時代は百合ジュリです!(百合の世界にロミオはいらない)
「どういうことですか!」
王子が一般クラスの少女に一目惚れをして求婚した。
この話は、瞬く間に広がった。
「どうやら彼女の能力の高さが、『異能』のせいで殿下にバレてしまったらしい」
「意味がわかりません。『異能』ってなんですか?」
魔法とは別の力がこの世界には存在するのか?
そんなの、『一〇〇本の薔薇を君に』には書いてなかったのに!
「王家の『異能』は『魅了』だ」
「……『魅了』?」
それって、普通ざまあされる悪役キャラ(特に偽物聖女ヒロイン)が、悪役令嬢の立場を奪うために持ってる設定にされる能力じゃないんですか!?
「『魅了』はある意味洗脳なんだ。王家の保有する魔力と比較して、能力値の低い人間に対して、誰もが王家の人間に好意を抱くようになっている。イザベラに『魅了』が効かないことは分かっていたが、今回のパーティーで、彼女も『適う』ことが分かってしまったということだ」
「『適う』、ってなんですか?」
「この国の王妃になる――殿下の婚約者になる資格だ」
「婚約者になる、『資格』……?」
「出会いの場でもある、と言っただろう?」
つまりあの日、王子様はマリーさんの魔力の高さに目をつけたのだ。
「――なんだよ。それ」
俺は思わず怒りに震えた。
「イザベラ様もマリーさんも、勇気を振り絞って今があるのに」
王族なら、何を望んだっていいというのか。愛し合う二人を引き裂いても?
身分が高ければ、そんな暴挙が許されると?
「分かっている。お前は、そういう人間だということは。先に説明せずに悪かった。だが私も、まさか彼女が『そう』だとは思わなかったから……」
ノクス先輩にとって、マリーさんは妹の恋人でしかなかった、ということなのだろう。
彼女がそこまで有能だとは思っていなかったと。
「わかりました。終わったことは仕方ないです。なので――」
起こってしまったことは仕方ない。今は気持ちを切り替えて、この件に対応すべきだ。
「とりあえず、イザベラ様とマリーさんを探しましょう。またこじれているかもしれないし」
■
校内でも二人の姿を見つけたノクス先輩は、すぐに彼の装身具に触れて魔法を発動させた。
「イザベラ様! 待ってください。イザベラ様」
周囲に二人の会話が聞こえないようにするための魔法かつ、このエリアに人が入らないよう、妨害をすることもできるものらしい。
「私が好きなのは、お慕いしているのはイザベラ様です。殿下との婚約なんて有り得ません!」
マリーさんは、イザベラ様の愛を語る。
「イザベラさ……っ」
「マリー」
イザベラ様は人がいない場所で立ち止まると、マリーさんの体を引き寄せて抱きしめた。
「私のマリー」
マリーさんを呼ぶ声には熱が宿る。
「貴方を手離すなんて、もう私には出来ないわ」
「離しません。私が一番大好きなのは、イザベラ様です」
俺は、その光景を見ながら――。
「……っ!」
声をあげて叫びたくなった。
絶対にときめいては駄目なのに、わかっているのにときめいてしまう。
理想の関係が今ここに!
「うう。百合ろみじゅり……ゆり……百合ジュリ……」
王子なんて、ロミオなんて消してしまえ(百合過激派)。
俺は心の中の織田信長がこんにちはした。まあ流石に殺せとはまでは言わないけれども。
「お、おい。あまり前には出るな」
「あ」
隠れながら二人から覗き見、興奮した俺はうっかり倒れてしまい、なぜか俺はノクス先輩に押し倒される格好になった。
正確に言えば、倒れて頭をぶつけそうになった俺を支えようと、彼が俺の頭の後ろに手を回したせいだけど。
俺は少し反応に困った。だって、こんな構図、誰の特にもならない。
押し倒されるなら、マリーさんじゃないとダメなんだ! 俺の需要なんか、この世界のどこにもないんだから!
「大丈夫か」
「あっ。ハイ……」
低い声で言われて、俺は妙にどきどきしてしまった。ノクス先輩は現代日本なら、声がいいからASMRかVTuberでも稼げそうだ。
ただ、ノクス先輩は何でもできるようでどこか不器用な人だから、キャラになりきって誰かに愛を囁くとかは向いてなさそうだ。
多分ノクス先輩は、誰かを好きになったら誰よりも一途なタイプだ。
ノクス先輩は基本あまり笑顔を見せない。
でも、きっと特別な人に対しては、無意識に仮面を外して笑みを浮かべてしまうんだろう。いつも真面目な顔した人に、心を許した笑顔を向けられてしまったら、どんな女の子だってつい恋に落ちてしまうに違いない。
「……ノクス先輩」
「なんだ?」
「マリーさんに絶対こういうことしないでくださいね。僕、百合からのNTRは求めてないんです!」
イザマリからのエドマリも、イザマリからのノクマリも俺はお断りだ! 百合に割り込む男はお願いだからこの世界から滅んでくれ!
「何の話だ」
「ノクマリNGってことです。僕はイザマリしかいりませんっ!!」
「のく……まり……???」
ノクス先輩は困惑の表情を浮かべていた。知らない概念を並べ立てられたら、誰だってそうなる。
「声がしたかと思ったら、何をなさっているのですか。お兄様」
「え? レイさんと、ノクス様……?」
だが俺たちは騒ぎすぎてしまったらしい。俺とノクス先輩は、うっかり二人に見つかってしまった。
「すいません! あの、私たち、お二人の邪魔をしてしまいましたか?」
「いえ何も問題ありません」
俺はきっぱり言った。
マリーさん。別に俺とノクス先輩はそういう関係じゃないんですよ。
甚だしい勘違いです。
この人は単に、身内認定の年下に過保護なだけです。オーケー?




