「こんにちは。『友人』様」
週末、俺はマリーさんとイザベラ様のデート(仮)に同行することにした。
「今日はとてもいい天気ですね。絶好の行楽日和です」
「どうして貴方がここに居るの」
イザベラ様が俺を睨みつける。怒った顔もお綺麗である。そして、今日は彼女の服装も、大変お綺麗であった。
クロード・モネ。『日傘をさす女』。
イザベラ様の姿を見た時に俺の頭に浮かんだのは、印象派で有名な画家の名前とその作品名だった。
どうやら俺の記憶は基本的には曖昧だが、ふとした瞬間閉じた箱の中にあったパズルのピースを見つけるように、言葉や映像が思い浮かぶようだ。
青空を背景に白いレース付きの傘を持つイザベラ様。うん。美しすぎて最早名画である。
対して、マリーさんは学校の制服だ。
これは、彼女の家を思えば仕方のないことだとも言える。彼女の手持ちの服のなかで一番イザベラ様のそばに立っていてみすぼらしくない服が、学校が無料で支給してくれる学生服なのだ。
察しのいい俺は、私服ではなく制服を着てきた。
故に今、マリーさんと俺は『休日デート』風の学生二人組である。
「マリーさんが『友人』と出かけるとのことだったので、僕も『友人』として混ざりたいなと」
「……マリーに近付くなと言ったでしょう」
イザベラ様は、公爵令嬢としての私服。その装いは、俺たちからすると明らかに浮いている。
「はい。公爵令嬢様につきましては、人格否定はやめてくださいと僕も言いました」
にこっと俺が笑顔で言うと、イザベラ様はマリーさんさえいなければ舌打ちしそうな表情で俺を見た。
お嬢様。はしたないですよ。どうどう?
「マリーさん、今日は楽しく過ごしましょうね」
「あの……レイさん? これはどういうことですか?」
マリーさんは、俺の行動の意味がわからないのか、大変困惑しているようだった。うん。でしょうね。イザベラ様とお出かけするんですと俺に言っただけなのに、まさか俺が来るとは思わないよね?
「いいから今日は、僕に合わせて。今日だけでいいので、今日は貴方は彼女ではなく、僕を優先してください」
「でも」
「大丈夫。これも貴方の恋を叶えるための、僕の作戦の一つですから」
「一体二人で何を話しているの」
こそこそと二人で話をしていると、イザベラ様が不機嫌そうに仰った。
「いえ、何も」
ゆっくりイザベラ様のほうに振り返って答える。
おお。さっそく嫉妬ですか? いいでしょう。歓迎します。両片思いの嫉妬ほど、周囲から見ていてワクワクするものはないですからね。
俺は、俺の笑顔を見て顔を顰めるイザベラ様を見て、だんだん楽しくなってきた。
その嫉妬の炎をもっと強く燃やして、マリーさんに貴方の愛を伝えてくれ!
「今日は、楽しい一日にしましょうね」
『本日はお日柄も良いのであとは若いお二人で』と早期撤退を目標に、俺は心のなかで、強く拳を握りしめた。今日の俺は火に薪をくべる係だ。
恋のキューピッドになるために、俺は今日、全力で嫌な男を演じるぞ!!!




