俺が恋の橋渡ししたいのは、イザベラ様だけなんです!
王子様のお招きを受け、俺はお迎えつきで王宮に足を運ぶことになった。
「それで、どうしてお前がついてきているのかな? ノクス」
「殿下に失礼があってはいけませんので」
王子様から招待されたことを告げると、ノクス先輩は同行すると言って譲らなかった。
「なんだい? それは。彼の保護者でもあるまいし。まあいい。行こう」
■
「わあ……っ!」
王子様が俺たちを案内したのは、王宮内の植物園だった。
植物園には世界各国の植物が植わっていた。寒冷地にのみ咲くという花から、南国のフルーツまで。ノクス先輩の本で、知識としてしか知らなかったものが全てここにはある。
「どうかな。気に入った? 君の兄は、ここが好きだったんだけれど」
視界いっぱいに緑が広がる。心なしか、空気が美味しい気がする。
「はい。僕も大好きです!」
俺は、思わず元気よく頷いた。
「おい」
「いひゃい」
すると、何故か俺と王子様の後ろを歩いていたノクス先輩に頬を抓られた。
「なにするんですかっ!」
「顔をそう緩めるな。殿下の御前だ」
「それを言うなら、殿下の前で頬をつねらないでくださいっ!」
俺は声を荒げてノクス先輩の手を払った。王子様は、そんな俺たち二人を見てくすくす笑った。
「二人は仲がいいんだね」
「殿下。これは手のかかる弟のようなものです」
「僕には口下手でシスコンな兄はいません」
あと、人のこと「これ」って呼ぶな!
俺の兄は人たらしらしいので多分口が上手いんだ! 俺の兄は口下手じゃないから、たぶん貴方みたいに先に手は出さない!
「ここは僕の庭のような場所でね。お気に入りの場所なんだ」
「いろんな植物があるんですね」
「そう。いろんな国から取り寄せているんだ。ここにいるだけで、旅でもしているみたいだろう?」
王子様はそう言うと、俺に微笑んでくれた。
『一〇〇本の薔薇を君に』のエドワード・クラウンは、本来マリーさんをイザベラ様や俺から守る正義のヒーローである。
金髪に青の瞳。まさに、正統派の王子様という風貌は、普通の少女なら誰もが恋に落ちるに違いない。
中を歩いていた俺たちは、植物ばかりの空間に、不似合いな鳥籠を見つけて王子様に尋ねた。
ステンドグラスのような美しいテーブルの上には、金色に輝く大きな籠が置かれていた。
「鳥を飼ってらっしゃるんですか?」
「いや、今は居ないよ」
王子様は、なぜか苦笑いした。
「昔、母上からいただいた小鳥を飼っていたんだけれど、逃げてしまったんだ」
王子様はそう言うと、そっと籠を優しく撫でた。
もしかしたら、大事な鳥だったんだろうか?
それを尋ねるより先に、王子様は俺に話を切り出した。
「僕の話はこれくらいにしよう。今日、君をここに呼んだ理由は、ちゃんとわかっているよね? マリー・ステラという女性について、君の意見を聞きたい」
俺は、ゴクリ唾を飲み込んだ。
「ま、まりーさんは……」
イザベラ様の最愛の女性である。だが、それを伝えることはできない。
「マリーさんは、誰にでも分け隔てなく接する方です。僕は、ノクス先輩に勉強を教わる前は、勉強のことで悩んでいました。影で顔だけだと罵られ、悩んでいた時に、マリーさんはその噂を知ってもなお、僕に変わらずに接してくれました」
俺は、精一杯アピールした。
マリーさんが優しくても、貴方が特別じゃないんですからね! ……と。
だが無駄な足掻きだったのか、王子様としては俺の情報に頷いていた。
「分け隔てなく他者に接することのできる、王妃にぴったりな女性ということだね」
違う!
俺が真意が伝わず悶えていると、ノクス先輩が小声で俺に言った。
「お前は何言ってるんだ」
「だって……! 僕が! 僕が『好き』な相手のことを悪く言えるわけないじゃないですか!」
これでもだいぶ抑えている。本当なら大好きなマリーさんについて布教したいくらいだ。
俺はノクス先輩にバトンをパスした。
頼んだノクス先輩。シスコン兄として、マリーさんの評判を落とすのを頑張ってくれ!
「彼女は、一般クラスの生徒です。魔力の高さを評価されていたのに加え、最近は……私の妹と、とても仲良くしています。妹が、今最も――いえ、唯一信を置いている女性と言ってもよいでしょう」
「なるほど。つまり、公爵令嬢に認められるくらい、彼女は素敵な女性ということだね」
「はい?」
ノクス先輩はにっこり王子様に微笑まれ、鳩に豆鉄砲でも食らったような顔をした。
はい墓穴! 今、この人墓穴を掘りました!
「ますます興味がわいたよ。今度、二人であってみたいな」
ごめんなさい。イザベラ様、マリーさん。
俺もこの人も、二人のことが大切すぎて何の役に立ちません!
ポンコツ×2!!!!!




