【最終話】悪役令息に転生したのでヒロインと悪役令嬢を百合HAPPYENDにしたら悪役令嬢の兄に目をつけられました。
「何するんですか! おかげで、殿下に挨拶できなかったじゃないですか!」
「したかったのか?」
引きずられるようにしてその場をあとにした俺は、漸く解放してもらってからそう叫んだ。
「当たり前です! 俺の兄とも親交があるようですし、失礼な態度はとれません! それに――」
俺は、殿下の表情を思いだした。
「あんなに、寂しそうな表情をしてたのに」
これもまた、俺の本心だった。
「……お前は。誰かが悲しんでいたら、誰彼かまわず助けるのか」
「かまわずっていうか、そもそもあの人は、この国の王族で――」
「そうだ。『魅了』の力が効かなくとも、あの方はこの国の王家の人間だ」
ノクス先輩の声は厳しかった。
「人を従えるのには長けている。自分の欲しいものは――本当に欲しいものは、望めば全て手に入る方なんだ」
俺はその言葉の意味が、一瞬よくわからなかった。
「彼が手にしなかったものは結局、彼が手に入れないことを選んだものにすぎない。私の妹も、マリー・ステラも、彼にとって手放してもいい人間だったということだ。そして彼は――今回彼女よりもっと、欲しいものができた。相手が望むものを全てを与えて、誰にも奪われないよう、自分の籠の中にしまってしまいたい相手が」
「?」
空っぽの鳥籠を愛しそうに眺める彼が、今一番求める存在。
その人間の名前は――?
「――レイ・シルフィード」
「はい」
その時何故か、突然ノクス先輩が俺の名前を呼んだ。
「……えっ? 何ですか? 突然。俺の名前を呼んだりして」
どこで話が変わったんだろう。殿下が執着する人物――その人のことは、彼は俺にはまだ内緒なんだろうか?
「……いや、なんでもない」
真剣な目をして俺に話をしていた筈の彼が、少しの間の後に俺から視線を逸らす。
「それよりお前が前言っていた小説、作りたいというなら、私が支援しよう」
代わりに嬉しい提案があり、俺の頭はすっかりそれで埋まってしまった。
「それってつまり――ノクス先輩が、俺の創作のパトロンになってくれる、ということですか?」
できれば百合小説を刊行したいけど、この世界で百合小説を出していいかは調査しなくては。
「どうだ? 国王付きの王宮魔法使いよりも、ずっと自由で楽しそうだろう?」
「はい!」
剣と魔法のファンタジー。この世界で、新しいことを覚えるのは楽しくもあるけれど、遊ぶことはもっと楽しい。
俺は自由を愛している。
この世界も魔法も、まだわからない俺にとって、殿下が提案したことよりも彼が見せてくれる未来のほうが、よほど近くてわかりやすい。
俺がいて、マリーさんがいて、イザベラ様がいて――それから、ノクス先輩がいる。
ノクス先輩はイザベラ様が大切で、イザベラ様はマリーさんが大切で、俺は、イザベラ様とマリー様の二人の関係が大好きで。
俺の手の届く限りの人の幸福を願って生きることが、今の俺にとっての幸福に他ならなかった。
「ノクス先輩」
俺は、これから続く幸せな時間を夢見て彼に笑った。作り物なんかじゃない。本物の、とびっきりの笑顔だ。
今――俺の居場所はここにある。
俺が好きなものを、好きでいいんだと、肯定してくれる人たちのところに。
「これからもずっと俺がノクス先輩に、百合の素晴らしさを教えて差し上げるので、覚悟しておいてくださいね?」
俺がいたずらっ子っぽく言うと、ノクス先輩は一瞬目を見開いて――。
「……善処する」
それから何故か静かに微笑んで、優しい目で俺を見て頷いた。
了
最後までお付き合いありがとうございました。
もし「面白い」・「続きが気になる」と思っていただけましたら、☆☆☆☆☆での作品評価、フォローなどで応援いただけますと、今後の創作の励みになります。
※番外編後日投稿予定・続編は執筆悩み中です(需要があれば・・・)。
朝霧いお




