサイトのブログ・ランキングの中にはPV数によりランキングが決まるところもあり、一部、不正行為があると言われているようなランキングもある。
ネット上にはトラフィックエクスチェン◯というお互いのサイトを紹介し合うシステムがあり、これを利用すれば簡単に自分のサイトのPV数を伸ばす事ができる。これを不正に利用してブログランキングでの順位を上げるというわけだ。
(どこのサイトであれ不法な行為は行わないようにして下さい)
「小説家になろう」も、それと同じだと思っている人達がいるようだ。
だが、前述したように「小説家になろう」はPV数ではなくポイントによるランキングなのだから同じ考えで不正があると語られても困る。
「小説家になろう」では、サイトを見てもらってもブックマークや評価ポイントを貰えるわけではないのだ。
「小説家になろう」の会員数に比べPV数がありえないレベルで多いというのも頷けない。
何故なら「小説家になろう」のアクセス解析システムはログインした会員だけをカウントしているわけではないからだ。会員以外でもページを見た者はカウントするシステムになっている。
そしてライトノベルファンは世の中に多い。
例えば昨年、新聞に見掛けた記事だが、教育委員会で子供達がどれだけライトノベルを読んでいるかアンケート調査をした事が載っていた。
小学生の5割、中学生の4割、高校生の3割が読んでいるという結果が出ている。
人数に直すと約720万人だ。
高校生以下のライトノベル読者の数でだ。
当然、その中には「小説家になろう」で作品を読んでいる者もいるだろう。
子供達のお小遣いは限られている。無料で書籍化された作品もある程度は読める「小説家になろう」を利用していてもおかしくはないのだ。
これに大学生と社会人でライトノベルを読んでいる者達をプラスすればどうなるか。
とてつもない人数になるだろう。
今やライトノベル読者は社会人でも読むというより、社会人が主力となっているとまで言われている。
ちなみに「小説家になろう」の読者の年齢層は26.8%が高校生以下だ。
逆に言えば73.2%が大学生以上の年齢層だ。
もうちょっと詳しく言えば23歳以上の読者は55.6%にもなる。
これらの数字は2014年にカドカ◯とここの運営会社の協力して出版された「この小説家になろ◯がアツイ!」に載っていたものだ。
実は私も会員になる前からここの作品を読んでいた。
作品を投稿するために会員になったが、それ以前は読み専門としてならわざわざ会員になる理由もなかったからだ。
感想やコメントを書き込めるか、書き込めないかの違いぐらいしかなかったので。
それはともかく、「小説家になろう」の会員数とPV数を比較するという事には意味がなく、それを不正の証拠になんかできないという事だ。
「小説家になろう」のライトノベル作品のがPV数が、有名人のブログのPV数より上に行くのはおかしいと主張しているのも私に言わせれば、それこそおかしな話だ。
そもそも有名人だから、ライトノベル作品に勝って当然という考えが大きな間違いである。
その論で行けばPV数だけでなく書籍の売り上げでも有名人が勝つ筈だ。
だが、実際には必ずしも全ての書籍でそうとはなっていない。
一例として堀江貴◯氏をあげてみよう。
堀江貴◯氏は有名人だ。テレビにも何度も出ているし、色々お騒がせな話題を世間に提供もして来た。
知っている方も多いだろう。
この人は1998年に初めて本を出してから、これまでに50冊以上の本を出している。
その累計発行部数は2017年の時点で232万部だ。
一方のライトノベル作家に伏見つか◯さんという方がいる。
「十三番目のアリ◯」という作品でデビューしたが、このシリーズは4巻で打ち切りとなっている。
つまりその時点ではあまり有名でない酷い言い方をすれば二流のライトノベル作家だったと言えるだろう。
しかし、その次に書いた「俺の妹がこんなに可愛いわけがな◯」のシリーズがヒットし、2008年から2013年までの間に全12巻を出し、500万部の累計発行部数となった。
つまり、堀江貴◯氏よりも全くの無名だった伏見つか◯さんは、5年で500万部という数字を出して、有名人である堀江貴◯氏の19年間で232万部という数字を追い抜いている。
伏見つか◯さんの例は別に珍しいものではない。
それまであまり売れなかったライトノベル作家さんが新しいシリーズを始めたら人気に火が付き数百万部を売り上げたなんて話は幾らでもある。
平坂◯氏の書いた「僕は友達が少な◯」というシリーズがある。
平坂◯氏もこのシリーズで人気が出る前はそれほど有名というわけでもなかった。
しかし、このシリーズは人気が出て、シリーズ開始から6年で累計700万部を突破している。
鎌池和◯氏は「とある魔術の禁書目◯」シリーズでデビューした。その初作品で人気が出て、このシリーズは一大ロングセラー作品となり、10年後には累計で1500万部を突破している。
