王子様と遭遇しました
「ノクス先輩まだ来ないな。ここで待ち合わせ、って言ってたのに」
王子様の対策のため、俺とノクス先輩は作戦会議をすることにした。しかし時間になっても彼は現れず、かわりに何故か王子様が俺に話しかけてきた。
「君は確か、シルフィードの」
「でっ殿下!? えっ。あ、お、王国の……わかかき……」
まさか、校内で話しかけられるなんて!
俺が言葉に詰まっていると、王子様はくすくす笑った。
「堅苦しい挨拶はいいよ。君はあの人の弟なのだし、僕たちは、そう――同じ兄を持つ、親戚のようなものだと考えてくれたら嬉しいな」
「しんせき……?」
さすがヒーロー心が広い!
でも、貧乏伯爵家の次男坊が、次期国王相手に『親戚』なんて許されるのだろうか。
「ありがとうございます。殿下にそう言っていただけて嬉しいです。とは言っても、実は目を覚ましてから、僕はまだ兄には会えていないのですが……」
「そうなのかい? 君の兄には、昔世話になったんだ。幼い頃は、共に遊んで貰ったりもした。君の兄は才ある人で、辺境伯から剣の指導を受けていたんだ」
今はその分駆り出されても居るようだけれど。
「そう……だったんですね」
全て俺のせいである。
「君の話は、兄上からよく聞いていたよ。自分の命より大切な弟だと。そう考えると、いくら討伐とはいえ、君が目覚めたのに会えていないというのは、少し可哀想な気もするね」
「兄上は、殿下から見てどういう人ですか?」
「君と、君の父上に似た瞳を持つ人だよ。美しくて、優しくて――みんなの憧れで、そして強い」
王子様は、まるで兄上を心から慕っているみたいだった。
「王都に彼がいないからこそ今はノクスや僕がもてはやされているが、彼が戻ってきたらそうはいかないかもしれない」
「そんなにですか!?」
そういえば、母上が兄上はモテていたと言っていたっけ?
「二人とも美人だから、君も引く手あまたかな? 君の兄は異性だけでなく、同性も好かれていたしね」
「えっ」
「本人は苦笑いしていたけれど」
「へえ、へええええ……」
どうしよう。会ってもない兄の知らなくていい情報を知ってしまって、俺は複雑な気持ちになった。
兄上は脳筋で、有能で、男女問わずもててたんだ?
……へえ。
「君たちは兄弟揃って、人に気に入られるたちのようだね。君たちのその妖精の瞳は、人を惹きつける力があるのかもしれない」
――『妖精の瞳』?
俺は首を傾げた。
「それは……この目のことですか?」
「そう。その色を持つのは、シルフィード家の直系だけだ。昔、人に恋をした妖精が、人に姿を変えて子をなした。子どもは美しい瞳を持っていて、あらゆるものを見通したと言われている」
異世界にも、異類婚姻譚って存在するんだな。
因みに俺は人外百合も守備範囲だけど、まさか俺の家系はそんなんじゃないですよね?
……まさかね?
「あらゆるもの?」
「心当たりはあるかな?」
「視力には自信があります」
シルフィード領の特産物は、前世で言うブルーベリーだ。
ものすごく目に良さそうである。
「あははははは! 君は、彼とは違う意味で面白い人材のようだね」
俺んの答えに、王子様は声を上げて笑った。
それ、いい意味ですか?わるい意味ですか?
……暗に、俺のこと馬鹿っぽいって言ってませんか!?
「レイ・シルフィード」
笑い泣きの涙を拭いて、王子様は俺を見た。
「僕は君ともっと話がしたいな。今度王宮に、僕を訪ねてきてくれるかな?」
「はい。わかりました……って、はい!?」
なんで俺が王宮に!?
「君は、あの『マリー・ステラ』嬢とも交友があるんだろう? 友人である君から、彼女について話が聞きたいんだ。僕は彼女を、僕の王妃にしたいと考えているからね」
突然の言葉に、脳の処理が追いつかない。
「……まじかよ」
サラッととんでもない約束を取り付けられた俺は、王子様が去ってからも、呆然と立ち竦むしかなかった。




