大丈夫。これは、悪徳商法ではありません。
「でも、私みたいな人間が、イザベラ様に話しかけることはできません」
マリーさんはイザベラ様に負けない美少女だが、身分に大きな差がある。身分差は俺の中で萌え要素だが、彼女からすれば壁でしかないだろう。
「方法はあります。題して、ドジっ子とお姉様作戦です!」
「ど……どじっこ?」
『ドジっ子』とはオタクなら誰もが知る萌え属性だが、マリーさんは意味が分からないと首を傾げた。
俺は用意していた紙芝居を取り出した。
紙芝居には、俺自作の『ドジっ子』のイラストが描かれている。
「ドジっ子とは、簡単なことでも失敗してしまう人のことです。マリーさんには、これからそれを目指してもらいます」
「……あの。どじっこ……? というものになれば、本当にイザベラ様に私を見ていただけるのでしょうか?」
「イザベラ様は優秀な方です。そして、意外と情に厚い方だと思います。貴方が困っているのを見れば、イザベラ様は必ず、貴方に手を差し伸べてくださることでしょう!」
同情だろうと情は情だ。きっかけなんて、何であろうと構わない。
恋愛は、惚れさせたもん勝ちなのである!(たぶん)
「でもそんなことをしたら、きっとイザベラ様にも、イザベラ様のお友達にも迷惑が……」
『取り巻き』と言わないあたり、流石の正ヒロインだ。俺は嬉しくなって、にこっと笑った。
最近の流行だと、腹黒偽物聖女ポジなら確実に『取り巻き』と言っている。
腹黒キャラが籠絡される百合も読んでいて楽しくはあるが、俺はシスターフッド的な古き良き百合にときめきが止まらないのである。
ありがとうマリーさん。大人になるにつれて、穢れをしらずにいてくれて。
どうかこれからも、水晶の中に閉じ込められた水のように、死ぬまで清らかな魂のまま生きてほしい。
「大丈夫。要はイザベラ様に好かれたらいいんですから。イザベラ様さえ貴方の味方になれば、その他の対処は彼女がしてくれることでしょう」
俺の予想では、イザベラ様は面倒見がいいタイプだ。
自分にはかなり厳しいタイプだが、周囲の人間に甘さを垣間見せる瞬間を、これまで俺は何度も目撃してきた。
他の生徒が落としたペンを拾ってあげたり、怪我をした人間にハンカチを差し出したり……。それを見ている人間がいるいないにかかわらず、静かに他人に心を配る姿を、俺は(彼女に隠れて)何度も見てきた。
「じゃあ、決まりですね。これから一緒に、『ドジっ子』頑張りましょうね。マリーさん」
「は、はい……」
マリーさんは、学校卒業以来一度も会っていなかった同級生に突然チェーン店のファミリーレストランに呼び出され、その場で契約させられた悪徳商法の被害者のような表情を浮かべていた。
俺は、そんな彼女に天使のような顔で微笑んだ。
大丈夫。安心してくれ。マリーさん。
百合男子として、君を悪いようにはしないから。




