「あの光が、私は眩しい」
連絡なく公爵邸にやってきた王子様を無下にすることも出来ず、マリーさんはそのまま、王子様とデートすることになってしまった。
場所は、あの大噴水のあるエリアだ。
王子様は学生服に着替え、マリーさんを気遣いながらエスコートしていた。
「くっ。流石王子様。エスコートがうまい」
「……」
ちなみにこの尾行、今回はイザベラ様も一緒である。デートを覗き見しながら、イザベラ様は気が気では無いようだった。
イザベラ様は俺のフォローでなんとか一度目のデートは成立(?)、二回目のデートはお互いが譲歩していたのに対し、王子様は完全にマリーさんを優先して動いていた。
マリーさんのこれまでの人生を思うなら、考えうる最適解。お姫様扱いではあるけれど、彼女の日常を侵食しないエスコート。
彼女が何が好きで、何をしてほしいか――先読みに先読みを重ねた行動。
まさしく、『理想のデート』だ。
「エドワード様!」
二人がデート(仮)をしていると、少女が駆け寄って王子様に花を差し出した。
「ありがとう」
エドワード様は王子様らしく微笑んで、子どもから花を受け取る。少女は頬を赤らめて去っていく。
『エドワード・クラウン』は、国民に愛される王子様だ。彼が街を歩くだけで、彼に挨拶をして贈り物を贈る。
そして彼らの視線は、当然隣を歩くマリーさんへと向けられる。
「エドワード様。そちらの女性は……?」
俺は、王子様がどう出るか観察した。
既成事実を作るためだけのデートならここで肯定するだろうし、もしただ純粋にマリーさんの意思を尊重しつつ口説こうとしている(あるいはそのふりをしている)かの分かれ道だ。
彼は――。
困ったような顔をして、人差し指を唇に当てた。
秘密の関係。
まだ、口に出すことができない関係性。
願望と尊重を表すなら、ある意味ここはあえて、「言葉にしない」のは確かに最善かもしれなかった。
マリーさんは、王子様の行動に驚いていた。彼女自身、ここで断言されると思っていたのかもしれない。
身分の低い片思いの相手に、あえて逃げ道を残すのは、本来王子である彼には必要のない行動だ。
「さあ。行きましょう。ステラ嬢」
王子様はマリーさんの手を引いた。マリーさんは、彼の手を振りほどけない。その光景を見たときに、イザベラ様は立ち上がって二人から逃げようとした。
当然だ。恋人を目の前で王子様にとられるなんて、受け入れられるはずがない。
「イザベラ様!」
俺は彼女を追いかけて、その手を握って引き止めた。イザベラ様は、泣きそうな顔をしていた。
「やっぱり、私じゃ駄目なのよ」
「え?」
「これが、マリーの幸せかもしれない。あの光が、私は眩しい」
「イザベラ様……」
俺は――考えた後に、イザベラ様に言った。
「逃げないでください」
最初は、短く厳しい口調で。それから、相手の気を引いてから、本当に伝えたいことを述べる。
「イザベラ様。僕は貴方が好きです」
「……は?」
泣きそうな顔をしていたイザベラ様は、俺の突然の告白に固まっていた。
「僕はイザベラ様も、マリーさんも好きです。だから二人が笑っているのを見るのが、僕は大好きなんです」
「……」
「どうか逃げないでください。貴方が好きになった人は、そんな簡単に心変わりするような女性でしたか?」
イザベラ様は、俺の質問には答えなかった。でも否定しないことが答えだった。
マリー・ステラは、イザベラ・ヴァーミリオンを裏切らない。たとえ、王子様に求婚されたとしても。
そして、マリーさんと王子様の元に戻った俺たちは、王子様がマリーさんに再び求婚するのを目撃した。
手には、一〇〇本の薔薇の花。
「今日君と過ごして、改めて君という人を好きになった。どうか僕の人生の伴侶として生きてくれないだろうか」
大噴水の前での告白。
でも聖なる水は、マリーさんとイザベラ様の時のように、二人を祝福することはなかった。
「ごめんなさい」
マリーさんは王子様の花を受け取らなかった。
「私は、殿下とは結婚できません。私には、愛する方がいるんです」
マリーさんは真っ直ぐ王子様を見て、彼の好意を拒絶した。
「その方が笑ってくださるだけで、私は世界で一番幸福な人間だと思えるんです。だから私は、その方を泣かせるようなことだけは――殿下を選ぶことだけは、絶対にできません」