これらの例はライトノベルにおける氷山の一角に過ぎず、それまで無名のライトノベル作家さんが人気作をだして有名人よりも本の発行部数で優っているなんて例は枚挙に暇がない。
つまり有名人の本より売れているライトノベルは山ほどあるのだ。
それを考えれば、人気ライトノベル作品のPV数が、有名人のブログのPV数より上に行くのは何もおかしい事ではないだろう。
ライトノベルを見下す考えが心の根底にあるからこそ、ライトノベルは有名人に勝てないという事を言い出しているのではないだろうか。
しかし、現実は違うのだ。
これにはもう一つ問題点があって、それは「女房の妬くほど亭主もてもせず」と変わらないという事だ。
つまり、自分の好きな有名人はとっても人気があると思いたくなるし、そう思いがちだが、実際に第三者視点から見て見るとそれは案外違うという事だ。
前述した「某有名人にいたっては2年間の累計PVは数百万」という話だけれども、芸能人の市川海老◯さんは2013年にご自分のブログで月間PV数が1億2千万を突破した事を話しておられる。
繰り返すが月間PV数が1億2千万なのだ。4年前の話しだが。
それに比べたら連載数年でPV数が億に達したライトノベルのある事がそれ程不思議だとは思えない。
と言うより、市川海老◯さんと比べれば「某有名人にいたっては2年間の累計PVは数百万」のその某有名人を過大評価し過ぎているのは明らかだろう。
自分がその某有名人を好きなあまり客観的評価ができずにライトノベルと比較しているとしか思えない。
それ故に有名人のブログのPV数よりライトノベルのPV数が上に行くのはおかしいという主張には全く頷けない。
更に注意しなければならないのはサイトによりPV数の計測システムが必ずしも同一ではないという事だ。
ただ、そのページを訪れただけでカウントするシステムになっている所もあれば、一定の時間ページを見ていなければカウントされないシステムを採用している所もある。
「小説家になろう」ではページを訪れただけでPV数にカウントするシステムを採用している。
だから私に言わせれば、そもそも同一のシステムを利用しているわけでもないのにPV数を比較する事自体が間違っていると思う。
また、私は運営が押したい作品の後押しをしてランキングに介入しているという話も信じてはいない。
PV数の操作なんて話は前述したようにランキングに関係ないのだから敢えてする必要も無い筈だ。
そもそもライトノベルの世界ではそれまでに、それなりの実績があったとしても次の作品が当たるかどうかはわからない。
よく新レーベル創刊時に、他のレーベルで活躍中の作家さんに新シリーズを書いてもらいそれを新レーベル創刊の目玉にして大きく宣伝するなんて事をしているが、その作品が必ずヒットするとは限らない。
スーパーダッシ◯文庫とかビーン◯文庫とか、他のレーベルでもそうだが、創刊時のラインナップとその時の宣伝を見ればわかる。
他のレーベルで活躍した作家さんを引っ張って来たがコケてしまった例がどれだけあるか。無数にあると言っていい。
ヒット作を出してもその次作ではこける事もある。
「攻殻のレギオ◯」の作者さんなどは、その代表例だろう。「攻殻のレギオ◯」シリーズは2014年の時点で累計400万部以上にもなるヒット作になったが、その次の「ドラグリミット・ファンタジア◯」は2巻で打ち切りとなっている。
そういう例は山ほどある。
それを考えれば運営があたるかどうかもわからない、まだアマチュアの作品をわざわざ押したりするものだろうか?
毎日たくさんの作品が投稿される中で、投稿されたばかりのアマチュアの作品をいちいち読んで、その中から作品を選んで便宜をはかるなんて事があるだろうか?
出版社とて実際には作品がヒットするかどうかなんてわからないのにだ。それも現在活躍しているプロでさえ次の作品が当たるかどうかはわからないのにだ。
そんな労力を使うよりは自然淘汰を経てランキングを上がって来た作品を吟味して書籍化した方がまだリスクも少なければ労力も使わずに済むと思うが。
まぁ、こういう不正説を唱えている人達に共通する点は、人気の無い作家だという事だ。
自分達の作品が人気が出ないのをこうした会社や不正のせいにしているのだろう。困ったものだ。
最悪なのは不正があると会社名まで出して指摘しておきながら、それを証明する明確な証拠を提示せず根拠薄弱な推測に基づき書いている人がいる事だ。
被害者意識が強いために、自分は被害者だし匿名性の高いネットだからと何を書いても許されるとでも思っているのだろう。
でなければ、実名まで出して書いたりはしないだろう。
だが、それは明らかに一線を越えている。単なる誹謗中傷だろう。
反省してもらいものだ。
まぁ無理だろうが。




