Mission! ドジっ子な妹と優秀な姉を演出しよう
翌日から俺たちは早速、『ドジっ子とお姉様』作戦を開始することにした。
最近、マリーさんは二人で考えたいくつかの行動を実践してくれた。
一、目の前で転ぶ
ニ、抱えていたプリントを落とす(拾ってもらう)
三、高い所にある本が取れない(マリーさんには無理でイザベラ様なら届く高さを狙う)
因みにこの三つ、全てイザベラ様は対応してくださったので、身分関係なしにイザベラ様が人間として尊敬できる人であることがわかる。
俺は最初、出会いのテンプレとして『曲がり角でぶつかる』を提案したのだが、マリーさんに「イザベラ様のお体に傷が一つでもついたら悲しくなってしまいます」と言われ時、俺は短慮な自分を恥じた。
人間力が高い二人なら、きっと仲良くなれるはずだ。
そして二人には両想いになったら、薔薇園に行ってほしいと俺は思った。
二人っきりの花園で、イザベラ様は穏やかにマリーさんを見つめる。「イザベラ様。この薔薇、イザベラ様の瞳と同じ色で綺麗です」マリーさんは赤い薔薇に手を伸ばす。だがその瞬間、マリーさんの小さくて柔らかな手に、薔薇の棘が刺さってしまう。「……っ!」イザベラ様の前で声を上げることができず、マリーさんはきゅっと自分の唇を噛んで痛みを堪え手を引っ込めるが、棘の刺さった人差し指からはぷくりと赤い血が滲んでしまう。「どうかしたの?」「何でもありません」怪我を隠そうとするマリーさん。イザベラ様は少し不機嫌な顔をして、いつもより強い力でマリーさんの手を掴むと、自分に引き寄せる。「怪我をしているのに、どうして私に隠すの?」「子どものようにはしゃいで……恥ずかしいです」イザベラ様に相応しくない人間としての行動をとってしまった――己を恥じ、手のケガを隠そうとするマリーさん。でもイザベラ様は、彼女の行動を許さない。「動かないで」イザベラ様はそう言うと、そっと傷口に口付ける。「い、イザベラ様……っ!」マリーさんの顔は真っ赤だ。イザベラ様は、そんな彼女を見て柔らかく微笑む。マリーさんにしか見せない、愛する人を見つめる瞳で。
「怪我の治療をしてあげる。さあ、私の部屋にいきましょう」
――……以上、俺の妄想である。
うん。素晴らしい。完璧だ。
俺は腕組みをして頷きながら、多少絵は描けても絵柄が百合に向いていないことを呪った。妄想を具現化できる力が欲しい。
まあ勿論、イザベラ様なら傷口を口に含むという行為はしないとは思うから、全て俺の願望である。美少女が恋人の手を取って、愛しげに口づける描写を俺が見たいのである!
そして俺は、二人の思い出の地となる薔薇園の、薔薇を育てる肥料になりたい。
「それで、イザベラ様が私に本を紹介してくださって、魔法について今度教えてくださることになったんです」
「へえ。それはすごい。個人授業ということですか?」
「はい! そうなんです!」
マリーさんは、完全に恋する乙女だった。
全てが微笑ましい。尊敬する大好きな人に、勉強を教えてもらうことになった――なんて。それを嬉しそうに俺に報告するところも、今日もマリーさんは可愛かった。
「イザベラ様に時間をとっていただくんです。次の試験では、成績をもっと上げられるよう、私頑張ります!」
マリーさんはそう言うと、拳を強く握った。
■
マリーさんとイザベラ様の勉強会は、第二図書館で行われた。
第二図書館は第一図書館よりは少し狭く蔵書が少ないが、その分人が少ないので、自習する生徒が多いのが特徴だ。ちょうど平民クラスと貴族クラスの教室の間にあることもあり(第三・第一図書館は貴族クラスに近い)、イザベラ様のマリーさんへの配慮が見える。図書館の立地の件もあり、第二図書館を訪れるのは、殆どが平民クラスの人間だ。
つまり――それ以外、貴族クラスの学生は、第二図書館では浮いてしまう。
「あ~~……。イザベラ様の『ご友人』の皆さんが居るなあ……」
二人のデートをこっそり覗くために第二図書館を訪れた俺は、イザベラ様のご友人たちのモブ三人組を見つけて溜息を吐いた。
「なんですの? あの子」
「平民の分際で、イザベラ様のお手を煩わせるなんて」
「不敬極まりないわ!」
彼女たちは、あからさまにヒロインが口にしないであろう罵詈雑言を口にしていた。
人を傷つけるための言葉。そんなもの、マリーさんやイザベラ様の耳に入れてはならない。
「こんにちは」
「きゃっ!」
俺は、美少年スマイルで『ご友人たち』に微笑んだ。
「すいません。僕、迷ってしまって。本を探しているのですが、どこにあるかご存じではないですか?」
そっと、用意していたメモを見せる。
本はジャンル的に、第一図書館にしか置いていないものだ。
「こ、この本なら、第一図書館にあると思いますわ。ね、ねぇ?」
「そ、そうね。ここにはないかもしれないわね」
「第一図書館にあるんですね! 教えてくださってありがとうございます!」
俺は少し大きな声で礼を言い、にこっと笑って、『ご友人たち』の内、一番背の高い令嬢の手を取った。
「――感謝いたします。心優しい方々」
「!?!?!?」
手の甲にそっと唇を落とせば、彼女たちは顔を真っ赤にして、逃げるようにその場を去った。
「……ま、これくらいのフォローはね?」
これで、邪魔者はこれでいなくなった。
俺は、イザベラ様とマリーさんの様子を本棚に隠れながら観察して、楽しげに談笑する二人を見て、ほっと胸をなで下ろした。
■
「いやー。今日は本当によいものを見た。作戦は順調だ」
百合のデートを鑑賞し、二人にバレないように先に図書館を出た帰り道、俺は腕組みしてうんうんと頷いていた。
「少し面倒になるかと思ったけど、この顔のおかげで解決できたし」
もしかして、影で物語を操る実力者って、こんな気持ちなんだろうかなどと思う。
だが俺のこの甘っちょろい考えは、氷のように冷たいイザベラ様の声によって完全にかき消された。
「――止まりなさい。レイ・シルフィード」




