悪役令嬢にヒロインとの仲を誤解されています!
「え?」
何故俺は、イザベラ様に呼び止められているのだろうか。
「先程も、これまでも――。貴方、ずっと私をつけ回しているでしょう?」
イザベラ様はもしかして、目が良かったり耳が良かったりするのだろうか?
まさか、俺の完璧な尾行がバレようとは!
「貴方、目立つから周囲の反応でわかるのよ」
どうやらイザベラ様は、俺の存在を周囲の人間で気付いていたようである。
「気の所為ではないでしょうか。たまたま、訪れる場所が一緒だった――とか」
「別に、私一人だけならどれだけ他人に見られようとどうだっていいわ。……でも、今は違う」
イザベラ様は、焦っているように見えた。
それは俺が初めて見る、『完璧な公爵令嬢』とは違う表情だった。
「答えなさい。貴方、マリーのなんなんですの?」
「…………うん?」
予想外の質問に、俺は目を瞬かせた。
「まりーさん……ですか?」
「そう。親族でもないのに、どうしてあの子とよく話しているの」
「それは……」
『貴方に、マリーさんを好きになってもらうためです!』
そう言えたら、どれだけ良かっただろう。だが俺は百合男子である。恋心の自覚・愛の告白シーンを、俺が奪うことなんてできない!
「貴方の存在は彼女に不利益となる。即刻離れなさい。そして、二度と彼女に話しかけないで」
イザベラ様は、きっと俺を睨んで言った。
俺は、そんな彼女にヘラっと笑った。
マリーさんの前では今はまだ猫をかぶっているが、イザベラ様の反応から察するに、俺が今とるべき行動はただ一つ。
「――どうして、ですか?」
「どうして、ですって?」
「どうして貴方が、僕とマリーさんの関係に口出しを?」
決めた。俺、今日からイザベラ様を全力で煽ります!
「そんなの……!」
イザベラ様は、ぶるぶる体を震わせる。
「成績不良・言動行動理解不能! そんな人間があの子のそばにいて、不安に思わないほうがおかしいでしょう!」
イザベラ様は、大変過保護のようだった。
面倒見がいいし、マリーさん思いで――本当に彼女は、『悪役令嬢』になんて向いていない。
そう。彼女は悪くない。闇落ちさせる環境こそが悪なのだ。罪を憎んで人を憎まず。
俺は改めて、彼女の未来と俺の未来のために、恋のキューピッド作戦の続行を強く決意した。
「私は……私はっ! 貴方のような男が、あの子に不埒な考えを持って近づくなんて許さないわ!」
「マリーさんに対して不埒な考えはありませんが、僕が貴方と話すのはこれが初めてなのに、彼女との関係を例に挙げ、僕の人格を非難されるのは不愉快ですね」
俺はすっと目を細め、低い声で彼女に尋ねた。
「公爵令嬢である貴方には、その権利があるお考えで?」
「な……っ!」
まさかカウンターを食らうとは思っていなかったのだろう。
イザベラ様は思考が整理できず、固まっているようだった。
「僕とマリーさんを引き離したいなら、次はもっといい答えを用意してきてくださいね。では」
俺はそう言うと、イザベラ様を置いて帰路を急いだ。
そして、完全にイザベラ様の視界から隠れた場所で、俺は拳を天に突きあげた。
「嫉妬! ついに嫉妬まで来た!」
顔がにやけて崩れてしまう。
「こんなに速く効果が出るなんて……もしかして、カプ成立は近いのか?」
イザベラ様は、完全に俺に嫉妬していた。俺にはわかる。言葉、表情、行動――どれをとっても、男である俺が、マリーさんに近づくことへの牽制としか思えない。
「さて……これからどうしようかな」
百合に挟まる男は解釈違いだが、うまくいけばイザベラ様の嫉妬を煽り、マリーさんとゴールインしてもらうことが可能かもしれない。
「盛り上がってきたな」
拝啓、百合の神様。
キューピッド作戦は順調でございます。
敬具――いや、ここはあえて「かしこ」で締めくくりたい。
なんたって百合推しだからね。




